悪役の苦悩

第1話 悪役は今日も……

 「行くよ!」

 「はい!」「うん!」


 魔法少女。この町にはそんな存在がいる。

 今から二年前、突如として現れた怪人。人々を襲い街を破壊する怪人に、対抗するかのように現れたのが魔法少女だ。人々を怪人から守るために戦い、超常的な力を持って怪人を圧倒する正義の少女たちである。


 これはそんな少女たちに、圧倒されつつも日々を生きる悪役の話である。


 


《本編》


 「あっちい」


 市立柳橋学園。そこそこの偏差値でそこそこの知名度を持った普通の学園。そんな普通の学園に通っている俺もまた普通の人間で、これから先の人生普通じゃなくなることなんてない。と、そう思って過ごしていたのが懐かしい。


 二年に上がってすぐのことだ。帰り道に怪人に襲われた俺は神の悪戯ってやつなのか、ただの人間でありながら怪人を倒しちまったらしい。

 その結果、怪人のお偉いさんに目をつけられてしまい、なんやかんやあって今や立派な悪役である。


 「おーい。浮かない顔してると幸せが逃げるよ?」


 顔を覗き込んできながら話しかけてきたのはクラスメイトの佐鳥綾香だ。俺のクラスで最も元気がいい女の子と言っていいだろう。もちろん仲がいいわけではない。彼女は誰に対してもこうなのだ。


 「そうか、忠告ありがとう」

 「うんうん。ほんとはもっと笑ってほしいけど、とりあえずはいいや。じゃ、幸せ逃がさないようにね~」


 パタパタと下駄箱のほうへ走っていく佐鳥。その姿を少し目で追った後、俺は行き先を変更することにした。


 少しは自分の人気を自覚してほしいものだ。ああも積極的に話しかけられては返事をするしかない。が、返事をすると周りから嫉妬の視線が突き刺さるのだ。

 ま、先のは彼女の気まぐれだろうし、そこまで気にする必要もないだろう。

 

 そんなフラグらしいことを考えながら、教室ではなく保健室のほうへ足を進める。予鈴がなってからでも保健室からなら十分に間に合うし、周りからの視線に耐える必要もない。

 最高の一人空間に心躍らせて、勢いよく扉を開けて……勢いよく扉を閉めた。


 「何も見なかった。うん、きっとそうだ。見間違いだ」


 自分にそう言い聞かせ、一瞬視界に移った化け物を記憶の中から削除する。よし、俺は何も知らない。

 きれいな180度ターンをして、その場から急ぎ足で逃げた。



 〈佐鳥綾香視点〉



 「嫌な感じがする……」


 私、佐鳥綾香は友達と話しているときに、ふとそう感じた。こういう時の私の勘は煩わしいくらいによく当たる。自分の直感を信じて、友達に一言断りを入れ教室を飛び出す。


 「お願い、勘違いであって」


 学校のような人口が密集している場所で怪人を野放しにしてしまったら、きっと一瞬でとんでもない程の被害が出てしまう。

 だから、自分の思い違いであってほしいと切に願いながら嫌な空気の漂うほうへ直行する。


 あと少しで到着するというところで、いきなり目の前で扉が吹き飛んだ。

 

 「あ”?」


 扉を吹き飛ばして出てきたのは、虫の頭をした二足歩行の怪物だった。腕と足の筋肉が肥大化しているのか、異様に手と足が太い。


 「くっ、当たってほしくなかったのに!」


 けど、そこまで被害が広がっているようには見えない。あたりを見ても壊れているのは今しがた吹き飛んだ扉くらいだ。

 私は即座に周囲を観察して人がいないことを確認した後、両手を重ねて胸の前に突き出す。


 「あんまり周りを壊したくないの。だから、避けないでね」


 怪人にそんなことを言っても意味がないことは理解しているけど、戦う時というのは本音がつい漏れてしまうものだ。


 「キ”キ”」


 気持ちの悪い鳴き声を発した瞬間私の前から一瞬で消え、背後から音がする。おそらく自分の速さを見せつけて、こちらの戦意を削ごうとしているのだろう。


 「あ~もう!動かないでって言ったのに」


 でも、私からすればそんなのは関係ない。背後を取られようが、懐に入られようが、私が認識できているなら問題はない。問題があるとすれば、今から学園の一部を壊してしまうことくらいだ。


 「はぁ……。月の力を持って、私に対峙する敵に罰を。光よ、私の敵を貫け!」


 次の瞬間、私の背後から悲鳴のような断末魔が数秒間響き消えた。


 とりあえず、任務完了かな。退治は終わったけど、あーー。後ろ見たくないなぁ。


 嫌で仕方ないが、現実は受け止めなければならない。それは二年間魔法少女をやって、一番実感してきたことだ。

 後ろを振り向き、自身が破壊した(作り出した)惨状を見る。


 「いつもよりは、多少マシ……か、なぁ」


 そういう風にポジティブに考えないとやっていけない。

 これから地獄の後始末の時間である。


  



 ・週一話出せたら良いなぁ

  

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