12話「遺跡調査の説明とは」

 街の提示版を見つけて偶然にもそこで遺跡調査の張り紙が出されていることを発見すると、トレジャーハンターを生業としている俺としては見過ごすことは出来ずに、この怪しさ満点の遺跡調査に参加することを決意した。


 そして肝心の具体的な内容が一切書かれていないことから何処かで説明が行われる筈なのだが、改めて提示版に張り出されている紙に視点を当てながら黙読していくと、しっかりと一番下の方に説明会が行われる会場らしき名前が記されていたことに気が付いた。


「んーと、説明会の場所は【長靴の酒場】って場所か。なんか如何にも曲者ばかりが集まりそうな名前をしているな……。まあそういうとこの方が話やすいこともあるってことかね」


 酒場の名前を目の当たりにすると、そこはまるで隠れた名店のような名前をしていて、恐らく洒落た店では話せないような会話が日夜繰り広げられているに違いない。

 まさにアウトロー、無法者達が集まる酒場の名前にはぴったりだ。


「だが俺はこの街に到着したばかりだから何処に何があるのかも分からん。取り敢えずは時間内までに酒場を探さないとな。全てが水の泡になっちまう」


 提示版に釘付け状態の視線を無理やり引き離して指定の酒場を探す為に歩き出す。

 そして歩き始めて五分ぐらいが経過すると、それは突然の出来事であり自らの目を疑う程の出来事が起きた。


「おいおい……嘘だろ? 俺ってやっぱし超絶運が良い男なのか?」


 顔を上に向けたまま足をその場に止めて思わず自らの運勢を再確認すると、視界の真ん中には【長靴の酒場】という例の名前が書かれた木製の看板が掲げられている店が堂々と鎮座していたのだ。


「ほぇー……こうも円滑に物事が進むと今後が多少怖いが、ここで説明会が行われることは間違いないな」


 店の外見と場所を事細かに把握して覚えると、あとは予定の時刻までどう時間を潰すかということを思案するが、今は体を休めることも大事なことかも知れないとして考えると、まずは適当な宿屋を探すことにした。


「うむ、仕事を行う前に睡眠は必要だな。でないと冷静な判断能力を欠如させてしまう。……それに森の中で数週間暮らしていたせいで碌に寝れてないしな」


 両腕を組みながら誰に言う訳でもなく自身を納得させるために口にすると、止めていた足を再び動かして近くに手頃な値段の宿屋がないかと探し始める。


 そして一軒の宿屋を見つけることが出来ると値段は手頃……とはまではいかないがそれなりの値段の宿屋を無事に見つけることができて、一泊契約を交わすと説明会が行われる時間まで体を休めることとした。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 それからベッドに倒れ込むようにして寝込んだあと数時間が経過してから目を覚ますと、良い感じに睡眠も取れて頭の中が軽くなり体の気だるい感じも解消されていた。


「う~ん、よく寝たなぁ。これなら仕事に影響もでないだろ」


 腕や肩や首を回して疲れが抜けたことを実感すると、やはり人間には適度に質のいい睡眠を取ることも大切だとして改めて思い知らされる。


「さてさて、今の時間を確認するとしますかね。まあ俺の予想だと17時頃だとは思うんだけど――――づぁぁっ!? まじかよ、やっべ!」


 寝起きの余韻に浸りつつ悠長な言葉を呟きながら腕時計へと視線を向けると、そこには驚愕の時刻が表示されていて予定の時刻まであと数分のところであった。


「やべえやべえ! 急いで向かわないと遺跡調査に参加できなくなっちまう!」


 残された時間が僅かだという事実を知ることとなると、慌てて身支度を済ませると共に宿屋を飛び出した。そのまま歩みを止めることはなく寧ろ次第に加速させていくと、昼間に見つけた例の酒場へと全力で駆けて行く。


 そしてあっという間に酒場の前へと到着すると時間的には間一髪大丈夫という感じであり、


「はぁはぁ……。くそ、せっかく寝て回復したのにこれじゃあ何の意味もねぇな」


 乱れた呼吸を整えつつも額に滲む汗を手の甲で拭うと扉の前へと進んで手を当てる。


「よっし、中に入るぞ。なに、大丈夫だ。まだ時間的には始まっていないはずだ!」


 何かの手違いで説明会が早い時間に開始されていないことを願いつつ扉に当てた手に力を込めると、木製の扉からは立て付けの悪い音が大きく響いて意図せずとして注目を浴びることとなった。

 なんせ扉を開けた途端に店の中で酒を飲んでいた野郎達が、一斉に威圧的な視線を向けてきたのだ。


「やっぱりアウトローな奴らが大勢居るな」


 だがそんなことで一々臆していたら何もできないとして、特に気にせず空いている席へと向かい椅子に腰を落ち着かせた。しかし初心者冒険者とかがこの場に居たら、スキンヘッドの厳つい顔をした男が睨みを利かせた途端に腰を抜かすかも知れんがな。


「ご注文はお決まりですかー」


 そう言いながら一人のウェイトレスが水の注がれたコップを机に置くと、そう言えばここは酒場なのだから何かしら品を注文しなければならないことを今思い出した。

 既に頭の中には財宝や宝のことで一杯であり、一刻も早く遺跡調査の説明が聞きたいのだ。


 しかし冷水だけで店に長居を決め込むのは、日本で生活していた頃から苦手としていて、それが平然と出来るのは高校生と大学生ぐらいだと考えている。

 まあこれは俺の住んでいた地域の治安が悪いことが影響しているのかも知れないけど。


「あーじゃあ、この果実酒とやらを頼む」


 だから取り敢えずとして適当にメニュー表を開いて目に付いた品を注文することにした。


「かしこまりましたー」


 そして気の抜けるような声で返事をしたあとウェイトレスは後ろへと下がった。

 これで暫くは長居を決め込んでも店から文句を言われることはないだろう。


「んー、にしても周りの厳つい連中どもは全員が俺と同じ目的の奴らなのか?」


 注文を終えて心に余裕が生まれると周囲を見渡してみたのだが、この酒場には自分と同じ匂いのするトレジャーハンターや見るからに魔物退治を生業としている冒険者達が、皆一様に渋い顔を晒して椅子に座りながら何かを待ち続けている様子なのだ。

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