S級パーティーを追放された盗賊、初心者パーティーに拾われる。~この盗賊、とんでもない能力を持つ大怪盗だった~
名無し
第1話 盗賊、追放されてしまう。
そこはS級パーティーの宿舎。
その中で盗賊という役割の俺は、リーダーの戦士ワドルの部屋に呼び出された。
何か嫌な予感がする。
「おう、ルファン、来たか。お前を追放する!」
「……」
あー、やっぱりそう来たか。
ワドルを含めて、最近はみんな露骨に俺だけ無視してきたからな。
「ワドル。俺を追放するなら、理由だけでも教えてもらえないか?」
「理由だと? お前、そんなこともわからないバカなのか?」
「ああ、わからないね」
俺は目立つほどの活躍はできなかったんだろうが、盗賊として申し分のない働きはしてきたはずだ。
パーティーのために様々なものを盗んできたと自負している。
遥か遠くにいる敵の気配、宝箱の中身、ボスモンスターの最上級レア、モンスターの関心、危険なトラップの数々等、これだけでも極一部にすぎない。
一見盗めないようなものまで盗むだけでなく、それを活かすことができるのも俺の特徴だ。
当たり前のことを当たり前にやっただけかもしれないが、それでも手を抜くことは一切なかった。
だから、それらが最高の働きではなかったにせよ、追放された理由を教えてもらうのは当然の権利だと思っていた。
「それなら、たっぷり教えてやる。俺だけじゃなく、メンバー全員でな!」
「何……?」
ワドルが意味深げにニヤリと笑ったかと思うと、後ろの扉から続々とパーティーメンバーの3人が現れた。
「「ワドル様!」」
回復術師のサラと弓手のエリスがワドルに抱き着く。
仲が良いのは知っていたが、ここまで露骨にいちゃつくとは。もう隠すつもりもないらしい。
さらに、魔術師のアンナがワドルの前に立ち、俺を睨みつけてきた。
「サラ、エリス、アンナ。よく来てくれた。さあ、一人ずつ順番にダメだししてやれ。ルファンがいかに無能なのかを思い知らせてやるんだ!」
「はーい。ルファン……サラはね、あなたのこと大っ嫌い。なんでかっていうとね、あんまり目立たなくて地味なおっさんだから。サラは、強くて目立つ人が大好き!」
回復術師のサラに堂々と宣言されてしまった。でも実際、盗賊は縁の下の力持ちなところがあるからな。地味といわれてもどうしようもない。
次に、弓手のエリスが挑発するようにウィンクしてきた。
「ルファンってさあ、なんかいかにも自信がないように見えるのよね。あたし、そういう軟弱な男には興味ないの。ワドル様は自信に満ちてるから好きよ」
そうか、俺には自信がないように見えたんだな。前に出すぎないように謙虚に生きてきたつもりだったが、それが誤解された格好らしい。
そして、いよいよ魔術師アンナの出番が来て、俺に対する視線は一層厳しくなった。
「最後は私ですね。ルファン。時々、パーティー資金がなくなってたことがありました。それを盗んだのはあなたですよね? だって、盗賊っていうジョブですから。泥棒くらいお手の物ですよね」
これは驚いた。確かに盗みは得意だが、盗賊っていうジョブと本物の盗賊はまるで違うわけで、偏見に満ちた意見としか思えない。
しっかり者のアンナなだけに、パーティー資金を盗むのを許せなかったのはわかるが。
ただ、こうもヘイトが集まるような状況だと、何をどう言い訳しても意味がないしな。
「それに関しちゃ、寝耳に水で俺はやってない。だが、そう思われても別にどうでもいい。ここから去るわけだからな」
「おい、開き直るつもりか!? この泥棒野郎が!」
ワドルに胸倉を掴まれる。
「何度も言う。俺は盗んでない。そんなに殴りたきゃ殴れよ」
「こいつ!」
ワドルが顔を赤くして殴ってきたが、微塵も痛くなかった。強がりではなく、殴られる寸前にそのエネルギーを盗んだからな。
「さっさと出ていけ、負け犬野郎!」
「わかったよ。あ、一つだけいいか?」
「なんだ? 文句でもあんのか!?」
「いや、別に文句はない。俺の盗んだアイテムについてだが……」
「アイテムを返してほしいのか? 返すわけねえだろ! あれはお前が盗んだアイテムなのは確かだが、パーティーで獲得したものだから、俺たち全体の資産だ!」
「いや、そうじゃなくて、たまにはメンテナンスしたほうがいいって言いたかったんだ。どんなに良いものでも、小さな綻びから壊れることもあるしな」
「余計なお世話だ、この腐れ泥棒が! 大体、お前如きが盗んだものなんて大したことねえんだし、仮に壊れても新人の盗賊に盗んでもらえばいいだけだ!」
「……」
かなり良いものっていうか、俺が盗むものはモンスターの持っているアイテムの中で最高峰のものなんだけどなあ。
まあ、鑑定能力のない彼らにその価値を教えようと思っても無駄か。
それでも、今まで仲間だったんだ。別れの挨拶くらいは済ませておくべきだろう。
「ワドル、サラ、エリス、アンナ、今までありがとう。さよなら」
「「「「さっさと出ていけ!」」」」
罵倒に押し出されるようにして、俺はその場を跡にした。
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