人肌が恋しくなってしまった私はエルフの奴隷を抱き枕として買った。寝る時以外は好きにしていいと言ったら何故か押し倒された
シャルねる
第1話
……寂しい。
もう何年……何十年……何百年一人で過ごしてきたのかは忘れてしまったけど、ふと私はそんなことを思ってしまった。
今までこんな感情、一度だって思ったことなんて無かったのに、一度思ってしまったらその感情が私の中から消えなくなってしまった。
かといって、人がいる街に行くのは嫌だ。……人がいるところに居たくなくて、わざわざこんな危険な魔物がうようよといる森の奥の方に家を建てて住んでるんだから、嫌に決まってる。
……でも、人がいるところに行かないことには、この感情は消えない。
自分の感情なのにも関わらず、そんなことを思ってしまっている自分に腹を立てつつ、私は人がいる街に行くことを決心した。……本当に嫌だけど。
人がいるところにただ行くだけじゃこの気持ちは収まらない。
人と触れ合わなくちゃダメだ。と頭では分かってるんだけど、他人に私の体に触れて欲しくなんてないし、私だって他人に触りたくなんてない。
……こんな矛盾を抱えて、この気持ちを収まらせることなんてできるのかな。
なんて考えた時、私はふと奴隷という存在を思い出した。
奴隷なら、買えば私の所有物になるんだし、ギリギリ他人じゃなくなって触れるかも。
それに奴隷の方だって変な奴に買われるよりは私に買われる方が幸せなはず。
だって、私は人肌に触れたいだけで、それ以上なんて求めないし、そんなものは寝る時だけ一緒に寝てくれれば十分だ。
つまり、それ以外は奴隷の身分であるにもかかわらず、好きにしてていいということ。
うん。いいかもしれない。
……一つだけ問題があるとするなら、私が住んでいるところは森の奥のかなり危険なところということくらいだと思う。
……だって、あんなところで好きにしていいと言われても、家を出ることすら出来ないだろうし。……家の周りには結界を張ってあるし、庭くらいはあるけど、それも別に広いわけじゃないしな。
……なんで私が私の所有物になるはずの奴隷にここまでしなくちゃならないんだ、とは思うけど、一度、不動産屋にでも行ってみようかな。
人と関わることが増えてしまって凄く嫌だけど、どうせ奴隷商に行ったら奴隷の商人と関わらなくちゃだし、あんまり変わらない……はず。
そんなこんなで、憂鬱な気分のまま、私は街の中……王都に直接転移した。
……門番とも関わりたくなんてないし。
……奴隷商も不動産屋もどこか分からない。
当たり前のことなんだろうけど、街並みが変わってて、全く分からない。
……取り敢えず、人が少ない方に向かって行こう。
単純に人が多いところは気分が悪くなるっていうのもあるけど、こんな大通りに奴隷商は無いと思うから。
いくら合法とはいえ、あんまりいいイメージを持たない人は持たないし、大体こんなところには無いんだよ。……少なくとも昔は、だけど。
そうして、気配を消してなるべく人を避けながら奴隷商を探していると、割と直ぐに見つかった。
「……あの、お客様でしょうか?」
奴隷商が見つかった、はいいのだが、どうしても中に入る勇気が出なくて外でうろちょろとしていると、とうとう店の人に声をかけられてしまった。いくら気配を消しているからといって、ずっと店の前でこんなことをしていたら当然バレるだろう。
思わず嫌悪の表情を表に出してしまいそうになるが、それだけは我慢した。
「……そう、です」
喋るのが久しぶりすぎて上手く喋ることが出来なかった気がしたけど、人が嫌いになってからはずっとこんな感じだった気もするし、あまり変わらないのかもしれない。
「失礼ですが、お金は?」
本当に申し訳なさそうに店の人はそう聞いてきた。
悪い人では無さそうと思うものの、やっぱり私の嫌悪感は拭われなかった。
……私の人嫌いが昔よりも酷くなっている気がする。
確かに昔から他人と喋ることなんて嫌だったけど、ここまででは無かったと思う。
「……ちゃんと持ってる」
そう言って私はアイテムボックスから出した金の入った袋を見せつけた。
「アイテムボックスをお持ちでしたか。失礼しました」
どうでもいいから、早く奴隷の元に案内して欲しい。
私の我慢が限界を迎える前に。
「では、どのような奴隷をお望みでしょうか」
「……犯罪奴隷じゃなくて、普通の奴隷の女の子」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
そうして、私は鳥肌を立てながらも店の人に案内をされ、色々と奴隷の女の子を見せてもらったけど、今のところどれもピンと来ていない。
なんて言うか、みんな覇気がない。奴隷なんて身分にいるんだから、当たり前なのかもしれないけど、いくら抱き枕にするだけとはいえ、覇気がないのは嫌だ。
人は嫌いだけど、私は人肌が恋しくて、ここに来たんだから、所有物になってもらうとはいえ、完全に物みたいな感じで居られても私の寂しいなんて訳の分からない感情が良くなってくれるかは分からないから、嫌なんだよ。
「こちらが最後となります」
もう最後なのか。
ここで良さそうな子を見つけられなかったら、また別の奴隷商に行って別の人に関わらなくちゃならなくなるから、嫌なんだけど。
どうせお金はあるんだし、最後の子がどんな感じの子であれ、一旦買ってみるか。
そうして案内されたところには奴隷だからか少し薄汚れた金色の髪に死んだような青い瞳で私を見つめてきているエルフの女の子がそこにはいた。
相変わらず覇気が……あれ? さっきまで死んだような目をしてたはずなのに、なんか、ちょっと、目に光が出てきた?
……どうせ最後の子は買おうと思ってたけど、最後の子が結局一番マシなのか。
「これ、買い……ます」
私は相手を嫌いな「人」と認識しないようにして、敢えて「これ」なんて言いながら、私はそう言った。
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