青春バンド女子とは付き合うな!
竹野きの
第1話 解散と告白
高校生になってから初めての文化祭が終わってすぐ、俺たちのバンドは解散した。
「まぁ……向いてなかったんじゃねぇの?」
諦めた様な表情でそう漏らしたのは幼馴染でボーカルの
顔やスタイルがいい事もあり、本性を知られなければそれなりだ。多分、新入生が入ってきた辺りで、本性がバレない間はモテるだろう。
「まぁ、そもそも俺たちとは音楽性が違うからな」
「それは部員が少ない以上仕方ないんじゃねぇか?」
続く様に口にしたのは、ドラムとベースで二卵性の双子というなんとも微妙な
まぁ、それはそうとして人生何でもかんでも思い通りに行く事はない。それは桐島兄弟も良く分かっていた。だからこそ、それなりの形になるバンドが出来そうな俺たちとバンドを組んいたし、人気が出るならそれでも良かったと思っていたのだろう。
だが、多少の実力があったとしても人気や才能の前では意味がない。文化祭祭では個性も才能も兼ね備えた美少女ガールズバンドに完膚なきまでやられてしまった。同じ部活という事もあり打ち上げでは騒いでいたものの、精神的な傷は大きく結局は解散する事となった。
「まぁ、仕方ないか……」
俺も解散を受け入れ、そう呟いてみたものの何故かメンバー三人の視線が冷たい。いや、ここは「そうだな」とか「別で頑張ろう」とでも同調する場面なんじゃないのか? 少なくとも半年は一緒にやって来たメンバーな訳で、実力があり明確な目標があった桐島兄弟はともかく、拓也に至ってはモテたいだけだし、どちらかと言えば才能とセンスでやっていただけだろ?
「言っとくけど、原因はお前だからな?」
「ちょっとまて拓也、何で俺が原因なんだよ……」
「ライブは俺たちの実力不足が招いた結果だ。それに関してとやかく言うつもりは無い。だが、打ち上げの時の事を忘れたとは言わせないぞ?」
「そうだ、俺たちの神崎さんが……」
「ああ……桐島達は分かる。だが、拓也は別に神崎の事は対して興味無かっただろ!」
「それは違うぜ亮太。俺はただ単に、俺より先に可愛い彼女が出来るのが許せないだけだ!」
「いやいや、お前はただのクソ野郎じゃねーか!」
俺は打ち上げの時、対バン相手でいわゆる【青春バンド女子】のバンド、【インサイトシグナル】のボーカル
「まだ俺、付き合うとは言ってないんだけど」
「はいっ! って返事していたのは聞いたぞ!」
「ちょっと待て。付き合ってくださいに(はいっ!)なら付き合っているだろうけど、好きですに(はいっ!)は付き合っていないだろ!」
「世の中の120%の感覚では、それで付き合ったに入るんだよっ!」
「えっ……マジで? 俺、彼女出来ていたのか? この状況で凄く言いにくいのだけど、
「亮太そのセリフ俺たちの前で言うとは……貴様、二度と笑えると思うなよ……」
「怖い怖い怖いー!」
つまり俺たちは音楽が向いていない訳でも、音楽性の違いなんかが原因と言う訳でも無く、【青春バンド女子】によって、解散に追いやられてしまったのだ。
「そう言えば俺、この後神崎さんに呼ばれているんだった……」
「クソっ、色々とモゲてしまえ!!」
「死なない程度に痛い目にあう呪いをかけてやる」
嫉妬と欲望が渦巻く中、バンドもメンバーも教室から解散した。俺は急いで彼女(仮)の元に向かう。文化祭が終わってすぐという事もあり、神崎さんのバンドも練習がお休みとの事で、待ち合わせの予定はギリギリだった。
彼女のバンド【インサイトシグナル】は、一つ年上でベースの
そんなバンドのボーカルが、同じ軽音部で面識はあったものの、何で拓也では無く俺なんかに告白して来たのかはよくわからなかった。それに待ち合わせ場所が体育倉庫の裏というのは、不穏な空気が感じられるし、やはりまだ付き合っていないんじゃないかと思っていた。
だが、待ち合わせ場所に付くと茶色いローツインの間からスマートフォンの画面を見つめ待っている彼女の姿が見える。
「ごめん、少し遅くなった」
俺の言葉に振り向くと、ハッキリとした顔立ちの彼女が少し八重歯を覗かせた笑顔を見せた。
「こっちこそごめんね、急に呼び出して……」
美人なヤンキーというか、ギャルの様な彼女は明らかにこの、殺風景な場所から浮いていた。告白されていた手前、何と声をかけるのが正解なのか……そもそも拓也が言う様に付き合っていると言う認識でいいのだろうか?
沈黙に耐えかねたのか、彼女の方から口を開いた。
「……あれから、連絡が無かったからね。私から連絡するべきだったのかも知れないのだけど」
「そうだよな、それなんだよなぁ」
「一応、付き合っているって事でいいのかな?」
「神崎的には大丈夫なのか? 一応、うちの学校の人気者なわけだし?」
「私はボーカルだから人気がある様に見えるだけ。本当に人気が有るのはあの三人だよ?」
「そうか? 神崎もその枠だと思うけどなぁ」
「枠かぁ……藤原くんには私の方が可愛いって言ってもらえると嬉しいのだけどね?」
「可愛い……よ?」
神崎は照れながらチラチラと可愛い八重歯を覗かせた。
冷静に考えると、俺なんかが相手にされる様なレベルではない。けれども知り合った入部当初はここまで垢抜けてはいなかった事もあり、「恋愛するならこんな子」と思っていた事もあった。
「あのね、付き合って早々にこう言う事言うのはおかしいかもしれないのだけど、一応、軽音部以外の人には秘密にしておきたいの……」
「それは仕方ないよな。神崎は有名人だし、俺もその方がいいと思うよ」
「良かった。本当は軽音部にも秘密の方がいいのかも知れないのだけど……」
「確かにそうだよな。でも、なんでわざわざメンバーがいる所で言ったんだ? やっぱりメンバーに秘密は無い方がいいからなのか?」
そう言うと神崎は、俺の方に近づきそのままゆっくりと首に手を回して来る。いきなりの行動に動揺し固まっていると彼女は耳元で小さく囁いた。
「それは、楓さんが藤原くんを好きだからだよ」
俺はなんとも言えない寒気と共に、一瞬時が止まった様に思考停止した。
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