第17話・死神の大鎌
郵送というのは時間がかかるものだ。現代でも集荷翌日の到着となることが多い。
それはそれとして、廉は大好きなゲーム、ウニーカ・レーテの世界へと舞い戻る。
それは、正午を過ぎた頃の話だった。そしてゲームの中では朝の出来事だった。
ウニーカ・レーテの一日は16時間。現実時間とは意図してずらしている。それはプレイヤーがいろんな時間帯をプレイできるようにするためである。
そういった細かい気遣いこそ、このゲームがβを経験した多くのプレイヤーに愛される原因だ。
レンはまず、鍛冶屋に向かった。火入れの上手いドワーフの店主がいる場所へ。
そこへ行くと、今日も仏頂面で客を待つ店主が急に笑顔になって出迎えたのである。
「よう、坊主! 注文の品、できてるぞ!」
そう言って、カウンターの中においてあったであろう布にくるまれた大鎌を取り出した。
レンはそれを受け取ると、店主はよほどその出来に満足がいっているのか、言った。
「早く布を取れ!」
言われるがままレンは布を取る。すると顕になる白銀と鈍色の大鎌は、これでもかと死を連想させる。
「すごい……」
白銀と鈍色が波打つように刃の中で紋様を作っている。所謂刃文だ。
「名付けて、死神の大鎌! 俺の最高傑作よ!」
店主のドワーフは一度集中を始めると、てこでも動かなくなる気質だった。故に一日、そのすべてをこの鎌と炉に向き合って作り上げたのだ。
「こんな、いいんですか!?」
レンにとってそれは頼もしい武器だった。
「いいも何も、坊主しか使えねぇよそんな武器! 防御力低下と攻撃力強化を可能な限り強めた。これなら小石に躓いたって死ねるぜ! それから、一撃死は一回のみ回避。諸刃の剣も良いところだ。そしてその攻撃力が780出ちまったぜ!」
攻撃力780はサーディル周辺で持っていていい火力ではない。防御力低下のデバフがあるからこそ達成できる火力である。
「おぉ……期待以上です! 本当にありがとうございます!」
レンにとってはこれ以上ない武器だった。レンにとって防御ステータスは死にステータスである。だからこそ、そんな武器がいいのだ。
「応! そんで、お前にくれてやったレイピアはどうなった? もう使わねぇだろ?」
それに関してはレンは少し申し訳なく思っていたのだ。
「すみません、昨日レイドボスと戦って折れちゃいました……」
しかし、ドワーフの店主はそんなこと気にしなかったのである。
「まぁ、ナマクラだしな! おい坊主、しょぼくれた顔すんな! ナマクラでレイドボスと戦ったんだ! 大したもんだ!」
そう言いながら大笑いして、背中をバシバシと叩いてくるのだ。
「うっ、いた、死ぬ!」
そう、レンは死神の大鎌を装備している。防御力が極端に低下してHPが減るのだ。もちろん街の中でキャラクターが死ぬことはない。だが、ダメージは発生するのだ。
「おっとすまねぇ、お前の鎌はそういう武器だったな!」
街の中でなければ死ぬところだったのである。しかし……。
「いえ、HP1なのでちょうどいいですよ! 瀕死調整ありがとうございます! じゃあ、試運転でもやってきますね!」
「お、応……」
死にかけで鎌の試運転に行くレンに店主は薄ら寒さを覚えたのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レンは配信を始めた。配信タイトルは『新装備お披露目』である。安直だが、レンの場合それでいい。
「やっほーみんな!」
配信が始まるなりワラワラと集まる観衆たち。数秒としないうちに同時接続者数が1000人を突破した。
スノウ:新装備と聞いて
ネギ侍:初見
おるとロス:背中に背負ってるやつ!?
†黒酢†:早く見せてよ!
と、コメントが流れるもので、これはもうさっさとお披露目すべきと思ったレンはジャンプをして背中を見せた。
そこには、白銀と鈍色の大鎌が装備されている。それを最低限扱うための筋力16もすでに達成済みだ。
「死神の大鎌です! ドワーフの店主さんが作ってくれたんだ! 攻撃力780だよ!」
瞬間、視聴者たちは慄いた。
アルバこぁ:ひえっ……どんだけ防御力犠牲にしたんだ……
朝神:一発で死んじゃうよ!
エビる:でもレンさん喰らいませんから
そう、攻撃力が高ければ高いほど犠牲にする防御力も高い。レンの防御力は0どころかマイナスだ。どんな攻撃を受けてもボーナスダメージを食らう。
「驚いたんだけどね、鍛冶屋の店主さんに背中バシバシやられただけでHPが1になったよ……」
さも当然のように話すが、普通のプレイヤーはそんな状態で街の外に出ようなんて思わない。一撃も喰らわないなんて、普通は無理なのだ。
アリ酢:初見だけどこの子怖い……
スノウ:これが俺達の世界一位だ
エビる:さすが世界一位格が違う……
アルバこぁ:お前だって二位だろうが!
そんなワチャワチャとしたコメントに混じって、レンに対して放たれた一個のコメントが目についた。
レンちゃんで抜き隊:切り抜き動画作っていいですか!?
そう、レンのストリーミングは切り抜きに適した死に方が何回もある。それ以外にも超絶技巧だってあるのだ。
「え!? 切り抜き動画作ってくれるんですか!? お願いします!」
レンとしては、どうにかストリーミングも収益化をしたい。切り抜き動画はそれに対する追い風だったのである。
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