【短編小説】女子高生のだらだらとゆるゆる ―楓とさつきの場合―

藍埜佑(あいのたすく)

第一章 夏の日のだらだら

 夏休みのとあるだる暑い日。

 田舎町の片隅にある古びたアパートの一室で、一人暮らしの女子高生、さつきは親友の楓と一緒にだらだらとアニメを見ていた。エアコンの効いた部屋の中、二人はゴロゴロとゆったりと横になりながら、アニメの感想を言い合っている。そんな中、時折チラチラとスマホに目をやっては、ネット上の親友、涼介からの連絡を待っているのだった。


「ねえさつき、涼介くん、今日も来ないと思う?」と楓がのり塩味のポテチを頬張りながら、ダレた調子で尋ねる。

「そりゃあ、まあ、来ないんじゃない? もう一週間も音沙汰ないんだしさ」とさつきはスマホを眺めながら、投げやりに答える。


 涼介とは、二人が共通の趣味であるアニメや漫画、ゲームを通じて知り合ったネット上の親友だ。リアルで会ったことはないものの、日々のチャットを通して、いつしか特別な存在になっていた。オタクの二人にとって、涼介は理解者であり、ちょっとだけイケメンで、ある意味で憧れの存在でもあったのだ。


「さつき」

「ん?」

「パンツ見えてる」

「うん」

「うんじゃなくて」

「何よ、もっと見たいの?」

「ぶっ飛ばすよ?」


 さすが男子がいない空間。二人はやりたい放題である。


「そういえばアイツ、この前『大事な話がある』って言ってたよね」と楓が思い出したように言う。

「うん。だから今日のこの時間に、チャットで話そうって約束したんだけど……」とさつきはため息をつく。


「「それ以上でも、それ以下でもないかー……」」


 二人は顔を見合わせ、同時につぶやく。

 涼介からの連絡がないことに、少しだけ寂しさを感じつつも、どこか達観したような表情を浮かべるのだった。

 約束の時間を過ぎても、涼介からの連絡はない。二人は携帯電話を見つめながら、今日見るアニメの話をしたり、最新のゲームの攻略法を語り合ったりして、だらだらと時間をつぶしていく。


「来ないね、涼介くん」

「まあね。けど、アイツならきっと理由があるはずだよ」


 さつきはそう言って、不安を振り払うように首を横に振る。楓も同意するように頷いた。彼女たちは涼介を信じていた。いつかは必ず、約束を果たしてくれるはずだと。そう信じることが、今の彼女たちにできる精一杯のことだった。


 アニメが終わり、二人は冷蔵庫からジュースを取り出す。コップに注いだオレンジジュースを一気に飲み干し、さつきは大きなゲップをする。


「ご馳走さまでした!」


 楓も負けじと、大きな声で言う。


「ご馳走さまでした!」


 満足げに笑う二人。だらだらとした時間が、また一つ過ぎ去っていく。


 窓の外は、夏の日差しが容赦なく照りつけている。セミの声が、ジリジリと響いてくる。そんな中、さつきと楓は涼介からの連絡を待ちながら、今日もまたアニメ三昧の一日を過ごすのだった。


 もしかしたら、このだらだらとした日々こそが、彼女たちにとっての青春なのかもしれない。それは何気ない、退屈な毎日の繰り返しではあるけれど、でもきっと、いつか思い出したときには、キラキラと輝いて見えるのだろう。


 しかしまだ二人はそんなことを考える歳でもない。


 さつきはソファーにゴロンと横になる。扇風機の風が、カーテンをそよがせる。


「ねえ楓、次はどのアニメ見る?」


 と、さつきが聞く。


「うーん、あのさ、今期の新作、まだ全部三話まで見てないじゃん。それ見ない?」


 楓が提案する。


「あー、それいいね。主題歌がめっちゃ良い曲だったやつあるよね」


 二人は二やっと笑い合い、また新しいアニメを見始める。今日も一日が、こうしてだらだらと過ぎていくのだった。


 涼介からの連絡は、結局その日も来なかった。でも、さつきと楓は気にしないことにした。今日という日を、思う存分楽しむことが大事なのだ。


 涼介のことは、また明日考えよう。そう思いながら、二人はアニメの世界に没頭していくのだった。


 だらだらと、退屈だけど、でもどこか心地いい。そんな夏の日の一コマが、ここにはあった。

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