雨の魔女の輪舞曲(ろんど)
風光
雨とアンデッド
第1話 エピローグ
いつからだろう。
何を見ても、心が、動かなくなったのは。
いつからだろう。
空腹を忘れ、眠ることを忘れ、この街を
いつからだろう。
鬱陶しいほどの雨の音を聞くと、自分が、誰かに、守られているような
そんな安堵感を抱き始めたのは。
そうだ。
僕はたった一つを求めて、永遠の時間を彷徨っている。
冷たさも熱さも感じることのない、
そして、この街はいつも雨だ――。
***
古くから魔女や魔物が住んだ街、ロンドン。
その大都会の一角には昔から『雨の魔女』の存在が囁かれていた。
夜な夜な雨の街を彷徨い歩くその魔女は、全身黒い服に黒い髪飾り、黒いブーツに黒い傘をさして、雨の中をやってくるのだという。
その者の行くところ、雨が降る――。
そんな言い伝えが、雨の日には誰からともなく語り継がれていた。
時は、今から150年前。
その日、雨の中、傷を負った瀕死のローデン伯爵は、路地に逃げ込んで物陰にうずくまった。
致命傷の胸の傷に加え、体中を撃ち抜かれて、大量に血を失っていた。
さすがにこれでは回復には時間もかかるし、こんなに失血した状態ではもう、奴らに捕らえられるのも時間の問題かも知れないな、と伯爵は大きく息を吐いた。
血の気のない白い頬はやつれた様に見えたが、鋭い目だけは生気を失わないまま暗闇で光っていた。
流れ出る伯爵の血により周囲の水たまりは赤黒く染まっている。
その色は闇の中で黒く紛れていたが、時折りの稲妻の光がそれを照らし出していた。
表通りの水たまりを蹴散らして走る何人もの追手と犬たちの足音にじっと耳を澄ましていた伯爵。
やがてその音が見当違いの方向に遠ざかっていくのを確認すると、安堵の息を吐き、己の血の臭いをかき消してくれた雨に感謝しながら、暗い空を見上げた。
ふと後方から声が聞こえた。
「あなた、死ぬの?」
突然の声に、伯爵は振り向き身構えた。
目の前に立っていたのは、黒尽くめの少女だった。
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