有機の一歩

@ykib3827

第1話 また私

 馬鹿が集まって叫んでは笑っている。人の物を壊して何が楽しいのか私にはわかりたくない。使えない大人は協調性がない私のせいにしたがる。じゃあなに?みんなと一緒なら万引きしていいわけ?んなわけないだろ。

 下校前に教室へ足を運ぼうとする私の目の前には昨日買った本が破かれ、イラストの少女の顔が床に転がっていた。うっかり教室に置き忘れていた私のミスだが、溜息をつかずにはいられなかった。箒ではわく。はわく。破れたイラストの少女が私を見つめているように見える。はわく。慣れたなぁ…

 5時になってもまだ明るい。嫌いな学校から抜け出した私の心も少し軽く、うれしい。家までの30分間、この時間だけが今日のことを忘れていられる。家に帰ると宿題をしないといけないからどうしても思い出してしまう。今日は何を考えようか。私を助けてくれる幼馴染がいいか、それとも転校生?急に現れたいいなずけもいいなぁ…

 家までの道のりは人通りが多く、自転車もよく通るためずっと妄想していると危ない。そのため時々音を聞きエコーロケーションをするのが安全に妄想するコツである。実際にやってみる。…小学生がいる。3人くらい。それと…1人いるかな?なんにも話してないけれど。

 妄想を中断させあたりを見渡す。やはり3人と1人いる。それも距離を離して。これはまあ、あれだろうなぁ。小学生でもうこういう図が出来るなんて人間はやっぱり高度な社会性を持っているってつくづく実感する。はぁ…見るのも嫌だしこのまままた妄想を続けよう。としたその時、目の前からハンドルが曲がってる早い自転車がこっちへ向かってきていた。見るからに外国人でよく見たらイヤホンいている。それどころか口を動かしている…まさか通話してる?とにかく横に広がってると危ないし子供たちに注意喚起しよう。

「おーい、自転車来てるよ」

…反応はない。会話に夢中で聞こえていないどころかふざけて押し合いを始めてしまっている。自転車はスピードを増してきているのに何をのんきな…しょうがない、

「ねえ、自転車」

「うぉっ!びっくりした!」

ランドセルを持ち上げるとさすがに気づいたのか反応が返ってきた。やれやれ…

「後ろ自転車来てるからふざけてると轢かれるよ」

「なんだよ偉そうに」

「せっかく楽しく話してたのに」

「お姉さん空気読めないって言われるでしょ?」

子供たちに嫌味を言われながら後方を確認すると自転車はガードレールを超えて車道側を走っていた。これなら轢かれることはないな。

「…じゃあいくよ!」

「え?」

子供たちの方を見ると3人とも私の体に触れているではないか。あっけにとられていると掛け声とともに私の体はガードレール側へと押されていた。

 子供たちの押し合いは意外と力強く、こんなにも飛ぶものと思っていなかった。急に押されたことで踏ん張りが利かずに後ろにあるゴミ捨て場へ倒れるはずだった。

 体制を立て直そうとしたら足が絡まり、真後ろから斜め後ろへ向かってしまった。そこは丁度ガードレールの境目で途切れており、そこから車道へ飛び出してしまった。

 車道にはさっき確認した自転車が走っており、衝撃はすぐに襲ってきた。こんがらがる頭に激しい痛み。直ぐには立ちあがれそうにない。息をしても痛い。痛いいたいいたい。何でいっつもこんな目に合わなければいけないのか。助けてよ。

 助けてもらえるわけがない。目に浮かんだ涙をふき取るにはまだ早いと言いたいかのように次なる不幸がこっちへ来てしまった。鳴り響く地響きを最後に咲子の意識は途切れてしまった。










 見慣れない天井。暗い…電気…

「いまは無理じゃ。夜中に電気をつけると看護師が見回りに来る。

そっか…。あれ?私誰と話してるの?

「妾」

「わらわ?」

声の聞こえる方へ顔を向けるとそこには色白で黒髪、赤くてきれいな目をした…これって…

「美紀?」

「誰じゃそれ?」

「私の読んでる本の…破られた…」

ここで覚醒。私交通事故にあったんだった。それでここは病院かぁ…また、か。何度目かなこういうの。って、回想している場合じゃないよ。

「あなたは?」

「童は美紀。お主がそうゆうたであろう?」

「いや、そうじゃなくって…」

「それじゃあ神様じゃ」

「神様ぁ?」

「そうそう神様神様」

胡散臭い…。でも目の前にいる姿は比江島美紀そのものだ。美人過ぎて久々に表紙買いしてしまった本の主人公だが、そんな人間現実にいるわけないし本物?いやでもなぁ…。

「神様はどうしてそんな姿でいるんですか?」

「お主が見えるようにするため記憶の中から鮮明に残っている奴の姿を真似ただけじゃ。目の前にいた方が会話しやすいじゃろ?」

口調や話し方といい神様っぽい。

「どうして神様が私に?」

「解らぬか?」

顎に手を当て、考えるポーズをすると

「…寝たまま話すのは辛かろう?体を起こしてみてはどうじゃ?」

「はぁ…。」

確かに話しづらいがどうして急に…あれ?なんで私こけてるの?まるで支えのないような倒れ方をどうして…

「あ…ああ…」

「…。」

無い…無い無い無い無い無い無い無い無い無い無い!なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで私なの!

「いかんな…」

呼吸が乱れてまた意識が遠のく中、看護師さんたちの声が聞こえた。

容疑者が目を覚ましました。

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