Eden

星るるめ

Eden

雨の匂いに導かれるまま


妙な懐かしさだけを抱え


たどり着いた最果ての岬で


僕はまたあの奇跡と出会った


会うのはもう3度目だったけど


それに名前があると初めて知って


激しく胸が高鳴った


あの子にも教えてあげたい


きっと驚くはず


きっと喜ぶはず


そう信じて疑わず


掟を破って


夢中であちらへ渡った


けれどそれは


あちらではすでに使い古され


とっくに飽きられた幻で


もはやなんの特別でもなくて



あの子は


笑ってくれなかった



一緒に宝箱に入れて持ってきた


ビー玉のキャンディも


折り紙のハートも


あの子は


「いらない」と言った



悲しいくらい


冷たい目をしていた



帰り道は存在しない


我に返り青ざめる僕


行く宛のない足元を照らす残酷が


ただ眩しかった



紛れ込んだ僕に構わず


世界はいつも通りの速度で


星を廻し、時を進め



やがて


迫り来るような季節の波が


僕までも飲み込んでいった



逃げるように春をほどいたら


澄んだ水が流れ落ちた



少し抗って夏を切ったら


きらきら眩しい宝石が詰まってた



あきらめて秋を開けたら


染まる夕陽が入ってた



そして静かに立ち止まり


そっと冬をめくったら


柔らかい綿に包まれた



あたたかくて心地良い



ここが最後の楽園なのか


優しい幻に抱かれて知る


エデン 君だったんだね


これが君の本当


これが君の全て


姿を見ることはもう叶わなくとも


今、穏やかな景色に


ゆっくりと溶け込んで


僕じゃない何かに


生まれ変わるその日まで


君の世界で


眠り続けるよ


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Eden 星るるめ @meru0369ymyr

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