第104話

 コガネムシ型のモンスターは甲虫類である為にそこそこの硬さがある。なので狙うならば関節などの装甲の隙間を狙うのが効果的なのだが、それも相応の技術力が要求される。


「アーミーアンツより硬い気がするんだけど!?」


「その感覚は間違っておらんぞ」


 このモンスターよりもランクが高い筈のアーミーアンツより堅牢なのはおかしいように思うが、アーミーアンツはその数の多さが極めて厄介である為にランクが高く設定されている。モンスターの硬さは関係無いのだ。


「因みに名前はコガネンよ」


「名前で隠せるほど可愛くないと思う」


 :それな。

 :何となくあの電車のゲームが思い浮かぶんだがwww

 :キングに進化したりしないよね?


「むぅ…仕事が無い」


「まぁ凪沙ちゃんの矢だと威力不足になっちゃうものね」


 凪沙が放った矢が、コガネンの背中の装甲に弾かれて虚しく地面に転がる。的確に隙間を狙わなければ、有効打にはなり得ないようだ。

 対する奏は[身体強化]と〖魔刀・断絶〗を併用する事で、何とか対処出来ていた。幸いなのは、コガネンの動きが比較的遅く脅威度が低い事である。


「うげぇ…」


 :乙女が出しちゃいけない声してるwww

 :でも分かるぞ。断面割とグロいんだ…


「こんなに硬かったらEランクにはキツイ気がするんだけど…」


「そうでも無いのよ。さっき瑠華ちゃんが倒したように、魔法耐性が凄く低いから」


 物理に強い半面、魔法耐性が極めて低いのがコガネンの特徴だ。まぁそれでも魔法が使える初心者は少ないので、やはり初心者向けとは言えないが。


 :でも魔法耐性低かろうが高かろうが、瑠華ちゃんには関係無さそう。


「って言われてるけど?」


「……魔力密度を高めれば、耐性を貫通する事は容易じゃ」


 :瑠華先生!

 :耐性貫通とかぶっ壊れで草。

 :魔力密度って?


「魔力密度とは魔法にどれだけ圧縮して魔力を込めたかを示すものじゃ。以前言った事がある[魔法制御]が高い程密度は上がるぞ」


「ほぇぇ…じゃあ弱い魔法も好きなだけ強く出来るの?」


「理論上はな。じゃがその分当然のように魔力消費量は上がる。奏はそもそも[魔力制御]が低い故、そこを鍛えねば話にならんな」


「うっ……」


 :がんば奏ちゃん。

 :はい! 私この前[魔法制御]を獲得出来ました!


「おお。それはよう頑張ったのぅ」


 [魔法制御]は[魔力制御]を限界まで鍛えることによって漸く獲得出来るスキルだ。それはかなりの労力を要するものであり、瑠華からしても十分賞賛に値する程である。


「……この配信ってこうやっていとも容易く常識壊されるのね」


「常識?」


「……【柊】の子達って常識が色々壊れてそうね。主に瑠華ちゃんのせいで」


 :それはそう。

 :純粋な顔で「何で出来ないの?」とか言われるやつだ…

 :完璧超人の瑠華ちゃんと比べないで…


「そこまで常識壊れてる気はしないけど…瑠華ちゃんだって【柊】の中では結構自重してるし」


「当然じゃろう。妾とて何処までが許されるかは理解しておる」


「……じゃあ瑠華お姉ちゃん。教科書忘れた」


「ん? それならば下駄箱にが…」


 :はいダウト!

 :普通は諦めるか持って来て貰うんだぞ。

 :それか取りに帰るか。

 :つまり飛ばすのは常識じゃない! …いや飛ばすって何?


「渡しておる木札の座標を元に物質を転送するだけじゃよ。そう難しいものであるまい?」


「いや普通に無理だからね!?」


 サナ、迫真のツッコミである。だが瑠華からすると物を転送する事くらい、人を転移させる事に比べれば随分と簡単なのだ。


 :え、マジでやってんの?


「私も昔瑠華ちゃんに頼んだ事ある。…お叱り付きで」


「忘れる方が悪いのじゃ」


 :それはそう。

 :転送も転移も自由自在なのか…

 :瑠華ちゃんに対してセキュリティが意味を成さないの笑えない。

 :まぁ〖認識阻害〗だけで幾らでも好きな事出来ちゃうから……


「それだけ知識を持っていたり能力を持っていたりするのに、そこまで騒ぎになっていないのは不思議ね?」


「与太話やホラの類いと考える者が大半なのじゃろうな。実際に妾が実践して見せている訳でもないしの」


「そういうもの…?」


 何処かそれも信じられず訝しげな眼差しを向けてしまうが、明確な答えを求めていた訳でもないのですぐに意識を切り替えた。


「……まぁ取り敢えず話を元に戻すわよ。榛名ダンジョンが不人気になっている原因の一つがこのコガネン達昆虫型のモンスターな訳なんだけど、そのドロップ品として稀に装甲が落ちる事があるの。これはかなり頑丈で便利な素材として注目されていて、近々買取価格が上がる予定よ」


「価格が上がる事なんてあるんですね?」


「モンスターは未だに未知の存在だから、その有効性が後に認められる事は比較的多いの。その結果として買取価格が上がるのだけれど、その逆もあるからそれは要注意ね」


「ほえぇ…」


 今回サナがダンジョン協会からの依頼を請け負ったのは、これを周知しておきたかったからというのもある。買取価格の変動は、注目されているモンスター以外だと気付かれない事が多いからだ。


「じゃあ格好の稼ぎ場って事ですね!」


「…間違ってないけど、女の子が満面の笑みで言う事じゃないと思うわ」


 稼ぎが大切とはいえ、それを可愛らしい女の子がハッキリと公言した事に思わず表情が曇ってしまう。


「稼ぎは大切かもしれんが、このモンスターは十分に対策をせんと痛い目を見るぞ」


「そうね。瑠華ちゃんみたいに火属性が使えれば攻略も楽なんだけど…」


「あと遠距離辛い。私仕事無い」


「近接武器ならハンマーとか、斬るより砕く系が効果的かな?」


「その武器もあまり人気がないのよねぇ…地味だし」


 ダンジョン配信というものがある関係上、傾向としてどうしても絵になる武器が人気になってしまう。相手を叩き潰す質量武器は敬遠されがちだ。


「…結局のところ、これじゃあ買取価格が上がったところで『じゃあ来よう』とはならないのでは?」


「………」


 核心を突いた奏の言葉に、サナは返す言葉が見付からなかった。









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