第52話

 ☆復٩(ˊᗜˋ*)و活☆

 ……自転車操業なの(´;ω;`)


―――――――――――――――――――


 てんやわんやしつつも、当初の目的であるダンジョンからの脱出はボス撃破の転移陣により叶った。


 :そいやこれ発端転移罠だったわ。

 :転移罠→別ダンジョンに迷い込む→出る為に進もうとしたら救難信号受信→危なげなく救出してボス部屋直行→瞬殺して脱出←イマココ。

 :いやいやおかしいおかしい。

 :救難信号受信からの救出までは分かる。ボス部屋直行はちょっとよく分からない。

 :瑠華ちゃんだもの。

 :その言葉でいつまでも騙せると思うなwww


「という訳なんだけど、瑠華ちゃん弁明は?」


「……不発の落とし穴の罠があったのでな。それを、ちょいと利用しただけじゃよ」


「確かにTAタイムアタックでは落とし穴ショトカは利用されるけどね。普通の探索者は使わないのよ」


 サナからも追撃を受け、瑠華が言葉に詰まる。実は瑠華自身も少しやり過ぎた感覚はしていたのだ。


(いかんの…少しおるようじゃ)


「…それよりもサナに受け取って欲しい物があるのじゃが」


「露骨に話逸らしたね」


「一応元から話そうと思っていた事じゃよ。アーミーアンツからのドロップ品を受け取ってくれんかの?」


「え?」


 :あぁ成程。

 :瑠華ちゃん達が持ってても無用の長物だもんね。

 :そこら辺の法律ガチガチだからな……


「どういう事? 寧ろ私が貴方たちに渡したい物なのだけれど…」


「単純な理由じゃ。妾達では売却出来んからじゃよ」


「えっと…探索者ではあるのよね? ランクが足りないって事?」


「うむ」


「でもならなんでBランクダンジョンに…」


「別のダンジョンに潜っていた際に転移の罠に引っかかってしまっての。本来妾達はこのダンジョンに潜るつもりでは無かったのじゃよ」


「別ダンジョン転移…かなり珍しいね。でもBランクのドロップ品が売却出来ないって事はその二つ下…え、あの実力でDランク…?」


 :その反応は分かる。

 :でも実はその予想も間違ってるっていうねwww


「その様に評価して貰えるとは有難いがの。生憎妾達のランクは最も下のFランクじゃよ」


「………はぁ!?」


 瑠華から二人のランクを告げられ、その予想外のランクに開いた口が塞がらない。最早ネットのネタになりそうな程良い表情である。


 :草。

 :いやまぁそうなるわwww

 :不適当だよなぁ…

 :まぁ仕方無いんだけども。


「えっ、冗談でしょ!?」


「生憎」


「嘘じゃないんですよね」


 二人で探索者の証明証をサナへと見せる。そこに確かに刻まれたFランクの文字は、疑いようもない証拠で。


「……人材の無駄過ぎる」


 思わずサナが頭を抱えるのも、無理は無い話だった。


 :そも推薦制度すらないのはどうなん。

 :これはダンジョン黎明期に、高位の探索者に金積んだ馬鹿が居たのが原因なんだよなぁ。

 :それが協会にバレて、法律ガチガチになったのよ。


 なので現在、探索者のランクは基本飛び級が存在しない。どれだけ素質があっても、実力があっても、皆等しくFランクから一つずつ上げていくしか方法が無いのだ。


「という訳で、妾達にはこのダンジョンのドロップ品は正直必要無いのじゃよ」


「それはそうかもしれないけど…タダで受け取るなんて出来ないわよ。せめて代金は払わせて」


「ふむ……」


 至極当然な意見に、瑠華も少しばかり思考を巡らせる。金銭を得ることに対して忌避感は今更無い。だが問題はその額の大きさだ。

 Bランクダンジョンのドロップ品は、瑠華達が今まで集めてきたFランクダンジョンのドロップ品とはかなり買取価格が異なる。今回のドロップ品の数から考えて、当人同士のやり取りで受け渡すには少々大き過ぎる額になるだろう。ならば、どうするか。


「……ならば、寄付という形を取ってはくれんかの?」


「寄付?」


「うむ。妾達は【柊】という施設出身であり、今もその施設に住んでおる。そこに寄付という形を取ってもらえると有難いのじゃ」


「施設出身かぁ…分かった。じゃあそうするね。なら今度遊びに行ってもいい?」


「構わぬぞ」


 :瑠華ちゃん公認だ!

 :これは〖認識阻害〗解除対象?

 :そうじゃない? 瑠華ちゃんも信頼してそう。

 :いや一回迎え入れてから考えそう。

 :それだ。


(……この視聴者は妾の事を何だと思っているのかのぅ)


 だがそれを口には出さない瑠華である。


「じゃあ今日の配信はここまでって事で!」


「そうじゃの」


「あ、まだやってたのね。帰ったら登録しておかないと…」


「わ! ありがとうございます!」


 :サナちゃん認知か。

 :これはコラボも有りうる?

 :でもランク差あるからなぁ……


「まぁそれらはおいおいじゃな。じゃあの」


「ばいばーい!」


「……え今スマホ見てな」


 ―――――この配信は終了しました。


 :乙!

 :ばいばいwww

 :最後www


 妙な終わり方をしつつも、換金の為に東京第一ダンジョンにてドロップしたアイテムを全てサナに預け、その日は解散となった。


「では帰るかの」


「うんっ。……なんか遠くなったけど」


「まぁ仕方なかろうて」


 東京第一ダンジョンは郊外にあり、利便性が良いとは言えないダンジョンの一つだ。ここから【柊】まではバスと電車を乗り継いで一時間弱は掛かるだろう。


「あ、そうだ。帰りスーパー寄りたいな」


「ん? 何か買うものがあるのかえ?」


「うん。セロリ!」


「…………」


「瑠華ちゃん? 私実は結構怒ってるからね?」


「…………」


 凄みのある笑みで迫られ、瑠華は悟る。


 

 ――――この奏には、逆らえそうにないと。





「ふふふ…たぁっぷり用意してあげるからね♡」


「………妾明日生きておるじゃろうか」






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