第17話

 夜の話し合いの結果、満場一致で遊園地に決定した。だが、ここで一つ問題が発生した。してその問題とは―――……


「―――お金が足りない?」


「うむ…」


 この【柊】は国からの援助で運営されている。しかし全国各地に同じ様な施設が存在している為、その援助金はそこまでの額が支給されていないのだ。瑠華が節約している事もあって比較的貯蓄は出来ているものの、遊びに使えるほど余らせている訳でも無い。


「詳しい費用は分からぬが…二十万ほどは欲しいじゃろうな」


 日帰りならばそう掛かりはしないのだろうが、折角の皆で行ける機会なのだからそれは勿体ない。なので一泊二日の予定を立てたのだが、そうなると交通費など以外に宿泊費なども掛かってくる。


「じゃあダンジョン行って配信しよ!」


「…ダンジョンに赴くのは理解出来るが、配信は必要かえ?」


「配信はお金になるからね!」


 まぁ実際のところ収益化するにはそれなりに時間が掛かるのだが…奏はそもそもダンジョン配信をやってみたかっただけなので、収益化云々は二の次である。

 後は形でだけでもお金を稼ぐ為としておけば、瑠華の承諾を得られやすいのではないかという打算もあったりする。


(…ただやってみたいだけじゃろうな)


 当然ばれている。


「…まぁそれは奏に任せる。妾はよく知らぬでの」


「まっかせて!」


 気合い十分な奏に一抹の不安を覚えながらも、瑠華は取り敢えず大人数で宿泊出来るホテルを探し始めるのだった。



 ◆ ◆ ◆



 奏は確かに配信がしたいと言った。だが本来配信とは映像をインターネットにアップロードする事であって、それに


「えっと…これで繋がったかな?」


 瑠華が買ってきた浮遊カメラを、説明書を見ながら起動する。するとカメラは奏の手を離れ、独りでに浮かび上がった。


「おぉ~…」


 憧れの光景に思わず感動を覚えつつも、すぐに意識を切り替えて自身のスマホの画面をのぞき込む。するとそこには『配信中』の文字が。


 :お。新規?

 :こんちゃー。

 :初見! かわいい!


 奏のスマホに、配信を見ている人からのコメントが流れる。それを見て無事に配信が出来ている事を理解すると、画面から視線を上げてカメラのレンズに合わせる。


「えっと…初めまして! 奏って言います!」


 :奏ちゃん。覚えた。

 :ダンジョン配信…じゃない?


「あそうです。いきなりダンジョン配信しても面白くないかなと思ったので、今日は自己紹介をしようかなって」


 :理解。

 :確かにそれはあるかもね。

 :ちゃんと考えてて偉い。


「えへへ…なので質問下さい!」


 :丸投げかw

 :じゃあ早速。この『柊ちゃんねる』っていうのの由来知りたい。

 :それな。でも何となく苗字っぽい。


「お、正解です。柊は私の苗字でもありますし、私が育った施設の名前でもあるんです」


 配信を始めるにあたって用意しなければならないのは、自分のチャンネルだ。奏は奇を衒うつもりも無かったので、無難に好きで大切な言葉である“柊”をチャンネル名に使った。


 :施設かぁ。

 :今も住んでるの?


「そうですね。もう最近は引き受けてくれる家も無いですから、現状【柊】では養子や里親を受け付けていませんし、これからも【柊】で過ごすと思います」


 表向きは瑠華が皆にそう説明しているが……実情は異なっている。


 ダンジョンというものが増えた現代において、親を失った子というものは増加した。だがそれと同時に、名ばかりの養子縁組を結び、ダンジョンで子供に無理矢理金を稼がせるという人間も少なからず出てきてしまった。

 それに巻き込まれる事を危惧した瑠華が、預けられている権限をもって全ての受け付けを停止したのだ。


「次の質問―――」


 とそこで奏の部屋の扉がノックされた。


「はーい?」


「奏。少し良いかのう?」


 :おっ。施設の人?

 :この声好きかも。

 :分かる。高めだけどちょっとダウナーな感じ。


 口調から職員に間違えられている状況に奏がつい苦笑を浮かべ……続いて、何かを思いついたように口角が上がった。


 :これは何か悪い事考えてる顔と見た。


 そのコメントには返答せず、ただ口元に指を当てる動作をカメラに写す。


 :あーw

 :ドッキリだなw


 察しの良い視聴者は、それだけで奏が何を企んでいるのかを把握した。


 浮遊カメラはある程度自由に操作が出来るので、部屋を写しつつバレない位置に調整する。


「よし…入っていいよ!」


「遅くにすまんの。少し旅行について話そうと思うての」


「話す…あっ、ホテルの事?」


「そうじゃ。大人数となるとホテルより旅館の方が融通が効くようでの。一応これらが候補に上がっておるのじゃが」


 そう言って瑠華が持っていたタブレットの画面を奏へと向ける。そこには候補となる旅館が三つほどピックアップされていた。


「どれも綺麗なところだね」


「その分値は張るがの。平均して一泊一万五千円程度掛かる」


「てことは十一人だから…十六万くらい?」


「団体料金で少し値引きはあるがそんなところじゃ。妾では決めきれん。どれが良い?」


「うーん…」


 悩むふりをしつつ奏がチラリとスマホに視線を向ける。


 :これはまた美少女が…

 :白髪赤眼美少女だとっ!?

 :しかも一人称が妾!

 :属性過多で笑うwww

 :てかタブレットに映ってる所、結構な有名店じゃん。

 :分かる。俺は【白亜のいおり】ってとこ好き。露天あるし、何より海鮮料理がめちゃ美味い。

 :お前こん中で一番高いところじゃねぇかwww


(なるほど【白亜の庵】ね……それにしても瑠華ちゃんに対する印象は、今の所は大丈夫そうかな?)


 奏は瑠華に初めて話しかけた人である為、瑠華の口調が人によっては敬遠されがちなことを知っていた。それが配信を始める上で最も危惧していた事だったが、悪意あるコメントは見当たらず取り敢えず安堵した。


「じゃあ【白亜の庵】がいいな」


「ふむ。海鮮料理か…アレルギー持ちも居らんし、丁度良いかもしれんの」


「あっ、そっか。そういう所も気を付けないといけないんだ」


 :そうだぞー。

 :重度のアレルギーはマジでヤバイからな…。


「まぁそこは妾が把握しておる。心配せずとも良い」


「うん。そこは心配してないよ」


 :この信頼関係、(・∀・)イイ!!

 :分かる。


「じゃあの。……それと奏」


「なぁに?」


「カメラの設定はちゃんとしておくのじゃぞ」


「っ!?」


 去り際に告げられたその言葉に、奏が思わず目を見開いた。


 :バレテーラ。

 :いやぁ…奏ちゃんがスマホ見た瞬間、バッチリカメラ向いてたもんねぇ。


 そう。浮遊カメラは魔法を用いて作られているのだから、その痕跡を辿る事など瑠華にとって造作もないのだ。


「相変わらず敵わないなぁ…」


 :しみじみ奏ちゃん可愛い。

 :それな。てかあの子誰?


「あ、言ってなかったね。あの子は瑠華ちゃんって言って、この【柊】の責任者? 的な事をしてくれてるんだ。私の幼馴染で親友だよ」


 :へー。

 :口調は何か威厳あるのにタブレット使いこなしてるのギャップが凄いw


「瑠華ちゃん基本何でも出来る人だからね…因みにバカ強いよ」


 :おぅ…。

 :飄々として敵切り捨てそう。

 :妖術とか使いそう。


「妖術じゃなくて魔法は使うよ。火属性の。でも妖術とか聞いてみたら使えるって言いそうだなぁ…」


 御明答である。


 :完璧超人じゃん。弱点ないの?


「弱点……寒いのが苦手。あとセロリ嫌い」


 :セロリ嫌いかぁwww

 :なんか、うん…推せるw


「今日はこんな所にしようかな。じゃあ見てくれてありがとうございました! 良ければチャンネル登録よろしくお願いします!」


 :はーい!

 :おつ!

 :これは古参ぶれる予感!







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