第14話
次に瑠華達が向かったのはゲームセンターだった。ダンジョンの恩恵を受けた技術が使われているというそこは、瑠華達は知らないが一昔前と比べると身体を動かして遊ぶ物が増えていたりする。
「身体使うやつは瑠華お姉ちゃんとだと私勝負にならないから、協力するやつがいい」
「凪沙も十分動けるじゃろうて」
「瑠華お姉ちゃんは自分が運動神経良すぎる事を自覚して」
実際のところ“自覚”してはいるが、“理解”はしていない瑠華である。
当然の事ながらゲームセンターには身体を動かさないゲームもまだ残っている。その代表的な例がクレーンゲームだろうか。
「これなら瑠華お姉ちゃんにも勝てる…?」
「これは勝負するものだったじゃろうか…」
まぁ確かに身体を動かす物では無いし、瑠華の龍としての能力は
凪沙がクレーンゲームの景品を選んでいると、瑠華が一つの台に目を付けた。
(ほう…これは…)
瑠華が目を付けたクレーンゲームは、ダンジョンの技術で作られた物だった。一見すると見た目は他のクレーンゲームと変わりないが、唯一違うのはその操作方法だろう。
一般的なクレーンゲームはレバー、若しくはボタンで操作するが、そのクレーンゲームはただの板が操作盤にあるだけだ。
「魔力操作、か」
どうやら板に手を置いて魔力を流す事でクレーンを動かす事が出来るようだ。
「瑠華お姉ちゃん何か見付けたの?」
「む? いや、面白い仕掛けじゃなぁと」
「これ? 魔力操作クレーンゲーム…あ、景品可愛い」
中に並べられた景品は、ダンジョンで出現するモンスターをデフォルメ化した人形だった。
モンスターは一般人にとって危険な存在でありながらも、ダンジョン配信という物がある関係上人気があるモンスターも存在しているのだ。
「凪沙は魔力を扱えるのかの?」
「…魔法は使った事ないけど、感じるだけなら」
「ふむ…まぁ普通はそんなものよの」
ダンジョンが出現した事でダンジョン適性なるものが人間に現れた訳だが、この世界でスキルや魔法等は日常生活で扱う力では無い。なのでダンジョンに潜った事の無い人からすれば、使い方が良く分からない謎の物でしかない。
「でも面白そう」
「ではやってみるかの」
瑠華がクレーンゲームにお金を投入し、凪沙を促す。払ってもらった事に申し訳なさを感じつつも、素直に凪沙が手を金属板の上に置いた。
「むむ…」
「魔力は強い意志が大切じゃ。落ち着いて、ゆっくり流してみるのが良い」
「う、ん…」
痒い所に手が届かない様なもどかしさを覚えつつも、瑠華の助言通りに集中する。するとカコンとクレーンが動き始めた。
クレーンが動いた事でカウンターが進み、その数字から制限時間が三十秒であると知る。
「むぅ〜…」
動いたは良いものの、クレーンの動きは凪沙の魔力の扱いを示すかのように緩慢な動きで、ついイライラしてしまう。
「これ。魔力を乱すでない」
ポンと瑠華が凪沙の頭に手を置いて窘めると、みるみる魔力の乱れが治まった。瑠華が少しだけ魔力を流し手助けをした……訳では無い。
(瑠華お姉ちゃんに撫でられた…!)
魔力の扱いは意志の強さが大切だが、それと同じだけ感情も重要な要素になり得る。特に幸福感などの明るい感情は、魔力操作に顕著に現れ易い。
凪沙が狙っていた景品の上にクレーンが到着した瞬間カウンターがゼロを示し、クレーンが降下を始める。
そのまま狙い通りアームが景品を掴んで持ち上げるが、惜しい事に取り出し口までの移動の間に滑り落ちてしまった。
「あぁ…」
「惜しかったのう」
悔しげな凪沙の頭を撫でて慰めれば、幸せの感情が魔力を伝って瑠華へと流れ込む。景品を取れなかったのに幸せを感じているとは、一体どういう事なのかと瑠華は小首を傾げた。
「…嬉しいのかえ?」
「瑠華お姉ちゃんに撫でられたから」
「何時もの事じゃろう」
「今は独り占め。それが良い」
普段から頭を撫でられる事は多いが、なまじ人が居る分それは一種の流れ作業の様であり、今の様な特別感は中々感じられないのだ。
「ふむ…偶には他の子の抱き枕にでもなろうかのう」
「え、絶対したい。ていうか今日したい」
「まぁそれは帰ってからじゃな。どれ、妾もやってみるかの」
もう一枚お金を入れて、今度は瑠華がクレーンゲームに挑戦してみる。狙うのは勿論凪沙が狙っていた人形だ。
魔力を流してクレーンを動かせば、先程とは比べ物にならない程滑らかに動き始める。
「意外と流しやすいのう」
若干のラグこそあれど、ほぼ思い通りにクレーンは動いてくれる。時間はまだまだあるので、これ幸いと微調整を繰り返す。
そしてカウンターがゼロになり、クレーンが降下して人形を掴んだ。そこで瑠華はもう一度魔力を流してみると、僅かな抵抗が返って来る。
(成程。不正はさせぬと…じゃが凪沙の為。少し無理させておくれ)
この程度の妨害など、瑠華には有って無い様なものだ。少し強めに魔力を流して、無理矢理アームを固定する。この時警報装置も妨害しておく事を忘れない。
そのまま人形は危なげな様子も無く、素直に取り出し口へと落ちてきた。
「ほれ」
「えっ…良いの?」
「元より凪沙の為に取ったのじゃ。遠慮するでない」
「…ありがと、瑠華お姉ちゃん」
瑠華から受け取った人形──スライム人形を抱き締め、次いでそのまま瑠華へと抱き着いた。
「喜んで貰えて何よりじゃ」
「…私も、何かあげたい」
「その気持ちだけで十分…と言っても凪沙は納得しないのじゃろうな」
とすれば何か凪沙の負担にならない物を考えなければならないだろう。
(何かあるかのう…)
物欲など無縁な存在である瑠華にとって、自分の欲しい物を考えるのは極めて困難だった。
抱き着いた凪沙の頭を撫でながら、龍としての広大な演算領域をフル活用して思考を巡らせる。能力の無駄遣いとか言ってはいけない。
「……ならばクレープでも買って貰おうかの?」
「クレープ?」
「甘い物が食べたいと言っておったじゃろう。凪沙と共に食べたいと思うての」
帰ってからプリンを作ろうと思ったので甘い物を買うのを止めたが、瑠華としては今この瞬間に食べる事こそが凪沙にとって良いのでは無いかと思った訳だ。
その場の雰囲気というのは大切であると瑠華は長く──十五年程度だが──生きる中で学んでいた。
「そんなのでいいの?」
「思い出は何よりの宝であろう?」
「…ん。分かった。とびきりのヤツ買う」
「たかだかクレープにそこまで突飛な値段は無いじゃろうて…」
――――そう思っていた瑠華が奢られたのは、高級フルーツを贅沢に使ったお高いクレープなのであった。(お値段約三千円)
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