第6話
次の日。朝早くから二人はダンジョン協会へと赴いていた。
「こういう行事は何やら予約が必要と聞くが?」
「探索者になる為の試験は常に受付してるんだって。流石に実技試験と実地試験は職員の都合が付けばになるから、それだけは少し待つ事になるみたいだけどね?」
筆記試験に関しては複数ある問題の中からその時々に選ばれるものなので、予約をせずとも受けられるのだ。
「ようこそダンジョン協会へ。どういった御用件でしょうか」
「探索者の試験を受けに来ました!」
「かしこまりました。お二人ですね、お名前をお教えくださいますか?」
「柊 奏です!」
「同じく、柊 瑠華じゃ」
「……はい、登録が完了致しました。こちらの札をお持ちになって、二階の試験室A-2へ向かって下さい」
「分かりました!」
二人分の札を受け取った奏が、跳ねるような足取りで階段へと向かう。その正に待ちきれないといった様子を眺めていた瑠華は苦笑を浮かべ、周りへと視線を流した。
(…そこまでの強さは居ないのう)
……忘れているだろうが、瑠華は他とは隔絶した力を持つ存在である。そんな存在に対して愚かにも刃を向けてきた者たちは、当然の事ながら誰もが一騎当千の強者。それらが瑠華にとっての“当たり前”の比較対象であるのだから、そもそも基準がおかしいのである。
案内を受けた部屋へと入れば、他にも数人が既に着席していた。どうやら今日同じように試験を受ける人はまぁまぁ居るらしい。
「うわぁ…凄い子来た…」
「
チラホラと目線を瑠華へと向けた人からそんな声が零れる。
「瑠華ちゃんの白髪、やっぱり目立つね」
「そうじゃのう…」
瑠華は両親との繋がりを弾いてしまったので、その容姿はレギノルカとしての面が強く出てしまっている。
艶がある白髪に、深い深紅の瞳。病的なまでに真っ白な肌。それは瑠華が注目を集めるには十分な要素だった。
「アルビノって言うんだったっけ」
「厳密には違うが…まぁその様なものじゃの」
瑠華の色素がまるで無いのは、それが“原初”であるからだ。なので原理からしてアルビノとは異なっているが…まぁそれを正直に告げる必要も無い。
目線を感じつつも二人で部屋の端にある席へと座ると、少ししてダンジョン協会の職員と思しき女性が部屋へと入って来た。
「初めまして。ダンジョン協会の職員の
その後諸注意等を告げて、梓沙が問題を配る。その間、瑠華の眼差しは梓沙を追い掛けていた。
(…強い部類の人間かの。あ奴ら程では無いが、それなりじゃな)
実際瑠華の評価は間違っていない。ダンジョン協会の職員は基本的にダンジョン適性が高い者が多いのだ。
「では、始めてください」
◆ ◆ ◆
「───はい、そこまでです。次は実技試験ですので、この部屋を出て一階にある第三訓練場に向かって下さい」
問題は机に置いたまま、ぞろぞろと試験を受ける予定の人達が部屋を出ていく。
その後ろを二人がついて行こうとしたのだが、梓沙によって止められてしまった。
「奏さんと瑠華さんでしたね。適性がA
どうやら試験の間に二人については調べが付いていたようだ。瑠華は目立つ容姿をしているし、奏もまた茶髪に空色の瞳という特徴的な容姿をしているので調べるのは容易かっただろう。
「ふむ…」
その提案を聞いて瑠華は奏へと目線を向ける。瑠華が言わんとする事を理解した奏は、瑠華に代わって前へと出た。
「有難いですけど遠慮します。適性が高くても戦うセンスがあるとは限らないので」
「確かにその様な考え方もありますね。呼び止めてしまい申し訳ありません」
「いえいえ!」
そうして梓沙へと頭を下げて二人で部屋を出ると、奏がドヤ顔で瑠華へと向き直った。
「ふふん」
「……まぁ良い受け答えであったとは思うがの」
「でしょ! これぞ探索者って感じ出せたかなっ?」
「それは妾には分からぬよ。だがその心意気は良いものじゃ」
「…な、なんか照れるな」
「ほれ。早く行かねば迷惑になるぞ」
「あ、うん!」
恐らくは既に始まっているのだろうが、それでも遅れている以上は出来る限り急いだ方が良いだろう。
「一階の訓練場……」
「第三と言っておったな…あそこではないか?」
一階に並んだ数々の扉の内、『第三訓練場』と書かれた扉を無事見付けてその扉に手を掛ける。
(…空間系の魔法か?)
僅かに感じた魔法の気配に少しばかり身体を固くしつつ、その扉の向こうへと踏み入れる。
「……え、ここ室内だよね?」
「のはずじゃ」
奏が目を点にするのも無理は無い。なにせ目の前には、晴れ渡る青空と広々としたグラウンドが広がっていたのだから。
「空間系の魔法による空間拡張と、幻影じゃの。見た目ほどは広くない場所じゃ」
「へー…」
訓練場に掛けられた魔法を看破する事など造作もない。しかしそこそこ高度な魔法である事は確かなので、瑠華は人知れず感心していた。
グラウンドの中心付近では先程の部屋に居た人達が集まっていた為、二人も駆け足でその場へと向かう。
「次は…あぁ来ましたね」
「すいません、お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ、丁度ですよ。では今来たお二人には改めて説明しますね。終えられた方は先に控え室でお待ち下さい」
そうしてグラウンドに残されたのは、試験官である協会職員と瑠華達三人。
「これから実技試験を行います。内容は簡単な模擬戦になりますが、これは武器の適性を見るものであり結果は重要では無いので、気を楽にして行って構いません」
その後試験官が指し示したのは、剣や盾、槍、刀、弓、銃etc…と、グラウンドに並んだ多種多様な武器の数々。
「この中から直感で選んで下さい。ダンジョン適性が高い場合、それが最も本人に合致した武器になりますから」
「分かりました!」
並んだ武器をキラキラとした目で見詰める奏とは対照的に、瑠華は少しばかり困惑していた。
(妾、爪の方がよっぽど強いのじゃが…?)
元々人ではない瑠華にとって、武器は扱った事がない物だ。何せそんな物より自分の身体の方が頑丈で強いのだから。
「ふむ…ならば…」
瑠華は今の自分に足りていないものは何かを考える。
鱗や爪は一応出せるのだが、それでも今の瑠華には足りないもの。それは……身体の大きさだ。
身体の大きさは間合いの広さに直結する。人としても比較的小柄である瑠華は、間合いが少し狭い。ならばそれを補える武器が良いだろう。
「決めた! これ!」
少し考えている間に、奏はどうやらピンとくる武器があったようだ。
「それは……刀かえ?」
「うん。ただの剣とかより使い易い気がして」
女性の筋力で鉄の塊である剣を使うのは難しい。刀も確かにその部類には入るが、幾分か楽ではあるのだろう。
「瑠華ちゃんは?」
「妾は…これにしようかの」
瑠華が目を付けたのは、一本の薙刀だった。
間合いを広げる。つまりはリーチの長い武器が必要になる訳で、それならば一般的には槍が適しているだろう。
しかし槍は攻撃手段が叩くか刺すかの二通りしかないのに比べ、薙刀であればそれに斬るという手段が増える事になる。
例え徒手空拳でも問題無いとはいえ、攻撃手段が多いに越したことはないのだ。
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