第6話 掃除屋の意地
立川の冒険者育成施設で行われている学生のための実習。
地下五階から八階まではドローンを相手にした模擬戦だったらしく、学生たちが破壊してバラバラになったドローンの残骸があちこちに落ちていた。
そして役人は惨いことを言い出す。
「三十分以内にすべてのパーツを回収してそれぞれのボックスに戻す! 再利用するドローンだから混載がないように!」
ざわつく掃除屋たち。
一人の男がおそるおそる手を上げた。
「あ、あの、混載ってどういうこと……?」
「そんなこともわからんのかお前らは!」
時間が無いのにつまらないこと聞くんじゃねえと頭をかきむしる役人。
「一号機と二号機があるとしたらそれぞれのパーツが混ざらないように分けろってことだ! それくらいわかれよ!」
ちなみに学生が壊したドローンは五十機ある。
それを全部ぶっ壊して、バケツに入れて、かきまわして、床にぶちまけたような状態なのに、きちんと号機ごとに分別して集めろと言うのだ。
あまりな無理難題に何人もの掃除屋が拒否反応を示す。
「今の時点でぐちゃぐちゃになってるのにどうやって選別するんですか!」
当然と言えば当然の抗議であったが、役人は平然と言った。
「よく見て探せ!」
答えはそれだけ。
そんなの絶対無理。
ましてや三十分で終わらせろなんて無茶苦茶だと、がく然とする掃除屋たち。
皆が立ち尽くす中、上の階でギャーギャー騒ぎが聞こえてくる。
冒険者の卵たちが近づいてきているのだ。
「ほらもう近くに来てるぞ! 早くしろホラ! 動け動け!」
パンパンと手を叩いて煽り出す役人。
そして、とうとう言った。
「時間内に作業が終わらなければ報酬は無しだ! いいな!」
ヤオは激しく溜息をついた。
やっぱりか。
そもそも最初から払う気なんてなかったんだ。
だから無茶苦茶な仕事を無茶苦茶なタイムリミットで押し付けてくる。
そうはいくかとヤオは動いた。
床に散らばるドローンのパーツをひとつ拾い上げ、途方に暮れる今日限りの仲間たちに声をかけた。
「壊れたドローンを再利用するって話なら、元の形に戻すのに魔法を使うはずです。だから、どの部品にも特殊な塗料を塗ってるはず。こんな風に」
ヤオが持っているパーツに紫のマーカーが刻まれている。
床に転がる無数のパーツにも様々な色のマーカーが引かれていた。
「こいつを強めに叩きます」
持っていたパーツを床にゴンッと当てると、魔力が発動して、塗料がじんわり光り出す。
散乱していたパーツの中から、ヤオが持っているパーツと同色の部品だけが浮き上がり、ヤオに向かって飛んで、ひとりでにくっついていく。
フリスビーのようなドローンが姿を現して、掃除屋たちは喜びの声を上げた。
「これが一番簡単です。さっさと片付けて早く解散しましょう」
盛り上がる同業者たち。
想像を超える速さで選別作業が進むので、現場には笑顔があふれた。
一人の中年男が満面の笑みでヤオに近づいてくる。
「あんた若いのによく知ってんなあ」
苦笑いするしかない。
今年で三十八のおっさんに「若い」はないって。
「子供の頃からやってますから」
その答えに中年男は驚く。
小さな頃から掃除屋だなんて、よほどだめな奴ってことだが、
「そんな風にはまるで見えないがなあ」
宇宙人に遭遇したかのような顔でヤオをじろじろ見ている。
ヤオはただニコリとするのみで黙々と作業を続けるが、役人たちが集まって何やら話し込んでいる姿はきっちり確認した。
どうする? って囁いているのだろう。
このままだとホントに給料払う羽目になるぞ、どうする?
そう呟いているんだろう。
「そうはいくか」
小声で吐き捨てた。
連中にとって掃除屋なんかゴミ以下の存在だろうけど、働いた分の稼ぎはいかにそれが少額であろうと手に入れる権利がある。
そんなことすら放棄する連中がこともあろうに政府のシステムに組み込まれているなんてこと、ヤオは認めたくなかった。
いったいこの世界がどれだけの犠牲の上に成り立っているのかを考えれば、掃除屋だろうが浄化派だろうが無能派だろうが、区別なんてすること事態がどれだけ愚かなことか、よくわかるだろうに。
「正しいことが当たり前に起きなきゃ、何のための聖戦だったのか」
だから絶対払ってもらう。
強い決意を抱く風間ヤオの運命が変わるまで、あと少しの時間しかない。
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