About the Family
判家悠久
dusk.
知らず近未来で立ち尽くす。2037年現在の日本の平均的な家族あり方とは、リスク分散という切実な課題を突きつけられる。
台湾緊張は、ゆっくりと次の段階に入った。ウクライナ紛争が手詰まりとなり、西欧諸国は何かにつけ、日本の重鎮と王室を丁重に自国に招待した。
日本にとっては、やっと海外が認めてくれたかだが、政治的配慮を汲むと、東には極東という一大優良地があるのに、それでもウクライナを攻めるのかの、ど酷いエスプリの効いたメッセージだ。
果たして、その外交が正解となる。ウクライナ紛争の衝突は減り、弾薬は極東を分断する為に、台湾戦域に投入され、排他的経済水域で稼働する船は、中国の艦隊に有無を言わさず撃破された。
これはもう戦争だろうの弾劾がアジア各国で連呼される。中国は自国保有の領海で勝手に動かれては困る。但し、台湾国民のライフラインを遵守しましょう。ASEANの首相クラスの安全会見で握手はされるも、对不起、間違って沈めてしまったよ。その懲りない大国の態度、それが台湾緊張の現実だ。
◇
娘詩緒里の元に、特別学生徴用のお知らせの配達証明付きの令状が届いた。民間人の徴用は都度都度あるが、学生の徴用があるのは数少ない声しか聞かなかった。
「私にも来るんだね」
「まずったわ。詩緒里賢いから、英語ドイツ語中国語詰め込んだら、こんな事になるなんて。お父さん、これ異議申し立てできるんでしょう」
「出来るが、それ取引の知り合いが強引の取り付けたら、2回目は最前線送りになった。日本の十八番は今も生きてるよ。でも、適切な回避手段は無くはない」
そもそも日本国の徴用制度だが、自衛隊がいるだろう。しかし憲法改正が、台湾緊張に間に合わず、中国融和派との国会分断があって、時限立法審議をするも通過しない。
ここで、職業派遣法の抜け穴がある。米国の民間軍事会社が日本に派遣関連会社を開設する事で、銃弾を扱う公営外郭団体と前線関連会社に人材を送り込める。
違法の声もつい上がるが、最後に捻れた日米地位協定を引き出され、且つ米国建ての報酬なので、日本国でちまちま働くよりは、まとまった報酬を貰えるので、結局は臨時徴用制度に慣れきってしまう。
ただ特別学生徴用となると、肉体酷使が全てなので、最前線送りになり、戦死の確率が高まる。娘詩緒里は最前線に送りたくはない。
「詩緒里、心配するな。第三種家族融和制度を使用するから。俺が代わりになる」
娘詩緒里と妻慶子が泣き崩れた。いや、俺はそう簡単に死なないと思うが。
◇
俺狭間辰信は、国内三大物流の加瀬総合物流に勤め、法人第二営業課長職に就く。ノンキャリアからは出世頭とは言われている。
そして、小境忠重部長に、第三種家族融和制度の書類に捺印を迫る。かれこれ10分、書類を睨んでいる。
「いやね、辰信君さ。第三種家族融和制度を利用し、家族代替え徴用に行く方は、制度上はいるけどさ、考え直さないかな。実際、最前線に戦地にと徴用されても、死傷者ほぼいないんだよね。平和な時代の戦争って、そんな感じだね。ここは可愛い娘のキャリアとして、詩緒里ちゃんに武者修行させてはどうなの。この台湾緊張で、物流が上限知らずの人気ぶりだから、辰信君のゲームチェンジャーの融和休職は、いや、ウチにとっては厳しいな。いや無理だね」
「小境部長。最前線の台湾防衛介助は、中国人民解放軍海軍の砲弾が撃ち込まれているの知ってますよね。毎日に死傷者が10数名だから気にならないでしょうが、累計になると、相当な死傷者数です。詩緒里がどんなに聡くても、艦砲射撃なんて逃げられる筈もありません」
「辰信ね。気持ちは分かるが、ここはどうか気持ちを害せず聞いて欲しい。まだ辰信君も40代前半なのだから、凍結移植妊娠でまだ二子は持てるよね。今のやっと来たベビーブームはそんな切ないものだよ」
「だからと言って、詩緒里に死んで来いって、そんな目をさせられますか。俺は父親なんですよ!」
俺の酷い剣幕でフロアが押し黙った。小境忠重部長は、渋々言いながら、第三種家族融和制度の書類に捺印した。
◇
厚生省の外郭団体、東アジア友好促進機構で、第三種家族融和制度の審査が無事通過し、俺は三鷹の記念会館で泊まりがけのレクチャーを受ける。
俺が受けるのは、配置される特殊兵站業務の講習会だ。
務めとしては、日台の輸送船、日本ポスティング汽船の櫛名田丸の受注管理業務になる。日本から日常品を輸送し、台湾からは半導体等電子機器を積み込んで帰って来る。その中で、何を所望しているかの営業分野も行う。俺の適正としては申し分が無い。
そして徴用制度の単位が、すこぶる良い。奉仕単位60取得の内、特殊兵站業務は1日4単位。最前線は1日2単位、兵站1日3単位、後方支援1日1単位と、戦場での消化単位が多い分、無事家族の元に帰れるかだ。
何よりは、危険手当として1日120万円支給される。いや、いくら何でも貰いすぎになるが、ドル建てなので、何ら不思議ではありませんと、解説員からにこやかに置かれる。
俺の中では、特殊兵站業務となれば、特殊がつく以上、それなりの荒波は待ってるだろうが思い浮かぶ。何せ、見た目そのまま民間輸送船が、無事中国人民解放軍海軍の包囲網を掻い潜れるのか、一抹の不安を覚えてならない。
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