憑霊
州
第1話 発端
最近、勝手に窓の隙間が開いていることがある。夜に閉めたはずが、朝起きると必ず、拳ひとつ分ぐらいの隙間が開いているのだ。
はじめは、自分が閉め忘れていただけだと思っていた。しかし、意識して閉めてもいつの間にか開いているのだ。ネットで調べてみると、いろいろと考えられる原因が出てきたが、どれも当てはまらなかった。
俺は窓にテープを貼って寝てみたが、起きた時にはテープが剥がれていて、隙間が開いていた。
それならずっと見張ってやればどうだろうということで、窓の前にビデオカメラを設置してみた。次の日、ビデオを確認してみると、深夜二時ごろ、一人でにテープが剥がれ、ゆっくりと窓が開く様子が映されていた。
俺はここでようやく、幽霊の仕業なのではないかと思いはじめた。
今まで、幽霊は一度も見たことなかったし、信じてもいなかったが、流石にここまで来ると、怖くなってきた。
しかし、大学生になって、新生活を始めるために、この家に越してきたばかりだったったので、またすぐに引っ越しするという考えはなかった。幸いなことに、大学での勉強やサークル活動などが忙しくなり、すぐに気にしなくなっていった。
夏になり、俺は新しくできた大学の友人ら三人を家に呼んだ。一緒に酒を飲みながら映画を観たり、ゲームをしたりして遊んで、夜も更けてきたとき、なんとなく例の話をしてみた。
友人らはそれを面白がって聞き、一人が「こっくりさん」をやろうと言い出した。普段の俺なら断っていただろうが、酔っ払っていたのもあって、誘いに乗ってしまった。
俺は紙とペンを持ってきて、紙の上部に鳥居のマーク、左右に「はい」と「いいえ」、その下に五十音表と0から9までの数字を書いた。それから、鳥居の位置に十円玉を置き、全員で人差し指をその上に乗せ、こう唱えた。
「こっくりさん、こっくりさん、どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」
すると、十円玉がゆっくりと「はい」と書いてある方に動いた。
俺は心臓が硬直するような思いだった。俺が声を振るわせながら「誰かがふざけてやったんだろ」と周りを見渡しながら言うと、全員真っ青な顔をして、首を横に振った。
その時、閉めていた窓が大きな音を立てて勢いよく開いた。そして、誰かが耳元で囁くように、「入った」と言う声が聞こえた。
その音と声に驚いて、一人が発狂した。それに呼応するように、他の人も声を上げて、その場はパニックになった。もはや、こっくりさんどころではなくなってしまい、全員慌てふためきながら、自分の荷物を持って逃げるように俺の部屋から出て行ってしまった。
俺は窓を開けたまま、電気を消して布団の中に潜り込んだ。寝ればどうにかなると思った。ガタガタと震えながら、布団にくるまっていると、酔っ払っていたのもあるのか、意外なことにすぐに眠りに落ちてしまった。
どれくらい眠っていたのかわからないが、俺はふと目を覚ました。部屋は日の光で明るくなっていて、すっかり朝になってしまっていた。おそるおそる窓を見ると、昨日の夜のまま、開けっぱなしにされた状態だった。
眠い目を擦りながら、昨日の夜に起きたことを思い出していた。よく考えると、あんなに怖がっていたのが、だんだんおかしいと思えてきた。きっと、窓が急に開いたのは急に強い風が吹いただけで、変な声が聞こえたのもただの空耳だったのだと思った。
それから、俺はいつもと変わらない生活を送った。友人らも俺と同じく、何もなかったかのような態度をとっていた。
しかし、異変が起きはじめたのは、俺の家でこっくりさんをした日から二週間程経った頃だった。
友人の一人が学校に全く来なくなってしまったのだ。メッセージや電話をしても無視なので、俺たちは彼の家に直接会いに行くことにした。
彼の家に着くと、すぐに異常だと気づいた。玄関のドアの前に盛り塩が置かれていたのだ。不気味に思いながらもインターホンを押すと、別人のようにやつれてしまった友人が出てきた。
彼はもう三日間も寝れていないとのことだった。理由を聞くと、俺の家でこっくりさんやった日から奇妙なものが見えたり、聞こえたりするようになってしまったからだと言った。
その日は買ってきた差し入れを置いて、帰ることにした。俺は家に帰る途中、こっくりさんをやった日、最初に発狂したのは彼だったということを思い出した。
その翌日、彼は死んだ。
憑霊 州 @sketch_book
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