第12話 ゴブリン禁止
「リヒトさんはゴブリンを狩るのを禁止します!」
たった数日で俺のゴブリン狩りは禁止されてしまった。
何故だ……理不尽だ。
「そんな決まりは……」
「無いですが……リヒトさんには人の心が無いんですか? 近隣のゴブリンを片っ端からリヒトさんが討伐してしまったから、ランクの低い冒険者は討伐が出来ないんです! 解りますか? オークを狩れるレベルじゃないと討伐が出来ないんですよ……可哀そうだと思わないんですか?」
冒険者は自己責任だ。
実力が無い奴が悪い。
俺に文句を言うのはお角違いだ。
だが、事を荒立てるのは良く無いな......どうしようか?
「……」
「F級からE級にあがる為にはゴブリンを3体討伐した実績が必要なんです……初心者冒険者が困っているんですよ。」
大体、獲物を狩るのは早い者勝ちなんだから、文句を言われてもな……
「俺が居ると迷惑なら他に行くからいい……揉めると嫌だから隣町にでも行く! 邪魔したな!」
「えっ……リヒト様……」
「迷惑が掛かるなら他に行くからいいよ。ルール違反じゃないのに文句言われたら気分悪い。 だけど迷惑なのは解ったから他に行く! それで文句ないんだろう!」
受付嬢の言っている事は解る。
人情とかそういう話しなら筋は通っている。
だが、冒険者は『すべてが自己責任』の世界だ。
もし、俺がオーガと戦って怪我しても見舞金も出さない。
『達成しなければ金を払わない』そういうシステムだ。
保護という考えから下のランクの者は上のランクの仕事は受け負えない。
だが、上のランクの人間が下のランクの仕事を受けるのはルール上問題ない。
だから、俺に『ゴブリンを狩るな』とルール上言えない筈だ。
だから、これは受付嬢かギルマスが『ルール違反』をした事になる。
「あの……それは困ります……このギルドには高ランク冒険者はリヒト様しか居なくて、その下はCランクなんです! 折角来て頂いたAランク冒険者のリヒト様に去られたら困ります」
「それはそっちの勝手じゃないのか? 本来は高ランク冒険者は優遇される筈だろう? 俺は別に優遇してなんて言ってないよな? ただルール通りに仕事をしていただけなのに、文句言われて、その権利を侵害されたから、出て行くって言っただけだ! 凄く優しい対応だと思わない? 責任も追及しないで去るだけなんだから」
「それは……」
俺が受付嬢と話していると、凄い勢いで筋肉質の中年男が走ってきた。
「待て……ハァハァ、リヒト様が出て行くって本当か?」
雰囲気からしてギルドマスターだな。
「まぁな、仕事の事で揉めたんだ『俺はゴブリンを狩っちゃいけない』らしい……それじゃ色々と都合が悪いから他に移ろうと思うんだ」
「いや、俺はそんな事言った覚えはないぞ! ソフィなんでそんな事言ったんだ?」
「リヒト様がゴブリンを狩られているので、他の冒険者が困っていました……私の判断です」
「それ、誰かに頼まれたのか?」
「頼まれていません」
まぁ、そうだろうな……
「あのよ……お前何年受付やっているんだ? 勝手にルールを変えちゃ駄目だよ? それにもし、誰かがそれをお前に頼んでもお前はリヒト様に文句なんて言っちゃ駄目だろう! 違反でも何でもないんだからな。もしルールを捻じ曲げてそんな事を頼んだ冒険者が居たらそいつとお前が処分を受けないとならなくなるぞ」
「そんな……私は皆の為に」
「お前さぁ『冒険者は自己責任』の世界なんだぜ! 誰かの討伐のせいで自分が討伐出来ない。そんなのは当たり前の世界なんだぜ……確かにAランクがゴブリンを大量に狩れば他の者が困るかもしれないが、そんなのは『実力が無い』から仕方ない。そういう世界だ」
「ですが、それじゃ新人や下のランクの冒険者が困る事になりますよ……まともに食事にありつけない人もいます……だから私は......」
いい加減良いか。
「解ったよ! それがアンタの意見ならそれで良いよ! この街にいる間はもうゴブリンは狩らない。 だが、俺には昔と違い養っている人間がいるんだ。 だから危ない事はしたく無い……ゴブリンが狩れない以上、安全に金が稼げないから暫くしたら出て行く。暫くは居てやるからそれで良いよな」
「リヒト様なら、オーガでもワイバーンで狩れるじゃないですか? だったら譲ってあげてもいいじゃないですか」
駄目だ此奴。
「あのな……オーガやワイバーンは俺にとっても強敵なんだよ! それこそ運が悪ければ死ぬかも知れない。そんな相手だぞ。 オークだって、もし20体を越えたら危ない。 だから、安全なゴブリンを狩るのがなんでいけないんだ?」
「……」
「これ以上話しても解って貰えなそうだからいいや……数日したらこの街を出て行くから、それで良いだろう? あんたが好きな新人や低ランク冒険者が助かるんだから」
「待ってくれ! 此奴はクビにするからこのままこの街に居てくれないか?」
「そこ迄する必要はない。ギルマスから言い聞かせておいて欲しい。 だが、俺にとってこの街が住みにくい。そう感じたら去るからな」
「解った」
「解ってくれれば良い。それじゃ今日はこの依頼を受けるか」
「どれどれ、俺が手続きしてやる……えっ『教会の夜間清掃』だと……本当にこれやるのか」
「ああっ」
「そうかわかった」
結局、受付嬢は俺に謝らなかったな。
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