第2話(惑星探査員の災難)

そのダンジョンでは、別の星系から来た惑星探査員のカルヴィ・ウッドマンが洞窟内で地質調査を単独で行っていた。


メルディ星系にあるこの惑星ケスラでは、奇妙な特性を持つ洞窟がいくつか存在すると言われている。洞窟内の壁を壊しても時間が経つと元に戻るという性質があり、このことは十五年前の調査員から報告されていた。

しかし、その当時のサンプルが行方不明になるという事件が起きる。

当時最新だった調査AIの誤作動により、各星系で採取した貴重なサンプルと調査結果がすべて混在してしまったらしい。当時は事件か事故かで盛り上がっていたが、惑星探査は当面の間、打ち切りとする。という報道があった。


そして十五年の時を経て各星系の調査が再開されることになったが、地質調査は重要では無いと見做されたのか、第三セクターに委任された。そこでワンマン宇宙船での調査となった。惑星探査員とは名乗っているが、実際には零細企業の一社員にすぎない。


この洞窟では醜悪な見た目で、現地人に言わせると、「ゴブリン」と呼ばれている非知性生物が現れる。二足歩行で歩き、粗末な武器も使用するがコミュニケーションは全く取れず、かなり好戦的な生物である。

最初は麻痺させて放置していたが、このゴブリンという生物は何処からともなく現れては襲ってくるため、やむ無く排除しながら洞窟の深部まで進んで来た。


また、このケスラという惑星は、未発展の文明が確認されている。

未発展の文明との接触は、その文化や社会に深刻な影響を与える可能性があり、技術や思想の未熟さから来る誤解や混乱を避けるために、なるべく現地人と関わらない方法で調査する必要があった。この事は上からもかなり厳しく言明された。


現地人が居ない洞窟で調査を行いたかったが、このような洞窟は現地人にも恩恵があるらしく、無人の洞窟が見つからなかった。

そこでカルヴィは偽装装備を使って現地人に見えるように変装した。また、外部から洞窟のスキャンを行い、なるべく人気のない洞窟を選んだ。

この洞窟で一定量の地層サンプルを持ち帰るのが今回のミッションである。


カルヴィは地層サンプル回収場所を選定した後、掘削用コスミックインシネーターのところまで戻り、スイッチを入れると、安全な距離まで退避し顔を伏せた。あとはリモコンを押せば作業は終わるはずだった。


その時、突然、現地人が「⚪︎△、×◻︎*※@$%」と話しかけてきたことに気づいた。言葉の意味は分からなかったが、カルヴィは焦りの表情を浮かべて叫んだ。「その装置に触るな!」


だが、現地人にその言葉は通じなかった。現地人はそのまま装置の起動ボタンに手を置いてしまい、装置から発射されたエネルギー波をまともに浴びた。


エネルギー波の衝撃で、現地人の体はダンジョンの壁に激しく打ち付けられた。カルヴィはすぐに駆け寄り助けようとしたが、状況は深刻だった。


現地人は瀕死の重傷を負い、皮膚の一部が抉られ、出血が酷かった。カルヴィは彼を持ち上げ、洞窟を出て光学隠蔽された宇宙船へと担ぎ込んだ。


宇宙船はこの星では未知の技術で構築されたもので、内部は高度な医療施設と研究施設で満ちていた。カルヴィは現地人を医療室のカプセルへ運び、手術の準備を進める。


「まずい、現地人と関わらないどころか、大怪我させてしまった。まずいだろう、これ!」と言いながらコンピューターに指令を飛ばす。


「コンピュータ、すぐに診断を!」


「ピッ、船長。彼らの生体構造が異なるので、通常の処置では効果が見込めません」


「それは分かっている。しかし、何もしないわけにはいかない。スキャナーを使って、彼の体の損傷部位を特定する」


「ピッ、スキャナーの結果が出ました。皮膚に重度の火傷と一部が消失、また各臓器に打撲による内出血が見られます」


「よし、ナノボットを使って修復を試みる。エイリアン技術だが、今はこれしか手がない。今回の調査で、特例としてナノボットの持ち込みを許されたのは、まさに行幸だ」


「ピッ、この処置が彼らの文明に影響を与えることを懸念しています。」


「それは承知の上だ。しかし命を救うのが先決だ。現地人を死なせてしまったら、惑星探査自体が中止になりかねない。後のことは本部に連絡して判断を仰ぐことにする。今は、彼を助けることに集中しよう」


「ピッ、了解しました。船長、麻酔後にナノボットを投入します」


治療用ロボットはカプセル内で寝ている彼の火傷部位にナノボットの放出と

首筋からナノボットの入った注射を打った。


しばらくすると、ナノボットが起動し始め、早回し再生したように傷や火傷痕が消えていった。


「怪我は治ったが、これで終わりではない。我々の存在が知られてしまえば、この星の文明に取り返しのつかない影響を与えてしまう」


「ピッ、船長、どうしますか?」


「彼の記憶を消去する必要がある。これが最善の方法だ」


「ピッ、了解しました。記憶消去装置を準備します」


「彼の記憶から、我々との接触に関する全てを消去する。この手術の記憶も含めて、元通りの生活に戻せるようにしなければならない」


「ピッ、船長、準備が完了しました」


「よし、コンピュータ、一時間分の記憶消去を開始する。彼が目覚めた時、何事もなかったかのように生活を続けられることを祈ろう」


「ピッ、記憶消去プロセス、開始します」


「彼が再び目覚める時、この星の人々にとって我々はただの夢の一部に過ぎない。これで良いのだ」


「ピッ、彼の破れた服はどうしますか?」


ジャケットで外見がほぼ一致する素材はミスティックファイバーで

シャツはエンチャントツイルか。

服が破れていては、何かに勘付かれるかも知れない。

テクスチャだけ元の物に近い素材で再構築しよう。

防寒・防熱・防汚機能もスイッチを外しておけば働かないだろう。


カルヴィは、再びダンジョンの中に入り、中のゴブリンを一掃した後に壁と床のサンプルを採取し、調査用の機具を全て片付けた。

そして宇宙船の中で眠っていた彼を洞窟の壁にもたれ掛けさせ、「ちゃんと目覚めてくれよ」と言い残し、洞窟を去っていった。


この数年後にカルヴィが再びこの惑星に降り立ち、ナノボットを使ったことを

非常に後悔することになるが、それはまた別のお話である。




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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

宇宙人に拐われた人が記憶を消されるのって、お約束だと思っています。

ショッカーに拐われて改造人間になるのと同じくらいに。


続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 


8月23日:誤爆訂正しました。現地人と先住民と二つ使っていたので現地人に統一しました。(-。-;

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