ファンタジー世界で知らないうちに魔改造されていたんだが。〜瀕死の状態から助けられた冒険者はナノボットと共生することに〜
リトルベア・D・スネーク
プロローグ
レイは幼い頃、祖父母に連れられて当時の開拓村だったリンド村にやってきた。
平穏に暮らしていたある夜、村はオークの集団に襲われた。大人たちは必死に抵抗するが、オークは圧倒的な力で村を蹂躙し、レイの祖父母も命を落とした。
そのオークは異様だった。目は焦点を失い、虚空を見つめているかのようで、柵に手をかけた体は、見えない何かに引っ張られるように不自然に揺れながらも、確実に破壊を進めていく。まるで人形が無理やり動かされているようで、見ている者に強い不気味さを感じさせた。
ついにオークが村の中へ侵入する。斧が振り下ろされる音、悲鳴、血の匂いが一気に広がり、村全体を覆っていった。
「こっちはダメだ!」
「子供たちは家に入ってろ!」
大人たちの叫び声が響く中、子供たちは慌ただしく家の中へ押し戻された。外では村人が次々と斃れ、オークの群れは容赦なく村を蹂躙する。絶体絶命の状況だった。
レイの祖父は家の前に立ち、鍬を構えて声を張り上げた。
「心配するな。ワシが守る」
だが、その声もやがて途絶えた。
祖母は部屋の隅で震えていた子供たちを立たせ、裏の扉を開けて言った。
「門まで一緒に走るんだよ」
そっと背中を押され、レイたちは門へ走り出した。振り返ると家が崩れていく音が響き、祖母の姿もすでに見えなかった。幼いレイは涙をこぼし、その場に立ち尽くした。
絶望の中、突然現れたのは黒い外套を纏った冒険者だった。冒険者は圧倒的な剣技でオークを次々と倒し、レイたちを救った。その姿を見て、レイの胸には悔しさと憧れが入り混じった。
涙をこぼしながら、レイは冒険者に必死に詰め寄る。
「なんで…、なんで、もっと早く来てくれなかったんだよぉ!」
冒険者は肩を落とし、声を少し詰まらせて答えた。
「すまなかった……もっと早く来られれば、こんなことにはならなかったのに」
さらにレイは問いかける。
「どうすれば、おじさんみたく強くなれるの…!?」
冒険者はレイの肩に手を置き、落ち着いた声で言った。
「強くなりたければ、自分を鍛えるんだ。ただし体だけじゃない。心も、恐怖に立ち向かう勇気も一緒に鍛えるんだ、分かったか?坊主」
その言葉を胸に刻み、レイは心に誓った。いつか祖父母の仇を討つのだと。
「うん、僕、努力するよ! 頑張っておじさんみたいに強い冒険者になる! そして、じいちゃんとばあちゃんの仇を討つんだ」
冒険者は微笑み、力強く肩を叩いた。
「そうか、頑張れよ、坊主!」
オーク襲撃から十年。レイは孤児院で他の子供たちと共に育てられた。
両親が迎えに来ると信じていた時期もあったが、やがて誰も現れない現実を受け入れる。残されたのは断片的な記憶だけだった。母親らしき人がベッドで泣いていたこと、大きな剣を振ろうとして止められたこと、両親と離されて玄関先で泣いていたこと。どれも繋がりはなく、姿も名前も霞んでいた。
だからこそ、レイは木剣を振り続け、自らを鍛えることで心を支えた。
十五歳になると、正式に冒険者として登録される。最初は街の雑務をこなしながら体力をつけ、金のないレイは安物の剣を買って毎日振った。魔物討伐の依頼が来るまでは、ひたすら訓練の日々だった。
初めて魔物を目の前にしたとき、幼い頃の恐怖が蘇った。体が縛られるように足がすくみ、動けなくなる。だが、祖父母の仇を討つ思いを胸に、レイは少しずつ恐怖に抗いながら前に進んだ。
冒険者としての道はまだ始まったばかり。レイは過去の影と戦いながら、「実戦で目を逸らさずに立てる自分」になるため、鍛錬を重ね続ける。
いつか祖父母の仇を討つその日まで。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
九月六日:改稿しました。プロローグの描写をかなりマイルドにしました。
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