第9話 告白
俺は何も見えない視界に話しかけるが返事は無い。だが、確かに近くからコソコソと物音が聞こえている。
間違いない。絶対に誰かがここにいる。そしてその誰かは1人に限られている。
俺は枕元に置いていたリモコンを取るとボタンをポチッと押した。俺がボタンを押すと同時に部屋の電気が眩い光を放ちながら点灯する。
「優芽、何してる?」
優芽だ。何故か優芽が俺のベッドの横に座っておりムズムズと落ち着かない様子だ。
「どうした、まだこんな時間じゃないか」
部屋に立てかけてある時計を見ればまだまだ深夜の3時。いつもなら眠っているはずの時間である。
そもそも仮に優芽が起きていたとしても俺の部屋に来ることなんてあるはずがなかった。
しばらく沈黙が続いたあと、ふと優芽が突然口を開く。
「私、言いたいことがあるの」
「俺にか?」
まさか俺に文句を言いに来たのではあるまいな。心当たりなど存在しないからそんなことはありえないのだろうが。
「うん」
「そうか。じゃあ手短に頼む」
俺がそう言うと、優芽はおもむろに立ち上がると俺の後方を指さした。
俺の脳は単純なのか優芽の指先が行き着くさま俺の視線は後方のベッドの方に誘われる。
「うわっ!」
そしていきなり俺の背中に異常に重たいものがのしかかった。
もちろん俺はベッドにうつ伏せ状態にならざるを得ない。
「おいなんのつもりだっ」
俺の発言虚しく、優芽は華麗にスルーをかますと俺の上に跨ってきた。
「うっ」
おかしいな。女性は空気のように軽いと聞くのに普通に重いぞ。優芽は常日頃、食べすぎないようにしていてスタイルを維持しているというのに……。
口に出したら俺は殺されるだろうな。
「義兄さんの言う通り、手短に、と行きたいところだけど私もう我慢できない」
「はっ?どういうことだ?」
今の優芽は絶対に普段と違う。やはり昼からの異変は俺の勘違いではなかったのだ。
早く看病しなくては……。
と俺は優芽に馬乗りされたまま考えたが、このままではどうすることも出来ない。
今は寝起きだからかいつもなら出る力が出ない。
俺が抵抗の意志を見せると優芽は俺の腕を抑える。
うつ伏せの状態から俺は身動きが取れなくなった。
ここから俺が打開するには優芽を言葉で説得するしかない。
「私、努力したんだよ?」
「知ってるよ!!」
優芽は俺に跨りながら、怒ったような口振りで俺に言う。
そんなこと、今更言われなくても分かっている。優芽はアイドルとしてデビューしてからは毎日のように、否、毎日努力していた。
父さんが再婚してからというもの、俺はその姿を常に見ていたから確信できる。
「優芽がアイドルとして頑張るためにいつも努力していたことはとっくの昔に知ってる。俺はずっと優芽のことを陰ながら応援してきた。お前の努力のおかげで俺はお前のファンになったんだよ」
今は陰ながらとは言えないかもしれないが、俺が演説を学校でしているという事を優芽は知らない。
間違いではないよな?
「違う。そうじゃない!」
「は?」
違うとはどういうことだろう。優芽は努力していなかったというのか。いや、そんなことは無いはずだ。
してないなど言えるものでは無い。
「義兄さんは何も分かってない!私が一体どれだけ頑張ったと思ってるの!?」
「……」
「私、いっぱいいっぱい義兄さんに、お義父さんに嫌われようとしたんだよ?」
俺はその言葉を聞いた途端、胸がドキッとした。原因は分からないが、感じてしまったのだ。
そして同時に怒りが湧いてきてしまった。なぜ家族と嫌われようとするのか、俺には分からなかった。
「冗談は好きじゃない」
「冗談じゃない!私の家族はお母さんとお父さんだけなの!」
「違う。俺は優芽の家族だ。父さんも優芽の家族だ。俺は優芽の事も義母さんの事も本物の両親だと思ってる」
「それなのに、それなのに……」
「なんだ、まだ何か言うか。俺は意地でも認めないからな。俺は優芽の家族だ。だから意地でも応援してやる」
優芽は流しかけていた涙を服の裾で拭くと、悲しそうな表情を浮かべた。
「それなのにさ……なんで義兄さんは私が冷たく接しても優しく接してくれるの?私は分からない。私だったらあんな接し方されたら絶対に文句いうのに……」
「俺と優芽はまだ家族になって半年しか経ってないし、お互い思春期だから仕方ないと思っているの少しあるけどな……俺は普通に、ただ家族としてお前と仲良くしたかっただけだ」
こんな話、うつ伏せのままで話すことじゃないような気がするな。優芽が退けそうにもないからどうしようも出来ないが。
「シャーベットのこともさ……私、ずっと人気なかったのに突然いっぱいお仕事来たの不自然と思ってたの」
「それはお前の努力が実っただけだろうが」
「違う。私、見たの」
「何をだよ」
「義兄さんのスマホ」
「スマホ?」
「私、自分でなぜ突然仕事が増え出したか調べたの。そしたらSNSで1つのアカウントを見つけた。結城っていう作家さんのアカウント」
俺の額に少量の冷や汗が滴り落ちる。結城はご存知の通り俺のラノベ作家名。なぜバレた。
「このアカウント義兄さんのだよね?私、知ってるから正直に答えて」
この質問の仕方は逃げることが出来ない奴だ。俺はラブコメを中心に書いているが、存外2次元と同じような展開が現実でも起きることに絶賛驚いている。
「そうだよ」
「そうだよね。良かった。正直に答えてくれた」
「……あぁ」
俺は優芽のことを見つめられないでいる。
ただ静かな部屋な優芽の鼻水をすする音が響いているだけ。
「これも学校の演説も全部、私のためなの?」
ここでいいえ、というのは意味が分からないよな。
俺はこくりと頷いた。
「ど、どうしよう私……、…になりたくないのに……」
……。
「義兄さんを好きになっちゃたじゃん」
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