終末列車

学生作家志望

ガタンゴトンガタンゴトン


鉄でできた銀色のレールのつなぎめが、電車に轢かれて痛い痛いと悲鳴をあげる。


狭い2人部屋、女はその音を、安らぎと言って、そのまま縦長の席に横になって寝てしまった。それを見て男は「安らぎなどではない。」と、反論をしているが、いかんせん声が小さいために本人には聞こえない。



「司令所に連絡をしています、少々お待ちください。」



車掌が慌てふためく声が、扉の奥で聞こえる。恐らく、他の乗客の対応に追われているのだろう。まったくかわいそうだ。



ついさっき、部屋の小さな時計が23時をさした時だった。この列車が止まる駅、それも終点の一個前の駅で、人身事故が発生したという知らせがあった。



放送でそれを伝える車掌の声は、寒さに凍えるように、ぶるぶると震えていた。


凛々しくキリッとした顔に、白い髭を生やして、まさにベテランの塊だと思っていた車掌が、あそこまで声を震わす理由は俺にはわからなかった。


いったい何が、車掌を震わすのか。何かとてつもない恐怖が迫っているような気がして、体が縮こまって固まってしまった。


「ん、どうした、の?」



眠そうな細い目をこすって、女はゆっくりと起き上がった。



「人身事故が起きたんだよ、すぐ近くの駅でね。だから、いまは一旦止まっているんだ。」



「人身事故ね………」



何かものを言いたそうな顔をしながらも、大きなため息を吐いて、結局またすぐに黙り込んでしまった。



「何か言いたいことがあるのかい?知っていることがあるなら話してほしい、さっき起きた人身事故はなんなんだ?訳があるなら言ってくれ。」



女は男に背を向けるようにして寝転んだ。やがて、女は呟くようにして話を始めた。



「本当に決行されちゃったみたいね。ネットで見たのよ、集団自殺の募集の書き込みを。」



「なんでそんなものを」そう声に出して質問をしようとした時、邪魔しないでと言わんばかりにすぐにまた話を始めた。



「自殺の方法は、電車や列車等に轢かれる人身事故。決行場所の駅までは、本人たちにしかわからないようになっているのかも。」



僕たちが今乗っているのは寝台列車、時間的に、前を走っているのは終電の電車。終電、昼までは多くの人が利用していた電車も、終電となれば10人も利用するかどうかわからないくらいだ。


現に、今まで通り過ぎてきたどの駅のホームにも、人影は1つもなかった。


そのため、自殺を面白がるような人間がいなければ、自殺を止めるような正義感を持った人間もいない、誰もいない。まさに、集団自殺には持ってこいの好条件が揃っているといえる。



「まあきっと、誰もいなくなった駅で、誰にも止められずに死ぬ。それが計画なんだろうね。」



スマホの透明なフィルムに爪があたってカタカタと音を立てる。女は上から下へと画面をスワイプしていった。ただ、無言で。



「司令所から連絡がありまして、ただいまより通常運行を再開してまいります。みなさまにご迷惑をおかけしまして大変申し訳ございませんでした。それでは出発いたします。」



その放送がなってから、通常通りの運行が始まり、列車はまたガタンゴトンと音を立ててゆっくり進んでいった。


1時間、2時間、女がいびきを立て始める。


3時間、4時間、男が女に背を向けて横になる。



5時間



ガタアアアアアアン



「わっ!!!」



何かが潰れたような、ぶつかったような、とにかく列車に何かがあったことが一瞬で理解できる、そんな音が男の耳に入ってきた。



「なんで、?何今の、」



「集団自殺………わからない?」



「え?」



男が声を上げると同時に女も体を起こして、また話を始めた。女は男の方をまじまじと見ながらいたって真面目そうな顔で、男に恐ろしい言葉を放った。



「集団自殺は、何も同時にやるなんて言ってないじゃない。それぞれの駅に、それぞれやってくる列車を待機してる。」

「そして、その狙いは深夜帯に走っている終電と、私たちの乗る寝台列車。」




グチャグチャグチャ



ごまをすり潰すかのように、何度も擦られて粉々になっていく、銀色のレールが下には敷かれているはずなのに、いったいなにがこんな不気味な音を立てているのだろう。



「待っていたのよ、あの子は。この列車を。」



「人身事故がこの列車で発生しました。」

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終末列車 学生作家志望 @kokoa555

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