催眠術師 綾小路無我の憂鬱
菊池昭仁
第1話
綾小路無我、28才。
人呼んで『伝説の催眠術師』。
その威力たるや凄まじく、彼と話しをしただけで、3分以内で眠ってしまうのである。
中には無我のトロンとした目を見ただけで、その場で
彼はコールセンターのお客様相談室に勤める、クレーム処理係であった。
無我はその特異まれなる才能を発揮し、あらゆるクレーマーをも黙らせてしまうのである。
そう、彼はクレーマーをすぐに眠らせてしまうのである。
「はい、こちら「何でもお客様相談室」の綾小路でございます。本日はどういったご用件でしょうか?」
「おう! なんじゃコラッ! アベベの国葬なんか税金を使ってやってんじゃねえぞ!
都知事のホッカイロ大学首席卒だと言うババアと総理の増税メガネを出せ!」
「ではアベベの国葬に不満をお持ちだというわけですね? それは大変申し訳あり・・・、あれれ、お客様? お客様? どうなさいましたかお客様? お客様?」
「ぐうぴー ぐうぴー・・・」
このようにどんなクレーマーも綾小路のその抑揚のない話し方、羽毛のような声で話し掛けられてしまうとたちまち睡魔に襲われ、眠ってしまうのであった。
ゆえに総理も都知事も人相の悪い越後屋幹事長も、そして落語家みたいにしゃべる厚生労働大臣も、うるさい国民からの苦情を的確に処理してくれる綾小路には
「これから国民からの面倒なクレームはゴルゴン・ゾーラ15には依頼せず、綾小路に対応させれば誰も文句は言うまい。いや実に愉快愉快。
一度、彼に会ってみたいものだ。すぐに官邸に呼びなさい、その綾小路無我とやらを」
官邸に綾小路が面会に訪れると、総理たちは大歓迎であった。
「いやあ、君があの『伝説の催眠術師』、綾小路君かね? 噂はかねがね聞いて・・・」
総理も都知事も悪代官みたいな幹事長も、そして落語家みたいにしゃべる厚生労働大臣も、彼と握手をしただけですぐにその場に倒れて寝てしまった。
「ぐうすか ぐうすか・・・」
もちろんSPたちも全員寝てしまうのだから大変である。
もはや綾小路無我さえいれば核兵器を持たない日本でも、アメリカなんかのワンコになって尻尾を振らずとも、世界征服が可能だった。
特にSPの場合は既に寝不足だったので、綾小路を見ただけでバタバタとその場に大の字になってスヤスヤと寝てしまった。
彼らの中にはピストルを握ったまま眠っている者さえいるほどだった。
「あれれ、みんな眠っちゃったよ」
プーチョンも周珍平もキム・ジョンクンも国際テロ組織の『アレイクラダ』もへっちゃらである。
綾小路無我は凄い威力を秘めた催眠術師であった。
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