幼い頃からお世話をさせていただくお嬢様は天使のような方なのですが、なぜかメイドの私を押し倒してきました……今から私は昇天されてしまいますか?

tataku

第1章

第1話  私のお嬢様は天使です!

 本当に、私のお嬢様は誰よりも可愛いらしいと思います。


 そんなお嬢様と年が一番近いという幸運に恵まれ、専属のメイドをやらさせていただいております。


 お嬢様とは――私が10歳の頃、奉公に出たお屋敷で初めてお会いしました。


 その時、お嬢様はまだたったの6歳だったんです。


 それなのに、何処か大人びておりまして――でも、年相応な可愛らしさがあるんです!


 もう、私はメロメロになってしまいました。


 だって、本当に可愛らしいんですから!


 お人形さんかと思うくらい――本当にお美しく、完璧です。


 誰よりも美しくありながら、誰よりも可愛らしい――そんな人、うちのお嬢様ぐらいしかいないと思います。


 白く淡い金色の髪はふわふわと腰まで伸びており、とってもお似合いですし、大きくつぶらな瞳は透き通るような青で、私は吸い込まれてしまいそうになります。なので、見つめられるととっても危険ですから、私は常に気を引き締めているんです。

 なのに、私はつい気が緩んでにやけてしまうので、お嬢様にはよく怒られてしまうんです。ぐすん!


 でも、私を叱ってくれるお嬢様――とっても大好きです! だって、それは全て次に活かすことができるからです。私のために怒ってくださるお嬢様には、本当に感謝しかありません。



 お嬢様はとってもクールな方です。

 私が近づいても、猫のようになかなか触れさせてはくれません。しかし、いつもは素っ気ないお嬢様なのですが、時々、私の服の裾を掴んできます。顔を赤くさせ、上目遣いで私を眺めます。


 いつも、旦那様と奥様はお忙しく、なかなか触れ合う時間がありません。

 この時は長男のアレックス様も色々とお忙しく、お嬢様はいつもひとりぼっちでした。

 お嬢様は誰もが敬うクレイワース公爵家のご息女です。そのためか、誰もがお嬢様と距離を取られているような気がしました。

 ですので、時には人に甘えたくなるも仕方がない話かと思います。

 お嬢様は決して、そのことを口にはしないのですが――無言で私に催促するのです。


 私を甘やかしなさい――と。


 お嬢様の愛らしい仕草に私はもう天へ昇る気持ちとなります。

 普段は私が近寄ると文句を言ってくるのですが、その時ばかりは私がお嬢様を抱き寄せても、決して咎められません。それどころか、私が抱きしめた分だけ、お嬢様は私を抱きしめてくれます。

 これは私への、とんでもないご褒美で御座います!


 お嬢様を想うこの気持ちは一体、どう表現するべきでしょうか?

 

 胸の奥に渦巻くこの感情を上手くお伝えしたいのですが、私は頭が悪いのでいい言葉が見つかりません。


 ですので――


「お嬢様は、本当に素晴らしいです!」


 と、両腕を精一杯に広げ――力強く声に出すことぐらいしか出来ません。そこに私の感情を乗せ、少しでも私の気持ちが伝わればいいなぁーと、考えております。


 そんな私を見て、お嬢様はお顔を真っ赤にさせ、恥ずかしいと怒るのです。


 私の気持ちは上手く伝わらなくて、いつも落ち込んでしまいます。

 世の中、ままならないなぁーと思う今日この頃なのでした。




 *** 




 お嬢様はもうすぐ16となり――誰よりも美しくお育ちになりました。


 薄く美しい金色の髪は、ゆるくふんわりと揺れ、腰近くまで伸びております。


 身長もすくすくと育ち、いつの間にか私の身長を追い越し、頭ひとつ分大きくなられました。胴長な私とは違い、とても足が長く――そして細くお美しいのです!


 私より大きくなられた頃ぐらいから、私のことを年下扱いするようになったのですが、そればかりは、流石の私も看過できないのであります。


 とても、おこがましい話ではあるのですが、お嬢様には、私のことをしっかりもののお姉さんとして見ていただきたいのです。それは、ご両親に甘えられない分、ぜひとも私に甘えていただきたいのですから。



 それにしても、残念なことがあります。


 数年前から、お風呂やお着替えのお世話をさせてくれなくなりました。

 何故ですか? と私が聞くと、顔を真っ赤にして怒るんです。なにか粗相をしたのなら、謝りたいのですがそれすらさせてもらえません。私は距離を置かれた感じがして、悲しくて悲しくて仕方がありません。


 しかも最近、お嬢様を抱きしめることができておりません!


 このままだと、禁断症状がでてしまいそうです。

 毎日気を引き締めて仕事をしてはいるのですが、一度だけ我慢できずに同僚のメイドであるミオさんを抱きしめ、はしゃいでしまったことがあります。そんな見苦しい私の姿を、たまたまお嬢様に見つかってしまい――烈火のごとく怒られてしまいました。しかも折檻を受けた上に、中々許してもらえず、この世の絶望を味わってしまいました。そのため、私はもう二度とあのような過ちは繰り返さないと心に誓ったのです!


 

 それにしても、お嬢様が私に甘えてくれなくなったのは――少しずつ大人に近づいている証拠なのでしょうか? それは喜ぶべきことなのですが、やはり寂しいものは寂しいのです。


 いずれは、お嬢様に釣り合うようなお美しい殿方と一緒になり、私から巣立っていくのでしょう。


 そう考えると、私は枕を涙で濡らすこととなってしまいます。


 それにしても、お嬢様と釣り合うような殿方など――はたしてこの世に存在しているのでしょうか?


 私は甚だ疑問でありますよ!

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