あすの空、きみに青い旋律を

陽野 幸人

序章

序章

 私には……小さい空間。


――きっと感覚が麻痺しているんだ。

鳴り止まない拍手と己の熱を放出している観客。

それは声であり、汗であり、心の声でもある。

歌声、ギター、ベース、ドラム、キーボードから生まれた旋律せんりつは、木材と肉の細胞に吸い込まれていった。

大勢の人に埋めつくされて、何度も蹴り飛ばされた体育館は、昨日まで考えたこともなかっただろう。

ちっぽけな人間に、自身という大きな存在を二回も攻撃されるなんて。

青春の光を何粒か垂らしたバンドメンバーが、舞台袖で私を迎え入れてくれた。

私に向けられた笑顔と振り上げられた手のひらは、歓喜の出会いを待ち焦がれている。

触れ合うたびに……心が飛び跳ねた。

そして、彼らは私に喜びの言葉を贈ってくれる。


「うえーい! やってやったぜー! 最高だー!」


「た……楽しかった……ですね」


「そうね。バンドとして、人前で演奏するのは初めてだったけど……とても、楽しかった」


 お互いの健闘を称え合っていると「……オール……! ……コール! アン……コール! アンコール! アンコール!」という楽曲を催促する声援が広がる。

不揃いであった音が無骨ではあるけれど、徐々に整然とした合唱になっていく。

観客の声は、大海の波がステージに押し寄せる迫力に思えるほど盛り上がりをみせた。

醒めない夢と興奮を手にした観客、メンバーは求められることへの喜悦を手にしている。


「ど……どうします……か? アンコール……」


「いくしかないっしょ! アンコール! アンコール! ライツ! ナウ! ナハハハ!」


「――オリジナルは、すべて演奏したから……どうするの?」


「うーん、そうだねえ。それじゃあ、あの曲でいこうよ!

私達が初めて合わせた……あの曲で。いいでしょ? ねっ!」


 ねえ……聞こえている?

これは、あなたが私たちに『繋いでくれた想い』なんだよ。

人の出会い……巡りあいって、偶然じゃないって思うんだ。

『軌跡』と『奇跡』の交わり。

私たちの想いを乗せた音楽は、きっと誰かに届いてくれる。

もう一度、私に歌わせてくれて……ありがとう。


――ねえ、聞こえているよね?

届けたい音。届けたい言葉。届けたい想い。

少しでもいいから、みんなにも届くといいな……。


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