パラレル・ザ・ゲームズ

星川亜里

第1話入る部活ミスったかもしれない

 

 親鸞学園。勉強、スポーツに至るまであらゆる分野でトップクラスの環境が整った受験生ならば誰もが憧れる夢の学園。

 

 僕は今日からこの親鸞学園に通うこととなる。


 中学三年生の夏から己の全てを勉強に捧げ、この学園に入学することができた。


 僕はもちろんこの学園生活三年間をエンジョイすると決めている。


 るんるんな気持ちで入学式を終え、生徒たちが足早に配属されたクラスに移動する。


 ちなみに僕は一年Aクラス。この肩書きに特に意味はないが、Aと聞くと受験のA判定を思い出してテンション上がるのは僕だけではないはずだ。


 クラスに移動し席についた後、担任の先生の毎年恒例新入生に贈るありがたい言葉&この学校のルール説明が始まった。


 もちろん僕は真面目に話を聞かない。


 というか、みんな真面目そうに先生の話を聞いている風にしてるけど絶対に他のことを考えている。


 ほら、目の前の席にいるメガネかけてる真面目君だって多分エロいこと考えてるよ。絶対そうだ。


 僕は名前も知らない『真面目くんA』に偏見を抱いた。



「ーーーーそして、部活は放課後までに決めるように。じゃあ、解散!」


 先生のありがたいお言葉が終わり、全員が各々の活動に移る。


 早々に友達ができて何やら楽しげに会話しているものもいれば、部活を真剣に悩んでいる子、先生に解散と言われたのになぜか席に座って本を読んでいるものもいた。まぁこいつの気持ちは理解できん。


 僕は荷物をまとめ、教室を出た。


 部活選びは大事だからね。さっさと選ばないとすぐ埋まっちゃう。


 親鸞学園のモットーは『文武両道』。設備からもわかる通り勉強や運動すべての分野に最先端のものを取り入れている。


 そんな素晴らしい学園で僕が選ぶ部活はーーーーゲーム部一択だ。


 選んだ理由はゲームをやる部活だからだ。僕はゲームが好きだからちょうどいいって思ってたんだよね。


 そんなことを考えながら僕は長い廊下を歩いた。

 

 


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 最上階である六階の一番西側にある教室。ここがゲーム部の部室。一年の教室は二階なので行くまでに一苦労だ。


 僕は息を整え、身なりをきちんと整えた。


 第一印象が大事だって言うしね。こういうのは勢いが大事なんです、勢いが。


 そっと教室のドアに手をかけ、元気に挨拶をした。


「よろしくお願いします!」


 教室の中にはとてもかわいらしい女の子が寝っ転がっていた。白と黒のツートンカラーのセミロングの髪、きれいな赤い瞳に制服は着崩して上から黄色のパーカーを着ていた。


 その姿は……とてつもなくダサかった。


 僕はクソダセーと思いながら、教室の前で立ち尽くしていた。


 女の子が僕に気付き、笑顔を放ちながらその場でジャンプを繰り返し発狂した。常人にはおよそ理解できない光景だろう。


「ヒャッホーーーー!! 賭けは私の勝ち!! イエーーーーーーイ!!」


「何!?」


 奥の方から出てきた男が驚きの表情を見せている。焦茶の髪に高めの背、キリリとした目元。普通にイケメンだ。制服も着崩していない。


「あり得ない!! 何かの間違いだろう!!」


「ほら、私の言った通りだっただろ! さぁ、千円出しな! 負犬さんよぉぉ!」


 女の子がイケメンに流暢な煽り口調で金を巻き上げる。イケメンは渋々ポケットから千円札を取り出して女の子に渡した。


 千円札を自身のポケットに入れた女の子が僕の前に立ち、軽く咳払いをする。そしてパーカーのフードを被り、ポケットに手を突っ込み、僕に人差し指を向けながら叫んだ。


「よく来たな、少年!! 私は二年B組でゲーム部の部長、巫 嶺だ! かっこいい名前だろう?」


 確かにかっこいい名前だ。見た目はアレだが。


「同じく二年B組で副部長の蒼史 蓮だ。よろしくな」


 期待を裏切らないハードボイルドな声だった。イケメンは何をしても様になる。


 蓮先輩は会釈して、近くの椅子に座った。


「うんうん、じゃあ少年。君も自己紹介したまえ」


 巫先輩はくるりと一回転しながら蓮先輩同様近くの椅子に座った。


 とりあえずここでは無難に決めようと思い、背をピンと伸ばしハキハキとした口調で喋ることにした。


「一年A組の詩琴 琳です。よろしくお願いします」


「ようこそ、少年! ゲーム部へ! 歓迎するぞ!」


 自己紹介をしたのに苗字でも名前でも呼んでくれない巫先輩に会釈をして自分も席に座った。


 僕が座ると、巫先輩は早々に話を切り出した。


「さて、ここの部員は君も含めて今日から三名だ」


「……すみません。耳が調子悪かったみたいなのでもう一回言ってもらっていいですか?」


「ここの部員は君も含めて三名だ」


「マジ……ですか?」


「ああ、マジマジの大マジだ」


 巫先輩はかかったな、とでも言いたげにニヤニヤしていた。


 終わった……。入る部活ミスった……。教室に入った時喜んでたのはそういうことか……。


 いろんなことが腑に落ち、僕は静かに天井を見上げた。


「まあ、そんなことは置いといてだ。場もあったまてきたから今から早速ゲームをしようじゃないか、少年!」


 そう言うと、巫先輩は立ち上がり、くるくると教室の中を回りながら僕に人差し指を向けてきた。


「決めたぞ! 『しりつなぎ』をやろう!」


 なるほど。よく分からんが、ロクなゲームじゃないことだけは分かった。


 




 

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