【魔力0の俺が】迷惑系ダンジョン配信者から美少女を守ったら鬼バズりしてしまった件【魔法使いとバトってみた】
ウサギ様
第1話
「流れ」が苦手だ。
例えば祭りのような人混みだとよく人とぶつかってしまうし、複数人の会話もどこかぎこちなくなってしまう。
流行りの音楽やファッションもよく分からないし、みんなが恋やら青春やらで楽しそうにしていても俺は蚊帳の外だ。
まぁ、ともかく、流れというものが読めないのが俺という人物で……だからこそだろう。
こんな大男の前に出てきてしまったのは。
「おい、邪魔だ。今、俺がその子と話してるのが分からないのか?」
「……やっぱり、そういう「流れ」とかよく分からないんだよなぁ」
暑い日差しの中、目の前の大男を見て既に後悔の念が立ち込めていた。
ただのナンパだろうと思って、第三者が入れば簡単に手を引いてもらえると考えていたが、その考えは甘かったらしい。
──ああ、今日は帰って古い漫画でも読もうかと思っていたのに。
仕方ない。
数発殴られたら、その間に言い寄られていた女の子も逃げられるだろうし、誰かが警察を呼んでくれるだろう。
そう思いながら、女の子をナンパしていた男を見る。そして、ふと、思ったことを口走ってしまう。
「……いや、それにしても……高校の制服を着てる子にナンパするような歳じゃないだろ。四十歳ぐらい……親子でもおかしくない歳の差のような」
と、言ってから大男の顔が真っ赤に染まっているのに気がつく。
「──っ! ってめぇ!」
「あ、わ、悪い、悪いって。いや、すごく印象的だったから、つい声が……!」
「俺が誰か分かってんのか!?」
「えっ……」
いや、誰って……誰と言われても……。有名な……人なのか?
近くでこの揉め事を見物していた髪がバーコードのおっちゃんの方を向くと、たまたま目があったので聞いてみる。
「あの、この人が誰かって知ってますか?」
「えっ、ワシ!?」
「ええっ!? 「ワシ」って……おっちゃんとこのナンパ男、同一人物だったのか!? 衝撃の展開すぎるだろ……!」
俺が驚くと、ナンパされていた女の子が「いや、話の流れ的にそうじゃないと思います」と冷静なツッコミを入れる。
「くっ……俺が話の流れを追うのが苦手なばかりに……! ええっと、ちょっと待ってくれ、話を纏めると……バーコードのおっちゃんと彼は別人ってことか?」
バーコードのおっちゃんは頷く。
「ああ、はい、たぶん……?」
ナンパされていた少女がツッコむ。
「なんで自信なさげなんですか」
「くそ……話がややこしくなってきやがったな」
「全然ややこしくなってませんよ」
「いったい何者なんだ!?」
謎が深まったところで大男の方を見ると、何故かより怒り狂っていた。
「っ……ふっざけたこと言いやがってっ!!」
「わ、悪い。……ごめんね?」
「そんなわけねえだろうが!!」
「……えっ、そんなわけない? …………ええっと、バーコードのおっちゃんとナンパ男さんは別人として話がまとまっていたけど、それがそんなことないってことは……やっぱり同一人物なのか!?」
俺が振り返ってバーコードのおっちゃんを見ると、おっちゃんは狼狽えながらこくこくと頷く。
「は、話の流れ的には、そうなる……な?」
「なりませんよ?」
「っ……ダァ! ふざけやがって!? てめえら! クソ野郎とクソ女とハゲ野郎がよおっ!!」
「ええええ!? ワシも!? なんで!? ワシは部外者じゃないのか!?」
「私も挑発はしてませんよ」
「俺もしてないぞ!? なんで怒ってるんだこの人!?」
俺達がキレまくっている大男を前にアワアワしていると、大男はがなるように吠えたてる。
「許さねえぞこのハゲ共ォ!!」
「ワシ!? ワシ中心の怒りなの!?」
「俺はダンジョン配信で一躍有名になった【聖夜】様だぞ!?」
「っ……! 知らないし、ゴリラっぽいタイプの男の名前じゃねえだろ……っ!」
「チャンネル登録者数1万人だぞ!? この俺様は!!」
「すご……いな。うん、まぁ……かなりすごいんだけど……流石に誰もが知ってるようなレベルってわけでもないだろ……!」
俺の言葉を聞いた大男はブチギレる。
「知ってろよ、テメェ!!」
「日本でチャンネル登録してるやつ10000分の1ぐらいなんだから、街中で合った奴が知ってる可能性めちゃくちゃ低いだろうが……!」
「ふざけやがって……許さねえぞっ! 名を名乗れハゲェ!!」
「ワシ!? なんでさっきからワシ中心なの!?」
バーコードのおっちゃんは、おっかなびっくり……というような様子で口を開いた。
「山田……山田 聖夜……」
終始冷静だった少女が、目を開いてバーコードのおっちゃんを見る。
「……山田 聖夜?」
野次馬をしていた人たちが、バーコードのおっちゃんに注目する。
「山田…………聖夜…………?」
あり得るのか、そんなことが。
まさか、そんな……奇跡だ。
「同じ……名前……っ!」
「すごい、すごい奇跡だっ!」
「こんなことってあり得るんだ!」
野次馬たちは口々にそう言う。
真夏だけれど「聖夜」が引き起こした奇跡の瞬間。
それをみんなで喜び、分かち合う、こんな一瞬が世界で共有出来たならば……きっと戦争もなくなるのだろう。
「っ……っぶげらっしゃい!!!! しゃらっ!!」
そんなほんわかとした空気の中、ナンパ男が何故かブチギレる。
「ふ、ふ、ふざけやがって……よぉ!!」
「な、名前を……名前を名乗っただけなのに……!」
「ぶち殺してやるっ!!」
男はそうがなるように吠えたてて、聖夜さんに手を向ける。
その瞬間に感じる魔力の奔流。
魔法……それはこの世界にダンジョンが発生したのと同時に人類にもたらされた恩恵。
銃火器ですら効果の薄いダンジョンのモンスターを倒すための人類の武器が……ひとりの民間人に向けられていた。
「──我が求むは永久の……ッッぐわぁ!?」
男の魔法の詠唱は、俺の拳が男の胸を突いたことで止められた。
男の手は俺の方を向き、再び詠唱を行う。
「破壊せし……うぐっ!」
俺の拳が男の顎を叩いて再び詠唱を止める。
「っ──火炎よっ!」
短い詠唱による魔法が放たれるが、放たれる直前に俺の脚が男の腕を上方に蹴飛ばしていたため火炎の魔法は空に向かって飛んでいく。
男の凶行に驚いた野次馬達は慌てふためいて逃げていく。
「クソっ! 風の刃よっ!」
男が手を振るい、風の刃が発生して俺を狙うが、既に俺はジャンプしてそれを避けていた。
「なっ!? 何故避けられるっ!? 俺様の魔法が!? ──爆ぜ鳴らせっ、空発破っ!」
音爆弾のような爆発音が響くが、耳を塞いでいたことで直撃を避けてダメージはない。
男は目を見開いて吠える。
「っ!? どうなってやがるっ! てめえもダンジョン探索者かっ!? 先読みか!? 妙な魔法を使いやがってよ!」
「違う。俺は探索者じゃないし、魔法なんて使えない。魔力0の一般人だ」
「んなわけねえだろ! 一般人が魔法を防げるわけが……!」
男は吠えるが、防げるのだから仕方ないだろう。
俺は息を整えながら、音に怯んで尻餅をついた少女と聖夜さんに手を差し伸べて、それから離れるように身振りをしながら、時間稼ぎに大男の話に乗っかる。
「……現在、魔法は124種しかない。魔法は全て詠唱が必要だ」
「はぁ!? んな常識、だからなんだってんだよ!!」
「……詠唱が「かえ」から始まる魔法は、一種類しかない。だから、詠唱が二文字目に入った瞬間には、魔法の種類が分かる。手から炎弾が出ると分かるんだから、手を避ければいい」
「──は、はあ?」
「【二字決まり】だ。他の魔法も、おおよそ二文字から三文字もあれば、何がくるかは分かるし、詠唱の長さも事前に分かるから攻撃のタイミングも読める」
大男は俺の言葉の意味が理解できないような表情をうかべる。
「っ! 意味の分からねえことを!! ──狂える魂の奔流」
その男の詠唱を遮るように、スッと男の懐に入り込み、拳を触れさせる。
「その魔法は悪手だ。【一字決まり】……むらさめ」
一文字目で魔法が確定する詠唱。
それはまるで銃を持った人間が「今から頭を撃ちます」と宣言してから撃つようなもので、そんなものが当たるはずもない。
分かりやすく、大きな隙。
俺の拳が深く男の腹に突き刺さり、そのまま後方へと吹き飛ばした。
男を吹き飛ばした先には、何故か逃げていなかった人がいて、男はその人物に乗っかったまま気絶する。
「せ、聖夜さん!? な、なんで!? 聖夜さんが負けるなんて!?」
下敷きになった男の手からビデオカメラのようなものが落ちて地面を転がる。
「ん? なんだこれ」
と、思っていると、俺のポケットに入れていたスマホからブーブーと音が鳴りまくり、なんとなく画面に目を向けると友人から慌てたような文面で「これを見ろ!」と動画サイトのURLが貼られていた。
なんだいったい……と、思いながらそれを開くと、スマホを持って不思議そうにしている俺の姿が映っていた。
「……ん? んん? んんんん?」
またスマホが鳴って、友人からのメッセージが画面に表示される。
「お前、ダンジョン配信者の生配信に映ってバズりまくってるぞ!?」
と……。
動画の中の俺は、俺が手を挙げると手を挙げて、落ちているカメラの方を向くとカメラの方を向く。
「んんんん? あー……えーっと、つまり、これ、配信されてた?」
魔法使いのダンジョン配信者と魔力0の俺の戦闘が、バッチリ、世界中に発信されていたということらしい。
・一般人の人強ええ!!
・聖夜あんだけイキってたのにボコボコで草
・えっ、魔法使えるダンジョン配信者が一般人にボコられるとかあり得るのか? しかも聖夜ってクソ野郎だけどA級だろ? やらせ?
・あのイキリゴリラの聖夜がヤラセで負ける訳ないだろ
・おっ、一般人さんが気づいたっぽい
・よくやった、スッキリしたぞ!
・マジカッコよかったよ
・最初の方のやりとりは笑った
・正義のヒーローみたいだった、憧れる
・奇跡の聖夜被りには吹いたよ
流れていくコメントを見ながら俺はボソリと呟く。
「どうしてこうなった……」
そんな俺の言葉は、俺の口だけでなく、動画を流しているスマホからも聞こえてきた。
・ドンマイ
やかましいわ。
一般人だったはずの俺は、多くの人から嫌われている迷惑系ダンジョン配信者という、武力としても発信力としても厄介な存在を倒してしまったことで……。
一日にして大バズりして、望むこともないまま時の人となってしまったのだった。
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