第9話
それから一週間ほどして夕方病院から電話がかかってきた。何か動悸を急かすような着信音に聞こえた。
「容体が悪化し、延命措置をしているので、急いでいらしてください」
この時が来てしまったのか、と取り急ぎショルダーバッグを肩にかけ病院に駆けつけた。四階のナースステーションに行くと、どうぞこちらへと案内された。延命措置がなされている病室。父の胸に電気ショックを与える器具がつけられているわけでもなく、ドクターと何人かの看護師がいた。父の頭頂側から風船型の呼吸に関する医療器具を使っている看護士が動いていると言えばそれだけで、ドクターは私を待っていたとばかりに、
「これ以上の延命措置は苦しませるだけなので、安らかにお看取りのためにもここで処置を終わらせたいと思います」
と穏やかな口調で告げた。
「もう無理なんですね?」
私は確認して、ドクターがうなずいて、それでもう処置は終わった。ドクターが瞳孔のチェックをして、死亡時間を告げた。そこにいた一同が頭を下げるのを見た。私は一つ大きく息を吐いた。ナースから入院中に処方していた薬の残りの入ったビニル袋を受け取った。一旦そこから出てロビーで姉兄に電話で報告をした。姪が来てくれることになった。姉と兄は翌日早朝に帰省するとのことだった。葬儀屋へは姉から連絡をしてくれて午後七時くらいに運びに来てくれるとのことだった。ほどなくして姪がやって来た。父、祖父の横で二人並んで座った。
「じいちゃん亡くなったんだね」
姪がぼそりと呟いた。
「ああ、そうだな」
私はそう答えるとなんだかやるせないような感情になった。涙が溢れそうになった。
「まさか、お爺さんに泣かされるとは思わんかったな」
私がそう言うと、姪はそっとティッシュを出してくれた。私はそれをやんわりと断った。
しばらく二人して待った。午後七時少し前に葬儀屋がやって来た。ベッドから担架に父を乗せ、そこをあとにした。一階の出入り口には自動車が乗りつけられていて担架を入れた。ドクターやナースが一礼した。私と姪は各々の自動車に乗り込んで先行して自宅を目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます