第48話 イベント当日 一日目

「さぁ~、並んでよ。走っちゃだめだよ。もし走るぐらい体力が有り余っているのなら、お揃いの”ニッカポッカ”を履いて、楽しい楽しい埃まみれの現場に行こう!今なら新谷組特製の”鳶シャツ”も無料で支給しちゃうぞぉ~!」


 誠也は、イベント会場に走って向かおうとする高校生くらいの男の子に優しく語りかけた。


 ニッカポッカに鳶ジャンバー、紫色のサングラスをかけた身長188cmの筋肉質な誠也が優しい声で話しかけると、走っていた高校生たちは規律正しく歩いて会場に向かった。


 以前行ったイベント同様、率先して手伝ってくれるのは嬉しいが、令和の時代にはあまり発して欲しくないことをさらりと言うところが玉にキズだ。だが、本人はいたって平常運転。


 誠也の近くで交通誘導をしている、スポーツジム”プロテイン”の代表、”大胸筋”こと山本さんが「”紡錘状筋ボウスイジョウキン”の様に真っ直ぐに会場まで進んで下さいね~」と独特な表現で呼びかけている。白いタンクトップ一枚で、”やまなかきんに君”ばりの爽やかさでお客様に声をかけている。


 筋肉が発達している人って、やっぱり自分の身体を見せつけたいんだな。もう11月近いのに...。



 パン!ヒュルヒュルヒュル~パラパラパラ...。


 パン!ヒュルヒュルヒュル~パラパラパラ...。



 俺や誠也、山本さんが岐阜駅から柳ケ瀬風雅商店街に向かうお客様を誘導していると、突如商店街の方から数発の祝砲が鳴り響いた。さあ、朝の11時、イベントの開始だ。


 イベントは11時からだが、岐阜駅から商店街に向かう人の流れは朝9時頃からぽつぽつと見られ、10時30分頃には多くの人が会場向かうようになった。


 インカム越しに駐車場係のイブさんから「右奥に車が一台向かいますよ!」と的確な指示が飛んでくる。ここから5キロほど離れているが、今の無線機は非常に優れているため、イブさんの声が鮮明に聞こえる。イブさんは向こうの現場で一生懸命働いてくれているようだ。


 イブさんだけでなく、成りやん、明日香、沙羅、ナベさん、ミッチー、それにミキマルも来てくれた。


 辺さんとミッチー、朋ちゃん、ミキマルは高校の同級生だ。辺さんから「人手が足りないならもっと早く誘えよ、あほ!」と怒られたが、何だか嬉しかった。


 さらに、地元の住民の方々もボランティアとして参加してくれた。駐車場や商店街までの誘導係、イベントの補佐、更には、”戦慄商店街”の住民役として多くの方々が協力している。


 ”戦慄商店街”は、この”柳ケ瀬風雅商店街”の住民が特殊な菌により全員ゾンビに変わってしまったという設定。そのゾンビ役に多くの住民がエキストラとして参加してくれた。2日間で延べ500人程。


 控室なども近くのホテル、”ホテルグラン岐阜”がイベントホールを貸してくれた。


 振付師ハッピー池田先生の指導により、イベントに参加した住民全員がプロ並みのゾンビの動きを習得した。さらに特殊ペイントを施すことで、まるで本物のゾンビのように見えるようになった。


 現役を引退した「フルーツパーラー海老蔵」の初代経営者である寅さんが、杖を突きながら早歩きでパイナップルを食べ、「うわ~!!プシャ~!!」と叫びながら来場者に向かって行く姿は恐怖そのものだ。住民たちはみんな、ゾンビ役を熱演している。


 寅さん...ありがたいけど、転ばないでね。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 子供ゾーンでは、大型滑り台やジャングルジム、エアートランポリンで子供たちが楽しそうに遊んでいる。「はい♡順番通りに並ぶんですよ~♡」と子供たちを誘導する沙羅は、子供たちだけでなく、お父さんたちや若者たちからも注目を集める。


 そんな沙羅に対して「お姉ちゃん、トランポリンで胸を弾ませてくれや~!」と、品のない発言をしたお方たちは、”大胸筋”こと山本さんの弟子、”小円筋”と”縫工筋”に持ち帰えられたという。プロテインの名誉会員さんたちは、お互いを筋肉の名前で呼び合うらしい...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そんな中、公開ラジオ番組を一時からに控えたリンカが、”戦慄商店街”を最初のグループで体験した様で、興奮した面持ちで俺の方にやって来た。


「凄いですよ、根津さん!!めっちゃくっちゃ面白いですよ!!”抜刀少女AYANO”の相棒である武器”紅”を使って...」と、一気に話しかけてきた。もう小さな子供のように無邪気なリンカ。可愛い。


 リンカと一緒に”戦慄商店街”を体験したカーシャも、そのリアリティに感心していた。ただ、「本来ゾンビはあそこまで速く走れないはずです...」と、本場ならではのコメントをしようとしたため、慌ててカーシャの口を閉じた。


 カーシャとリンカは短時間で仲良くなったみたいだ。何でも一緒に経験するって、距離感が一気に狭まるよな。


 リンカは興奮をした感じで「根津さん、ありがとうございました!!一時からの公開ラジオで、今体験してきた”戦慄商店街”の事をネタバレしない程度に話しますね!あと、他のブースも見てきます。カーシャに源さん、さあ行こう!」


 カーシャと源さんは、リンカのボディーガードとして一緒に行動している。リンカは居合を習っているが、主に刀の抜き方や切り方、収め方などの型が中心。実践的な稽古もあるが、その頻度は型に比べて少ないようだ。


 カーシャは可愛らしくお人形のような風貌だが、さすがサーマレント人。死と隣り合わせで、日本とは比べ物にならないほど治安の悪い場所で育った商家のお嬢様。小さい頃から誘拐対策として対人訓練もしっかりと受けている。


 見た目はか弱そう見えるが、体術戦でもそこら辺のごろつきなら4,5人が束になっても勝てないだろう。さらに、俺が”なんちゃって魔法”で作った”伸縮可能な木刀”を使えば、相当数の輩に囲まれても、対応できるだろう。


 まあ、保険として源さんもつけている。源さんはオークをヘッドバッド一撃で倒せる強者。さらに、ボルトや、カンナまでカーシャやリンカに同行させると目立ちすぎるため、二匹には”ふれあい動物ゾーン”で子供たちの相手をしてもらっている。


 おっと、そんなことを考えているうちにもう12時を過ぎている。次はマグロの解体ショーのブースから呼び出しがかかった。


 俺はカーシャとリンカと別れ、マグロの解体ブースにいる柴さんと岩ちゃんの方に向かった。インカム越しに柴さんが「太郎、お客が集まり過ぎて、人がうまく流れない!手が空いているなら来てくれ!」と伝えてきた。


 てんやわんやだな。


 商店街のみんなも忙しそうだ。飲食店は勿論、ブティック彩のオーナー、彩もっちゃんも出血大サービスと銘打ってワゴンセールを行っている。さらには涌田ワクタ呉服屋店の湧田婆さんも”着付け無料体験”や、”商店街を今日と明日、着物で商店街を歩きませんか?”フェアーなどを行っている。


 他の商店街の関係者も様々な工夫を凝らし、イベントを盛り上げようとしている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ???視点


 戦慄商店街から、リンカが出てきた。すごく嬉しそう!!


 リンカ可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。可愛い...。


 やっと生リンカが見れた。やっと生リンカが...。もっと近寄りたい。もっと彼女を近くで見つめていたい。


 でも...。近寄れない...。嫌われたくない...。


 あ、さっそくみんなに伝えなきゃ...。


【感想】”Wonderful Day”集まれ62


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 92 : 山◇Lirinn23kj :2024/10/19 11:52 ID:oOJX01eShd


 やっほーみんな、会場入りしたぜ!!みんなはどうだ?それと...生リンカ発見!!やっぱり可愛いな。あまりに可愛すぎて、時が止まっちまっ...。




 ???は、リンカも買っていたレアチーズタルトをほおばりながら、猛烈な勢いで掲示板に書き込んだ。


 

 イベントはまだ始まったばかり。それぞれが自分なりの楽しみ方でイベントを満喫している。


 それぞれの楽しみ方で...。

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