第29話 襲撃事件
ネズミなどの害獣ではないと分かり、ほっとした。ただ、ほっとしたら喉も渇いてきた。そういえば、源さんに呼ばれるまで成やんとイブさんと一緒に、”柳ケ瀬一番街サウナ”で
あの絶妙なタオルの振り上げのタイミングと手首のひねりは、若手にはまだまだ真似できない芸当だ。さすが、
また今度、サウナ好きの成やんとイブさんを誘って行ってこよう。
そういえば、源さんに肝心なことを聞きそびれていた。源さんにこのカワウソ君たちをどこで拾って来たたのか尋ねると、ここから5分ほどの交通量の多い道路の脇で発見したとのこと。
駆けつけると、緑色の袋の中から弱々しいながらも生命反応がまだあったため、急いでここに運んできたらしい。この時、源さんは言葉だけではなく、身振りと前脚振り、尻尾を振り振りしながら教えてくれた。
何でそんな場所に、希少動物がいたんだ?それもソフトゲージの中に入れられて?
とりあえず俺は座布団の上に
源さん、お願いだから興奮して床をカリカリしないで。3年ほど前の建て替えの時に新調したフローリングなんだから。
さらに、源さんは待ちきれないのか、尻尾がちぎれるじゃないかというぐらい、左右にぶんぶん振っている。
早くソフトゲージの中からカワウソ君たちを取り出さないと、源さんにフローリングを破壊されそうだ。俺は慌ててソフトゲージの中からコツメカワウソをとり出した。
すると...。
少しヨタヨタしてはいるが、二匹は「きゅー!きゅー!」と鳴きながら周囲の様子を伺っている。体長は20㎝程しかない。源さんの体高が約25cmだから、いい勝負かもしれない。
胡坐をかいた俺の膝の上に、一生懸命よじ登ろうとしてきた。人懐っこい生き物なの?
やだ...ちょっと可愛い。何とも言えない愛くるしさがある。
全体的にずんぐりとした体型で、体色はダークグレー。丸い輪郭に平たい頭、つぶらな瞳で甘えてくる。
源さんが嬉しそうに二匹を見て、「可愛いわん!可愛いわん!」と叫び、興奮を抑えられず、その場でジャンプしたり、ぐるぐる回って喜びを表す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カワウソ君たちに、「君たちをここまで運んできてくれたのは源さんだよ」と伝えると、二匹は源さんの方に向かっていき、お礼を伝えるかのように三匹でじゃれ合った。
源さんもまだ生後二ヶ月で、体高もこの子たちよりも少し大きい程度。そんな三匹がじゃれ合う姿は、SNSに投稿すればきっとバズる だろう。
源さんは「カワウソって何だわん?わんと何が違うんだわん?」と俺に聞きまくってくる。いや、むしろこっちが聞きたいぐらいなんだけど...。
とりあえず”ヤホー先生”で調べてみることにした。え~と、”コツメカワウソ”とは...。
⋄ カワウソの仲間の中で最も小型。
⋄ 全長は成体で60~90cm程。
⋄ 体重も成体で3~6kg。
⋄ 生息場所は河川や湖沼、海岸などの水辺。
⋄ 性格は好奇心旺盛で活発。泳いだり、平地を走り回ったりもする。
⋄ 昼行性。
⋄ 社会性があり、人なつっこく甘えん坊。
⋄ 知能も高い。
...と書かれていたので、源さんにも教えてあげた。
「小さくて可愛いんだわん!!」と、現在体高が25cmの小さくて愛らしい生き物が興奮している。源さんは成犬になっても、コツメカワウソたちの半分ぐらいの大きさにしかならないだろうが...。
二匹のカワウソ君たちは俺の方に近寄って来て、「きゅー!きゅー!」と鳴いて何かを訴えているようだ。
源さんが「なにか食べたいんだわん!お腹減ったんだわん!」と言ってきた。
確かにカワウソ君たちに”鑑定”を唱えてみると、二匹から”空腹状態”と示された。ネットでカワウソ君達のご飯を調べてみると、二ヶ月なら生魚や生肉を食べられる様だ。
「源さん、お店から肉を取ってくるね」と言って、お店から”豚こま”を少々拝借してきた。こういう時、精肉店は便利だ。ただ、カワウソだからお魚の方が喜ぶのかな?今度、新鮮な魚をサーマレントで取ってきてあげよう。
”豚こま”を細かく刻んであげると、「きゅー!きゅー!」と喜び、はぐはぐと食べ始めた。すごく幸せそう。特別に、源さんにも肉を焼いてあげ、三匹そろってご飯タイムにした。
すると源さんは「ご主人様!美味しんだわん!肉好きだわん!肉の味がしみ込んだご飯も好きだわん!”エガシラ焼き肉のたれ”も大好きなんだわん!」と、カワウソ君たちの横で、モリモリと食べている。
三匹ともご飯を奪い合う事なく、だいぶ遅い夕飯を仲良く食べている。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、安心したのか満腹になったからなのか、三匹はすぐに寝てしまった。三匹は寄り添い、幸せそうに目を細めて、まるで笑っているかのような寝顔を浮かべている。
しばらく三匹の寝顔を見つめていた。そして、ふと気になったことを思い出した。なぜ道端にカワウソがいたのか?そう思った俺はカワウソ君たちに鑑定をかけてみた。
その結果はやっぱりだ...。
なんだか嫌な予感がしたんだよね。鑑定結果は違法ブローカーによる密輸入と密売だと俺に伝えてきた。
さらに鑑定を強めると、二匹をソフトゲージに入れてアジトに運ぶ途中、トラックの荷台から落ちてしまったらしい。そこを散歩中の源さんが偶然見つけた...という事らしい。偶然かどうかは分からないが。
もしかしたらこの子達が、友三爺さんが言っていた、”俺たちに助けを求める者たち”なのかもしれない。いや、きっとそうだと思う。こんな希少な動物たちと出会う事なんてまずありえない。この子達が俺と源さんに救いを求めたのだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今、カワウソのつぶらな瞳が人気を呼んでいる...らしい。
特にこのコツメカワウソは、成長しても体長が小さくて賢く、人に懐くため日本人にとても人気があるという。
しかし、2019年のワシントン条約により、商業目的の国際取引は原則禁止となった。その為、合法的に購入する場合、その貴重性から一匹100万円以上するらしい。
特に幼体の場合は150万以上するという。ここで寝ている三匹を合わせると320万越えか...。何ともなあ...。
可哀そうに。人間の都合に振り回されたんだな。何だかここには、そんな子たちが集まるのかな?
まっ、いいか。お袋も寝たようだし、探索魔法”森本オレ”を使って密輸入アジトの居場所を探り出し、組織自体を解体しちゃおう。恐ろしいことをさらりと言ってしまう自分にちょっと引いてしまう。まあ、友三爺さんと同じ血かな。
イメージは悪を成敗する”必殺お仕置き人”の
だって、どうせお店にこんな可愛い生き物がうろちょろしていたら、すぐにSNSにあげられてコツメカワウソがここにいることがバレてしまうだろう。
それならねぇ...。うふふふふ...。
こちらから、悪い人たちに会いに行って来よう。行って潰しちゃおう。どうせ悪い人たちだし...。
さあ、そうと決まれば行動行動...。
サーマレントで馬車並みの脚力をもっと強化すれば、組織をつぶして明日の朝までには帰ってこれるだろう。防犯カメラもオービスにも反応しない身体に改造しちゃえば...。ふふふ。すぐ行けるし、帰ってこれるよ。
待っていてね。悪い人たち...。
さて...この後、太郎は悪徳業者の所に突入し、見事に日本有数の密輸入グループを一人で壊滅するのだが、それはまた別のお話。機会があればまたどこかでお話ししようと思う。機会があればね...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつもは源さんに起こしてもらう朝も、今日は源さんに”援軍”が加わった。そう、源さんに仲間が二匹増えた。源さんが俺の顔をペロペロと舐めて起こそうとすると、コツメカワウソ君たちも真似をして舐めてくる。
可愛いけど、三匹そろうと強敵だ。「「きゅー♡きゅー♡」」と「わん!わん!」攻撃。
う~ん。もう少し寝かしてくれ。昨日はちょっとあの後遊んできたから、睡眠が足りていないんだけどなぁ、とぼやいても無駄のよだ。俺が布団で頭を被って逃げても、小さな体で巧みに布団に潜り込み、布団の中からの追撃を仕掛けてきた。
はい、参りました。降参です。起きますから、勘弁して下さい...。
眠い目をこすりながら、朝ご飯を食べに三匹を引き連れて、一階のお袋やトヨさんの待つ居間に向かった。
「「まー可愛らしい!!」」
お袋とトヨさんをメロメロにするほどの愛嬌のある表情と仕草で、二人に甘えていく二匹と一匹。よく分かっているじゃないか。
新入りの二匹に対し「この子たちはどうしたんだい?」とお袋が聞いてきたから、「道に落ちているのを、源さんが拾ってきた」と、ありのままを話した。すると「なんでこんな可愛い子を捨てるなんて...。信じられない世の中だよ」と、お袋はぶーぶーと誰に言うでもなく、文句を言っている。
まあ落ちていたのは間違いないが。
お袋がコツメカワウソの幼体が、一匹150万円以上することを知ったら、びっくりすると思うから伏せておいた。
そんな中、居間にあるテレビからニュース速報が流れた。
「襲撃事件です!名古屋にある大規模密輸入グループが、何者かの手により襲撃されたもようです。この業者は~」と、どこのチャンネルもこのニュースで持ち切りの様だ。
物騒な世の中だね~。あー怖い。うちも気をつけようっと。
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