第19話  友三爺さん、アーレントさん、見ているかい...?

「最近では意識も混濁している様で、神父からは「手の施しようがない...」と言われてしまいました。あいつ等は金だけをせびる!何かにつけて「寄付をしろ、寄付をしろ!」と。本当に必要な時には、何の役にも立たない!だから寄付を止めたのです!」


 サイモンさんの全身は怒りに震え表情も険しい。そして、その怒りを隠そうともせず、俺に訴えてきた。


 サーマレントの人たちは教会に対して、あまりいい印象を持っていない様だ。先程のサイアスにしても神父の事を“陳腐”呼ばりしているし。


「是非、我が父を助けて下さい!お金ならいくらでも出します!我が父をどうか、どうか...!」と、サイモンさんは俺の前で泣き崩れ、必死に俺のふくらはぎを両手でつかみ懇願してきた。


 その光景を見ていたサイアスやムーブ、ジン、ベレッタがこっちに駆け寄ってきて、いきなり俺の前で全員が土下座となった。


 な、何事ですか...⁉みんなが土下座をしながら、必死な形相で俺を見上げる。さらに、俺の足元にはサイモンさんが俺のふくらはぎを必死に掴み、泣き崩れている。そしてなぜだか、ベレッタの横には、源さんまでもがお座りをしている。源さんは相変わらず大泣きをしている。源さん、何をしているの...⁉


「お願いです!ダイス様を救って下さい!!俺らの殆どは孤児院育ちです!ダイス様がいなければ、俺たちはみんな...食うもんも与えてもらえず死んでいたと思います!ダイス様が孤児院に食料や必要な物資を寄付してくれたから、俺たちは大きくなれた!!」


 ムーグが俺を真直ぐに見つめ訴えて来る...。


 友三爺さん、そして、アーレントさんも見ているかい...?寄付したお金がちゃんと使われていた。そして、そのお金によって多くの若者が、真直ぐな瞳を持つ青年に成長したよ。


 今ではダイスさんを救おうと、訳も分からない俺に対して、恥も外聞も捨てて土下座までしている。


「ダイス様に比べて、“陳腐”らは、いつも偉そうなことを言う割には、何にもしてくれなかった!いや、今もしてくれない!自分達だけのうのうと生活をして、一部の貴族や権力者の為に神聖魔法を使う!太郎さん!いや、太郎様!お願いします。ダイス様を救って下さい!」と、サイアスも叫ぶように俺に訴えてきた。


 四人と一匹が、お天道様が少し西に傾きかけたお昼1時ごろ、深々と俺に対して頭を下げた。


 行きますよ、大丈夫、ちゃんと行くから。これでダイスさんの所に向かわなければ、友三爺さんに叱られる。絶対に枕元に出てきそう。いや、何となくだが、この世界に叱られるような気がする。あくまでもなんとなくだけど...。


 あと間違いなく、源さんから嫌われるだろう。行こう!ダイスさんを救いに!源さんから嫌われるなんて想像しただけで絶望感に襲われてしまう。


「では、ダイスさんの所へ急いで向かいましょう!案内を頼んでもよろしいですか?」と言いながら俺は、どちらの馬車に乗り込むべきかで迷っていると、「はい!ありがとうございます!ありがとうございます!!」と、サイモンさんは両頬から涙を流しながら、俺のふくらはぎを強く握りしめた。


 周りで見守っていた、バロンやエメリアも安堵の表情を浮かべている。そして、「私は、タロウなら最初から助けてくれると思っていたわよ!!ねぇ~タロウ♡」と言って、俺に抱き付いてきた。


 すると、サイアスが「こらこら、婆!太郎様をたぶらかすんじゃねえぞ!!あまりに時間をとらすんなら、本当の年齢を太郎様に教えるぞ!!」とエメリアにちょっかいをかけた。するとエメリアも...。


「何よ!!サイアス、本当の年齢って!!エルフとしてもまだまだ若い方なのよ、私は!!」と言ってサイアスを追いかけ回す。


 あのー。時間が無いんですけど...。ほらほら、ダイスさんの所に行きますよ、二人とも!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺たちは二手に分かれた。俺と源さんはサイモンさんと同じ馬車に乗った。お馬さんは二頭で頑張って俺たちを引いてくれるらしい。


 俺たちの乗る馬車を引いてくれる馬は、記念すべきシューホン100号と101号らしい。初代アーレントさんの時代から受け継いだ名前。100号まで来たのね...。


 異世界では初めての馬車旅。ウキウキするとか言っちゃいけない場面とは分かっているけど、やっぱりウキウキする。小学生の頃、明治大正村で馬車に乗って以来だな。


 って、い、痛い!!お尻が痛い!!明治大正村で馬車に乗った時はこんなに痛くなかったはずなのに⁉い、痛いよ~、痛いよ~!!馬車イヤだ!!源さんと走って行きたい!!


 でも、馬車から降りて「走って行きます!!」とは言える雰囲気じゃない。ひたすら我慢を決め込んだ。そして思う。異世界人のお尻は、どんだけ丈夫なんだよと...。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 サイモンさんとダイスさんが住む屋敷に着いた。あの扉の場所から2時間、俺のお尻は...真っ白になっちまった。何か言ってみたかっただけだけど...。とりあえず痛かった。もう2度と乗りたくない。


 あとサイモンさんの家だが、お城の様なお金持ちの家を想像していたが、そんなことは無かった。まあ、十分立派なんだけど。


 俺のお金持ちの邸宅イメージとは、少し違った。俺のイメージだと敷地面積がとにかく広く、門から屋敷まで馬車でも数分かかり、邸宅の前には広大な庭園。そして大きな噴水。


 いざ屋敷につくと部屋やゲストルーム、お風呂やトイレが沢山ある、そんなセレブの家を想像していた。


 だって、サーマレント全土に支店を置く商会の邸宅と聞いたから...。


 でも、現実は...。


 現実は違った。門から屋敷まではすぐだし、噴水も無ければ綺麗な蝶が飛び回る庭園もない。 


 しかし、屋敷はそれなりに大きいし、邸宅の隣には何やら大きな倉庫のような建物が5棟は見えるな。いや、もっとあるか。更に厩舎も数棟あるようだ。


 まぁ、見栄よりも、使いやすさを取ったって感じかな。


 おっと、今回の目的は、お宅訪問ではない。ダイスさんの病気を治すことだったな。主旨を間違えないようにしないとな。


 屋敷に着くと「こっちです太郎さん!!こっちです!!」とサイモンさんは一秒でも無駄にしたくない、そんな勢いでダイスさんが待つ部屋に俺を連れて行こうとする。


 アーレント邸で働く使用人たちも、いきなりすごい勢いで駆けつけたシューホン100号と101号にびっくりしている。そして、いざ帰って来たと思ったら、よく分からない男を引っ張って邸宅内に連れて行こうとするサイモンに、驚きが隠せない様だ。まあ、そうだよね...。


 そ、そんなに引っ張らないでサイモンさん!ちゃんと行きますから!ちゃんとダイスさんを診ますから!こんなにサイモンさんて、力があったっけ?というぐらいの力でサイモンさんは俺を、ダイスさんの部屋に一刻も早く連れて行こうとした。

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