第12話 探索魔法と子犬のオーク狩り

 サーマレットの地に降り立ち、倒木にもたれながら、暖かな外気に身体をゆだねた。地球上で消費した魔力が、体内の細胞たちによって吸収されているのが感じられる。黒豆しばの源さんも、地面に横たわりゆったりとした時間を過ごしている。


 周囲には無駄な建物が一切無い。遮るさえぎものが殆ど無いため、優しく温かな風を全身で受ける。いかんいかん。眠くなってしまう。源さんも眠たそうに欠伸をし始めた。


 今日はオーク肉を持って帰るという重要な使命がある。お昼寝をしに来るのはまた今度だ。


 だが、やみくもにオークを探していては日が暮れてしまう。魔物が平原にぽつんと立っているのは、ゲームの世界ならありえるかもしれないが、実際にはねえ...。徘徊じゃないんだから...。


 この広大な平原を俺の視力だけ探し回っても、オークだけではなく他の魔物の姿も確認することはできそうもない。


 こういうファンタジー的な世界って、魔物がもっと辺り一面にいると思っていたけど、もし実際にそう簡単に出現したら、こちらの世界の住民たちは安全には暮らせないだろうな。


 まあこの為、"探知魔法"を創り出すことにした。もはや、魔法の無い生活なんて考えられない。それぐらい、魔法の便利さに気が付いてしまった。


 一般的に探知魔法とは、特定の人や物、情報を見つけ出すための魔法。この探知魔法には、主に受動探知と能動探知が存在する。


 受動探知は、特定の人や物、情報をに感知する能力。一方、能動探知魔法は、に特定の人や物、情報を探し出す能力。


 今回は、オークを意図的に探したいから、能動探知魔法が主になるな。


 更に驚くなかれ、俺の探知魔法はナビゲーションシステム付き。


 ちなみに、ナビゲーションシステムの声は、日本で有名なナビゲーターであり、俳優でもある森本オレさんの声を採用。だってこの人の声、好きなんだもん!


 それにしても、魔法って最高だよな。俺の探知魔法を使えば、欲しいモノが探し放題になるよな。絶対。


 今回はオーク肉だけど、俺が開発した探知魔法を使えば、色々な肉や魚や野菜、いやいや、貴重な山の幸なども探せるだろう。


 もしサーマレントに日本と同じような松茸や舞茸、岩海苔、さらにはトリフなどがあれば、収穫し放題かもしれないな。乱獲しない程度に探してみようかな。


 夢が広がるな。のんびりと色々な事に挑戦してみよう。


 さあ、夢は後回しだ。まずはオークを狩って、お袋とトヨさんを安心させないと。これ以上、二人からの圧に耐えられそうにないからな。


 俺が一人で魔法を創り出している最中、源さんは心地よい風を浴びながら日向ぼっこを楽しんでいた。


 俺が動き出したのを感じたのか、源さんは大きな欠伸をした。


 源さんごめんね。起こしちゃったね。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 源さんは俺と話せる様になった事で、俺と出会うまでの出来事を身振り手振り、それに尻尾を交えて話してくれた。俺と出会うまでは心細く、寂しかった事。また、寒すぎて、母犬の姿が見えていた事などを話してくれた。


 もう少し助けるのが遅くなっていたら、本当にやばかったかもしれないな。


 何はともあれ、源さんが元気になって本当によかった。ただし、源さんには他の人の前で話すことを禁止した。その代わり、人前では"念話魔法"を使って意思疎通を図ることにした。その旨を源さんに伝えると、源さんは賢く、「分かりましただわん!」と俺の頭の中に語りかけてきた。


 そんな源さんに、今回サーマレントに来た目的は魔物、オークを狩ることだよと教えた。「いいかい源さん。オークを狩るけど、獰猛で凄く大きな生き物なんだ。怖かったら遠くで見ているんだよ。絶対に無理をしちゃだめだからね」と教え込んだ。


 すると源さんは、 「大丈夫ですわん。自分の身体能力は、自分が一番分かっていますわん。ご主人様の足手まといになるような真似は、絶対にしないですわん!」と元気良く俺の頭の中に話しかけてきた。


 やだ...この子賢い♡可愛いし忠犬だし。いい子に出会えた。


 さて、源さんと一緒にオークを探しに行こう。俺は探知魔法に「半径2km圏内でオークがいる場所を教えて」と聞いてみた。すると、「ここから1,5 km南西方向にオークが4体いますよ」と、ササヤくような声で俺に教えてくれた。ありがとう森本オレさん!


「さあ、源さん!お互い身体能力が大幅あがった者同士、走って行こうか!!」と源さんに話しかけると、源さんはこちらを振り返り、「はいだわん!!」と尻尾をぶんぶんと振って喜びをアピールしてきた。そして、源さんは...ものすごいスピードでオークの方へと向かって行った。


 ちょ、ちょっと源さん!!は、早すぎるって!!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 オークまであと300mという所で、源さんもオークの存在を感じ取った様だ。「ご主人様!」と言ってきた。さあ、向かおう!! 


 着いた場所には、4匹のオークがいた。合計で500㎏ぐらいかな?もう、目の前のオークが肉の塊にしか見えない。多分俺の目は、$のようになっているだろう。オークの皆さん、ご愁傷様です!!


 今回は、前回は捨てた内臓系も全て有効に活用したいと思っている。ホルモン、ミノ、センマイなど、食べれる部分は沢山ある。前回はオーク肉を地球人が食べて大丈夫か、病気にならないか心配だった為、特に危険そうな内臓系は泣く泣く破棄した。


 しかし、今回は食べれる部分は全て持ち帰ろうと思う。その為に、今回は食品用に改良した"クリーン"の魔法を使ってみようと思う▫してから販売しようと考えた。

 

 魔物でも殺してしまったら、最後まで大事に責任を取らないと食べないと申し訳がないよね。


 という分けで、目の前の食材、いや、オークをどう仕留め様かと迷っていると、尋常じゃないスピードでオークに向かって走っていく4つ足の黒い物体が、俺の横を駿足シュンソクで通り過ぎて行った。


 源さん...であっていると思う。


 源さんは猛スピードのまま、1匹のオークの腹部に向かって、頭から突っ込んでいった。


 バッコーン!!


 オークは「グエ~!!」と呻き声をあげ、5mぐらい後ろの木まで吹き飛んでいった。そのオークは、2度と立ち上がることは無かった。


 そのままの勢いで、源さんは残りの3匹にも、ヘッドバッドをお見舞していった。


 バッコーン!!  「グエ~!!」


 バッコーン!!  「グエ~!!」


 バッコーン!!  「グエ~!!」  


 それぞれが似たような、いや全く同じ最後の一言を漏らし、オーク4体は肉の塊となった。


 ぼーと、源さんの動きを見ていた俺は、はっと我に戻り、「源さん大丈夫⁉、頭痛くない?」と聞いた。


「全然大丈夫ですわん!こっちの世界に来てから、ものすごく身体が軽いですわん!」と尻尾をぶんぶん振って、誉めてほめてアピールをしてくる。


 よしよしと源さんの頭を撫でてあげると、仰向けにひっくり返ってお腹を出した。お腹もなでなで。すごく目を細めて嬉しそうな表情をする。


 やっぱり可愛い。


「でも...無理だけはしちゃだめだよ」と、源さんのお腹をなでなでしながら伝える。すると源さんは、「無理はしないですわん、ご主人様!」と言ってお座りをした。


 さて、このオークたちの下処理を始めないと。まずは血抜きを行って、次に皮をはぎ、内臓を傷つけないように各部位に分けて...行うつもりであった。しかし、魔法で下処理とクリーンをかけて全部済ましてしまうことにした。


 せっかく培った力だ。使わないのと損だよな。


 オーク4体に向かって血抜き、皮はぎ、各部位に分ける、さらにクリーンと願った。4体のオークは一瞬光った後、俺のアイテムボックスに自動的に収納された。


 前回の収納時点では、"オーク肉ブロック" 60との表示だったが、今回からは、"オーク肉肩ロース" 60に変わった。肉の部位ごとに分けることで、すぐにお店に出せる状態になった。


 さあ、沢山のオーク肉が手に入った。いや、それだけじゃない。前回は食べなかった内臓系も豊富にある。ふふふふふ。まずは味見をしないとな。


 源さんと二人で、この晴天のサーマレントでバーベキュータイムだ!!


 さあ、源さん、一緒にたくさんの肉を味わおうね!!

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