高校生の部
第45話:高校生になりました
特筆すべきことのない平和な1年を過ごし、僕は高校生になった。志望校に、ちゃんと合格できた。姉さんは、自分のことのように喜んでくれた。頭の良い高校ではないというのに、そんなことは関係ないらしい。
誰のどんな言葉より、姉さんたちからの褒め言葉が嬉しかった。
高校に入学してすぐ、友達ができた。高校では変な噂は流れなかった。同じ中学出身で、いじめに加担していた人間もいたが、高校には持ち込まないようだった。というのも、比較的消極的だった人しかいなかったから。
理由もよくわからず、空気に飲まれていただけなんだろうと思って、僕はその人達からのいじめは無かったこととした。
僕は、高校では演劇部に入った。
馴染めるか不安だったが、シャーペンの芯のケースの開け方がわからなかったおかげで、とてもいい友達が出来た。当時の僕は知らないが、一生の友達だと言えるような人だ。本人には言えないが、異性の親友とすら思っている。
ただ、困ったことがあった。進路である。
僕の通っていたのは、総合学科という少し変わった学科だ。高校2年からのカリキュラムは、高校1年のときに自分で決める必要がある。一般的な教科以外にも、多種多様な教科があり、大学ほどの自由度ではないにしても自分で選んで組み立てるのだ。
それは、高校1年の頃に進路を決める必要があるということ。
そして、決めた数年先の進路に責任を持たなければならないということだ。未来の自分に責任を持つ。重いと思った。
そのとき、思い出した。
大人になって互いに相手がいなければ、結婚しようという姉さんとの約束だ。姉さんが外で働いて、僕は家で出来る仕事をする。
だから、僕は進学に必要な科目よりも、文章表現の授業やマーケティングの授業などを優先して選択した。姉さんも、僕の選択を応援してくれた。
出来上がったカリキュラムを姉さんに見せると、彼女は笑った。
「よかやん、君らしくて」
「へへへ、せやろ?」
「あと私のこと好きすぎやね」
「それはお互いさま」
姉さんと一緒に生きるために、役立つ授業を取った。高校を卒業して結婚して、二人で一緒に、死ぬまで楽しく幸せに生きるために。姉さんはそんな僕を見て笑って、「愛してるよ」と言ってくれた。
高校に上がって、他にも変化があった。
学校が、楽しくなったということだ。友達がいて、イジメられることもなく、部活も大変だけど楽しい。授業も、中学よりは面白かった。まだ自分で選んだ授業ではなかったが、それでも面白い。あまり真面目に受けてはいなかったが。
男女問わず仲の良い友だちができて、遊ぶことも増えた。
その反面、姉さんと会う回数は、月を追うごとに減っていった。そのことに罪悪感や申し訳無さや寂しさを感じてはいたが、姉さんが「学校が楽しいのはいいことだし、進学してすぐだしね」と言っていたから、それに甘えていたんだと思う。
頻度が下がったとはいえ、週に1回の掃除と作り置きは続けていたし、土日も友達との予定がないときや部活終わりなどには会いに行っていたが。
思えば、このときの僕は、生まれて初めて心の底から学校が楽しいと思えたから、学校の友人関係を優先していたんだろう。
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