第42話:養母さんからの呼び出し
お泊りの翌々日、養母さんから呼び出された。迎えに来てもらい、養母さんの家に向かう。藍ちゃんは学校終わりにそのまま友達と遊んでいるのか、まだ帰宅していなかった。
養母さんに通されリビングに座ると、養母さんはお茶をいれてくれた。
「最近どう? あの子ちゃんとやれとる?」
「最近は結構元気だよ、この前も二人で三宮行ったし」
「よかったばい」
「まあ家事はサッパリやけどね」
「目に浮かぶばい」
あははと苦笑いするしかなかった。掃除しても掃除しても、毎週ゴミと衣服が散乱して散らかり放題になるのを見ているから。養母さんが言うには、この家でもそうだったのだそうだ。養母さんは困ったように笑いながら、お茶をすすった。
「まあ家事に関しては忙しいんやろね、仕事にバンドに色々やりよるし」
「ほんに一緒に住んでほしかよ」
「出来たらそうしたいっちゃけどね」
「それと、君らデキとるん?」
飲みかけていたお茶を少し吹き出してしまった。近くにあったティッシュで、養母さんがお茶を拭く。
「はい?」
「どう見ても姉弟の雰囲気やなかけんね?」
「まあ、それは、そう思う」
年齢差さえなければ、はたから見れば完全に恋人の距離感だ。外出時もピッタリくっついて座るし、歩いているときも手を繋いだり腕を組んだりしている。家に帰れば抱き合う。姉弟というには、あまりにも互いに距離が近すぎる。
それに、養母さんには口が裂けても言えなかったが、行為もしている。互いに姉弟とは違う好意があるというのも、察してはいた。
「で、どうなん?」
「いや明確にそういう関係なわけやないよ」
「あれ? そうなん?」
養母さんは「私はてっきり」と言って、微笑んだ。それからティッシュを捨てて、また席に戻ってくる。
「一つ言っておくばい」
「はい」
「私はあんたら二人がどげん関係になろうと、よか思うとる」
養母さんの口調はいつもどおりだが、声の雰囲気は真剣そのものといった風情だった。
「法的にも倫理的にも問題なかことやしね」
「いや待って年齢は法的にも倫理的にも問題では?」
「ははは、せやった」
「もうー」
「たまに二人に年の差があるん忘れるごた」
快活に笑う養母さんを見て、僕も笑顔になった。そんな大事なこと忘れないでくれよ、と思った。
ただ、今は正直わかる。本当に七つも年が離れているのかと、書いていてたまに疑いたくなるのだ。
「ま、そういうこったい」
「いやどういうことなの……」
「話はこれで終わりったい」
終わりと言われても、と僕は動けずにいた。なんか一方的にアレコレ言われたが、結局どういうことなのだろうか。養母さんが、僕らをくっつけたがっているように聞こえて仕方がなかった。
確かに、僕らは互いに互いを一番に思っているだろう。僕はもちろんそうだし、姉さんもそう思ってくれているのだということがひしひしと伝わってくる。それがわからないほど、鈍感ではないつもりだった。
しかし、それは恋愛感情とはまた別のものである気がしていた。中学生の僕にはまだよくわからなかったが、深い愛情があることとそれが恋愛感情であるかどうかは別だということは、なんとなく直感的に理解していた。それは、これまで読んだ文学や文芸作品、遊んできたゲームなどにも描かれていた違いだった。
「ま、あんま深く考えすぎんでよかよ」
「んー、まあ」
「ヒロ君は昔から考え込む癖があるけんね、まあそこがよかとこばってん」
「へへへ」
ちょっとだけ、むず痒かった。
今にして思えば、恋愛感情が皆無だったとは言い難い。むしろ、恋愛感情だと断定できる。
当時はこれは恋愛感情とは別だろうという漠然とした憶測だけを感じ取っていたが、それは全くの間違いだった。家族愛とは別の感情があるという自覚と、恋愛経験の少なさからくる自信のなさとがあり、自分の感情がよくわからなかった。
家族愛とも恋愛とも違う、別の感情があることは知っていたが、それらの微妙な差異に気づけるほど大人ではなかったということだろう。
恋愛感情があるという自覚はしていたと思うが、その自覚に確信が持てなかったのだ。
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