第10話:養母さん料理教室
「ヒロくんが作ったご飯が食べたい!」
姉さんが、唐突にそんなことを言った。いつもの公園の広場のベンチで座りながら、奥歯でコショウでも噛んだかのような顔で。僕は料理ができるなんて話は、したことがなかったし、実際作ったことはなかった。調理実習も、小学3年ではなかったし。
「え、料理したことないけど」
「それでもいい! なんか食べたい!」
「えー……」
「食べたい!」
そんなわけで、養母さんに料理を教わることになった。姉さんの大好物が肉じゃがだということで、肉じゃがの作り方を教えてくれるらしい。僕はどうしてこうなったと思いながらも、はじめての料理にワクワクしていた。
「まずは具材ば切らないけんね」
じゃがいもと人参を乱切りにする。養母さんが手本を見せてくれて、それを見様見真似で具材を切っていった。玉ねぎはくし切りに。お肉は、一口大に切っていく。肉と野菜は違うまな板を使い、肉を切った後はまな板と包丁を洗った後に熱湯をかけるのだということも教えてくれた。
「次は油ばひいて、肉から炒めます」
「はい!」
お肉を炒めると、いい匂いがした。もう美味しそうだが、実際に食べても肉の旨味以外の味はしないだろう。そこに野菜も加え、全体に油がまわったら砂糖と水を注ぐ。砂糖を先にいれるのは、少し意外だった。
「次に合わせ調味料ばい」
顆粒だし、みりん、酒、醤油を混ぜ合わせる。酒は料理酒を入れるくらいなら、入れないほうがいいと養母さんは言っていた。雑味が出てしまうのだそうだ。普通に清酒を入れたほうがよいのだそう。ちなみに、僕の実家では料理酒すらも使っていなかった。後日親に隠れて探してみたが、みりんもなかった。
合わせ調味料を鍋に入れて、アルミホイルで落し蓋を作る。あとは弱火で煮込むだけ。
養母さんは最初に具材を切る手本を見せてくれた以外、口を出すだけで手は出さなかった。説明がわかりやすくて、すごくいい先生だ。姉さんが何度もチラチラと覗きに来ては、養母さんに追い返されていた。
煮込み時間が終わり、落し蓋を取る。
「じゃがいもとにんじんに箸が通りゃ、完成ばい」
スーッと、難なく箸が通った。
「できたー!」
「どれどれ……」
見た目は完璧だったように思う。ちょっと炒めるときに玉ねぎに焦げ目がついたくらいだ。養母さんは笑いながら「それはそれで美味しかよ」と言ってくれた。養母さんが味見をして、手でOKサインを作る。僕も一口食べてみたが、少なくとも僕の母親の作る料理よりは美味しかったらしく、日記には「母を越えた」と書かれていた。
「出来たん!?」
姉さんがドタドタと走ってきた。
「この子天才かもしれんわ」
「いや言い過ぎやって」
「まじ?」
姉さんに肉じゃがをよそい、食べてもらった。目をキラキラとさせながら食べてくれて、期待に緊張が増す。
「え、めっちゃうまい」
「教え方がよかったけん」
「将来二人で住むなら、ヒロくんが料理係ね」
「姉さんは作れんの?」
「壊滅的ばい」
「そんなに!?」
養母さんが困ったように笑いながら、以前姉さんが料理をしたときのことを話してくれた。養母さんが同じように教えたのに、ちょっと目を離した隙に謎のアレンジをして台無しにしてしまったらしい。出来上がった肉じゃがはおよそ食べられたものではなく、肉じゃがとすら呼べないような代物だったそうだ。
結局、カレーに生まれ変わったらしい。カレーは偉大だなあ。
「美味しくなると思ったんやもん」
「肉じゃががこげん複雑な味になるんやなあっち思ったばい」
「アレンジしなければいいのでは?」
「む! それは無理! 内なるアレンジャーの血が騒ぐけん!」
「アレンジャーの血って何」
結局またいつものボケとツッコミになったが、その後も姉さんが美味しい美味しいと言いながら肉じゃがをたくさん食べてくれた。たくさん作ったから、その日の晩ごはんにも出たらしく、鈴ちゃんや藍ちゃんも褒めていたと後日聞いた。
それから僕は見事に料理にハマり、養母さんに度々料理を教わった。
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