好きな本を語るだけ

藤原くう

「四畳半神話大系(森見登美彦)」

青春ものは数あれど、お腹がひっくり返ってしまうほど笑えるのに、ほろ苦くもあり、しんみりさえしてしまうものを、わたしはほかに知りません。



冴えない大学生の「私」が、悪友の「小津」や後輩の「明石さん」らとともに、騒がしくもほろ苦い大学生活を送る



という話なのですが、



登場人物がユーモラスで、起きることがコミカル。


バカらしいことが起き、それに「私」は翻弄されていく。翻弄するのは、「私」の周囲の人間もだって負けていません。


例えば、小津という男は、「私」に対してちょっかいを仕掛けてくる妖怪のような(雰囲気という意味でも)キャラです。でも、彼女がいることを隠したり、案外主人公のことを思っていたりして、案外憎めない。


登場人物にギャップがあるんです。ヒロインである明石さんは、クールキャラでありながら蛾が嫌いで、ヤツが来たら飛び上がって震えるほど恐怖する。ツンとしてながらかわいいところがあります。


話も面白いんですが、そこは読んでからのお楽しみ。本当にでたらめで、笑い転げるくらい面白いです。


(わたしが好きなのはダッチワイフ……じゃなかった「香織さん」の話です)




でも、なによりもわたしが好きなのは、地の文です。


物語は「私」の視点で綴られていきます。主人公が私たちに語りかけてくる感じなんですけど、それがまた面白い。


一文一文は長いんですよ。難しい単語も割と出てきます。


でも、読みにくいということがない。むしろ、めちゃくちゃ読みやすいんです。それだけのテンポと力が文章にはあります。


比喩が独特で、似たようなものを並べてテンポを生み出し、ヒョイっと意外なタイミングで出てくるオノマトペ、締めは「私」の感情のこもった言葉……。


なんというか緩急がすごい。カチコチのお堅い文章から、柔らかい言葉がポーンと飛んでくる。それが面白いというか。




長くなっちゃいましたけれども、めちゃくちゃ面白いので、ぜひ。

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