死という経典

天野創夜

何故彼は自殺したのか?


 ※この作品はフィクションです。現実から切り離して、未来を明るくして読んでください。





 ──人道善太じんどうぜんたの葬式は身内と親しい友人だけで行われた簡素なものだった。

 しかしながら、狭い会場の中には大勢の人でぎゅうぎゅうになっている。

 そのどれもが悲しみの表情を浮かべており、中には声を出して号泣するものもいた。

 それだけを切り取れば、如何にその死んでしまった善太という人間が、皆から愛された存在だということがようように分かることだろう。


 人道善太は人気者だったそうだ。

 気さくで明るくて、真っ直ぐな性格をしている男子高校生らしい。

 ルックスも良く体は引き絞られ、可愛い彼女だっていた。そして学力も学年一位という華々しい成果を叩き上げたもじ通りの優等生だった。


 両親からは一人息子だったこともあり、いっぱいの愛情を注がれていて、また父親が医者だったこともあり、裕福な家庭だったことは想定できる。


 きっと何か不運な出来事が起こってしまい、その果てに命を落としたに違いない。

 単に交通事故かもしれないし、他殺なのかもしれない。

 だが残念なことに、人道善太の死因はもっと別だった。


『自殺』──自宅のマンションからの飛び降り自殺であった。

 骨はあらぬ方向に折れ、顔は絶望と苦痛に歪んで死んでいったという。


 一体どうして、彼がいきなりそんな事をしたのか。

 隠れたイジメがあった訳ではなく、かといって親から体罰やそれに近しい虐待を受けていたわけでもない。なんなら、彼は直前に遺書を遺していたくらいだ。目的ありきの自殺だということは容易に推察される。


 遺書は全部で五つあった。

 五つの内一つは、彼の両親宛に。

 内一つは、現在の彼女に宛てられたものだった。

 もう二枚は自分のクラスメイトや、親友と思しき人たちに宛てた手紙であり。

 そして最後の一つは──彼のクラスメイトのうちの一人に、宛てられた手紙だった。


 しかしながらその手紙の中にも真相と呼べるものはなく、結局事件性は無しということになり、この自殺は単なる自殺として処理された。


 ──果たして、何故彼がいきなり自殺を図ったのか。どうして自分の誕生日に自殺を企てたのか。


 それは彼のみが知ることなのだろう。そしてそれを知る機会は永遠に来ない。


 ──ただ一人を除いては。


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