迷宮ファウンドフッテージ

中埜長治

第1話 目覚め

恐らく花崗岩でできた、顔が写るほど磨かれたタイル。「初めて」目を覚ましたとき、私の顔がへばりついていた床だ。


幅3m、高さ3m、奥行きはどこまであるのかわからない通路の途上。


壁の天井付近、2mほどの高さに金属のノズルが出ていて、そこから噴き出す炎が照明だった。ガストーチとでも呼ぼうか。


通路には常に一方向に風が吹いている。


どこだここは。


ここにいる経緯がわからない。目覚める前の何かが原因かと記憶を呼び起こして気がつく。


自分は東雲光(しののめひかる)という名前なのだけは思い出せるが、それ以外が一切わからない。どこで何をしていたのか、年齢は、そもそも生年月日は。


なんらかの薬物を打たれたかと全身、特に頭に注射跡や手術痕がないかまさぐったが、傷一つない。服装は紺のツナギでポケットには何も入ってない。ツナギを着てるということは仕事中の事故か。この”通路“が職場か。


そうだ。映画があった。狭い通路で繋がれた、立方体の独房のようなところに放り込まれて、部屋を間違えると仕掛けに殺される。


あるいは自分の身体を切り刻んで鍵を見つけないと惨たらしい拷問装置が動いて殺される。


状況からそんな悪辣なものを連想したが、幸い、生命を奪ったり苦痛を与えるような仕掛けの類はない。


というか何もない。


どこまでも続く、天井にガストーチを備えた通路。今の私の人生はこうやって始まった。

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