第13話 三顧の礼・後編(残り93日・火曜日)
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「きのこの山」 「たけのこの里」
「108項目全問不一致っと」
実験終了とばかり筆を置くメグちゃん先生。さすがにこれはと困り顔。
「こんなやみくもな方法、うまくいくわけねーよ」
「偶然性こそが神秘性を生み出すんだよ。作為が入れば呪術的意味は弱まる。じゃあ、ペアルックにするかい? 頭を坊主にそり上げて、呪印を入れ墨するなんて方法もある」
「悪の組織みたいだな、って実際、そういう意味ありもあるのか」
実際、呪術集団の中には容姿風貌を似通わせていることも珍しくはない。正体隠匿以外にも、呪術的なつながりを強めるためである。
「蛇崩君のお願いでもそれはパス。絶対にパス」
そんな姿で登校したら強烈バカップル誕生だと街中の噂になるわいと心の中で吐き捨てる。
「あれ? 私たち何処かで繋がっちゃた、みたいな瞬間が必要なんだよ。本屋でたまたま同じ本を手に取るとか、M-1をみながら笑う壺が同じだと気付くとかさぁ」
「急に安っぽいラブストーリーになったな」
「実際、色恋沙汰なんかは呪術に始まり呪術に終わるだろん。恋占い、恋まじない。そして最後は指輪で互いを縛りあう」
唾液の交換、血の交わり。人の営みは初めから最後まで呪術性を帯びる。
「じゃあ、どうすりゃあいい。吊り橋か、吊り橋行くか」
吊り橋効果を参照。
「押井守について語ってみるのはどうかにゃ?」
「紅い眼鏡」 「ビューティフルドリーマー」
「いや、『花束みたいな恋をした』って話題が古いよ。菅田将暉はもう最近の狂人キャラがはまってて、素直に観れない」
時事ネタの乱用は良くない。
「よし、蛇崩、ソラナちゃん。それぞれ相手が喜ぶと思うモノを用意してプレゼントしなさい。条件はペアで持てるもの。勿論打ち合わせは禁止。来週の火曜日同じ時間に、またここに集合すること!」
メグちゃん先生は椅子に沈み込むように体を伸ばす。影麻呂たちは、座る機会を見過ごしてずっと立ったままだ。
「なんだよ、その恥ずかしいイベント」
まさに苦虫を潰したような表情の影麻呂は、隣人の様子を伺う。ソラナはなぜか、少し楽しそうな顔をしている。メグちゃん先生とソラナは案外、波長が合うのではないかと危惧してしまう。
「プレゼント交換だって、どうしようかな、ね?」
「女ってこう、男の"センスを試す"のて好きだよな。何が来ても絶対に笑うなよ、苦笑いはもっとダメだかんな。ドン引きしたら死んでやる」
「大丈夫だよ。相手のことを考えて選んだんだなぁって気持ちが伝われば、ね」
「そういうの絶対嘘だから。お前ら女は、俺ら陰キャの失敗をワイドショーみたいに今週あった面白い話として消費していくんだ。俺は知ってる」
「青春真っ盛りの君たちには丁度いいだろ、刺激的でいて甘ったるい」
愚痴を言ったところで、メグちゃん先生の決めたことには逆らいようがない。
「師匠の意地の悪さはよく分かったよ。ダメだったときはフォローしてくれよ」
「根っからの敗北主義者だなぁ君って奴は。いいから全身全霊でソラナちゃんを喜ばせようと考えるんだ。男なら、死ぬときは前のめりに死ねよ。さぁ、今日はこれで帰った、帰った。先生にも仕事があるんだかんな」
部屋を追い出されそうになるが、ここで影麻呂は、もう一つの重大な要件を忘れてはいなかった。
「あ、そうだ。俺、新しく部活を始めたんだけどさ。顧問になってよ、師匠」
そう言って両手を合わす。
「無理」
メグちゃん先生は表情を変えることなく、冷たくそう言い切る。
「そんなこと言わないでさ。ただの名義貸しみたいなもんだよ、迷惑は書けないよ」
「だから、無理。嫌じゃなくて無理なんよ。蛇崩はさ、私を何だと思ってるわけ?」
「師匠」
「いや、そうじゃなくて。ここはどこ?」
「私は誰?」
「バーカバーカ。このバカ弟子。私はね、学園の、非常勤の校医でスクールカウンセラーなのよ。教員じゃないから、部活の顧問にはなれません」
「な、な、な、なんだってー? 縦割り行政の弊害だぁ」
「仲のいい教師……なんているわけないよねぇ」
「うん、うん」
捨てられた子犬のような顔である。
「うーん、じゃぁあさ、天宮先生に頼んでみたら?」
天宮先生、その名を効いた途端に影麻呂の表情が一変し、真剣なものになる。
「何で、ここでて天宮先生の名前が出てくるんだよ。別に俺は何とも思ってないんだから、放っておいてくれよ」
「でも一回、きちんと話をしたらどうかとお姉さんは思うよ。お互い誤解やら何やらもあると思うのデス」
「俺に言いたいことはもうないですから」
ソラナに聞かせるためにわざわざ名前を出したのか。そう気づくと、おせっかいな奴の多さに胃が痛くなる。
◇
「天宮先生の名前は忘れること、コレは命令だ」
「了解、了解」
「了解は一回でよろしい」
「はーい。ところでさ、今週の金曜日、私の歓迎会を開いてくれるって話があるんだけど、放課後いいかな?」
「お、おう。いいぞ、いってこい。」
「プレゼント交換、楽しみだねぇ、ニカニカ」
「容赦はしないからな! 要らねぇものを渡されたら、素直に言うし」
「でも、自分は言われたくないんだよね、ご主人様」
「――」
「いーんだよ。ご主人様なんだからっ」
」
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