ディストピア

 大学四年の春先、フーリエは再び職業紹介事業所の前に来ていた。

 学生生活にはお金がかかる。お小遣い程度では回せないので、アルバイトをすることにしたのだ。

 土木工事だけは当たりませんように……。

 そう願って事業所の扉を開けた。


 紹介された仕事は、トラックからの貨物の搬出だった。時間は五時間。期間は三週間。

 肉体労働ばかり……。

 こればかりは自分のくじ運の無さを恨むしかなかった。


 朝三時に家を出る。真っ暗な国道は他に車も走っていない。仮面を外し生あくびをしながらカーオーディオをつけ、軽快なポップソングと途中で買った缶コーヒーで目を覚ます。

 二十分ほどで集荷場についた。開いているスペースに車を停め、車内で仮面をつけて待ち合わせ場所の玄関で大学生アルバイトのリーダーと落ち合う。リーダーを含め他に八名のアルバイトが集っていた。

「では、中に入りましょう。荷物置き場を案内します」

 現場のリーダーは人数を確認した後、皆を連れ立って建物の玄関へと進む。玄関の三段の階段を上がり狭い通路を通って、小部屋へと辿り着き荷物を置く。フーリエの荷物は水の入ったペットボトルと軽食のみだった。

 集荷場のホームに立ち、リーダーから体格云々は関係なく平等に各々役割を与えられる。今日のフーリエの仕事は、仲間が降ろした荷物の個数チェックだった。商品の品目と個数を数えるだけなので、今日の中では楽な仕事だった。フーリエは、ほっと胸をなでおろす。

 仲間たちがトラックから荷物を降ろす作業を見ながら物と数を確認し、リーダーから教わった通りにチェックリストに印を打っていく。

 他の仲間が必死に荷物を降ろしている中、時折、時間が空く時があったので、仲間の作業を見ていたが、仮面をつけた集団が同じペースで黙々と荷物を運んでいる。その様子がフーリエがかつて読んだトーアの小説の一部分を思い出させた。

 これって……、なにかディストピアみたいだ。


 その日は滞りなく仕事は進み、現地で解散となった。フーリエはただ眠たいだけの一日を過ごした。 


 運よくチェックリストの仕事に当たったのは初日だけで、後はトラックから荷物を搬出する作業が進んだ。

 以前やった土木工事の仕事よりも重量はないが、上げ下ろしの回数が多いので腰にくる。

 皆、仮面をつけているため、特に会話は弾まず、それがより一層疲労感を増長させる。

 五時間ぐらい働いたのでは、と感じさせる頃、最後の休憩になった。

「自分は御手洗いに行ってきます」

 そう言い残し、フーリエはトイレに向かった。

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