ぼーしとへーきと。けーきとへーきと。

あめはしつつじ

バンソーコーって、カタカナだけど。体に貼ると、柔らかくなって。ばんそうこうになると思う。

 偏見。かもしれないですけれど。

 ショートケーキのセロハンの。ついた、生クリームを。

 舐めちゃう人って、やっぱり。お育ちが、違うと思うのです。


 あれは、私が。小学生の、ことでした。

 私はちょっと、変わった子。そう周りから、言われてました。

 言葉を、濁さずに言えば。友達が、一人も。

 変わった子だから、友達がいないのか?

 友達がいないから、変わった子になったのか?

 まあ、ともかく。一人。だったわけです。

 別に悲しくは、ありませんでした。

 ただ、ちょっと。学校が終わって、一人で帰る時。

 ほんの、ちょっと。帽子を深く被って、帰りました。

 そんな風に、うつむいて。いつも通り、一人で帰っていると。

 下を向いて、歩いていたはずなのに。何かに躓いて。

 こけて、手をついて。掌に刺さった砂利の痛み、ぐねっと手首の痛み。

 そして、擦りむいた、膝の痛み。

 もっと、ちゃんと。下を向いていれば、良かった。

 なんだか、自分が、情けなく思えて。

 帽子を一層深く、被りました。

 私は繭。私は繭。と、うずくまって、座り込んでいると。

「大丈夫?」と、帽子の方から、声をかける声。

 へーき。とは言えませんでした。

 でも。ちょっと、顔上げて。

 赤い靴、白のハイソックス、黒いスカート。白のブラウス。

 私の帽子と、同じ。黄色い帽子の下には。

 私より、お姉さんな顔。

「大丈夫? ああ、これはひどい。皮が剥けちゃっているね。

 僕? へーき。バンソーコー持ってるよ。貼ってあげるね。

 痛い? 歩ける? お家は? 僕が、おぶってはいけないけど、

 一緒についていって上げる。ほら、立って。うん。歩けそう?

 そう。痛いの痛いの飛んでけ」

 と、飛んで、私の家まで。なんとか帰ってこれました。

 玄関のチャイムを鳴らすと。お母さんが家から出てきて。

「まあ、まあまあまあ」

 私が、けがを。したことよりも。私が、誰かを、連れて来たことに。

 驚いたみたい。

「僕のことは、お構いなく。あっお母さん。救急箱、ありますか?」

「まあ大変、まあ大変」お母さんはお姉さんに救急箱を渡して、

「まあ大変、どうしましょ。お菓子の準備をしないと。

 二人は、お留守番を、していてちょうだい? ねっ」

 と、どこかに飛んでいっちゃって。

「とりあえず。手を洗って、消毒をしよう」

 お姉さんの言うとおり。手を洗って。膝を洗って。

 傷に水が滲みて。傷に消毒液が滲みて。

 両手と両膝に、しかくく大きく。バンソーコーを四つ。

 お母さんが家に帰ってきて、

「すぐお茶を入れますからね」

 私の嫌いなハーブティーに

 私の嫌いな牛乳を入れて

 私の嫌いなミルクティー。

 でも、私の好きな、ショートケーキ。

 大きなばんそうこうで、上手くにぎれない手で。

 指でつまんで。周りをはがして。

 ショートケーキのセロハン。ついた生クリームを。

 なめて、なめて、なめて。   いけない、いやらしいこと。

 お母さんに、おそだちをうたがわレルって言われちゃう。

 でも、お母さんは、私のことなんて、もう。見てなくて。

 代わりに、お姉さんが私を見てた。

 お姉さんも、  指でつまんで、周りをはがして。

 ショートケーキのセロハンの。ついた生クリームを。

 なめて、なめて、なめて。

 食べちゃった!  セロハンごと!

 もしゃもしゃ、と。パリパリ、が。混ざって、消えた。

「どうしたの?」とお姉さん。

 私は、へーき。なの? と、聞いた。

「そうだよ、僕は兵器。君の武器。

 いや、食器かもしれない。このフォークみたいに。

 君の嫌なことは。もうへーき。みんな食べちゃおうよ」

 いや。だめだよ。セロハンは、食べちゃ、だめ。なんだよ?

「そうな? 知らなかった。 てっきりてっきり。食べ方ってさ、色々あるものね。

 これからは、君が教えてよ。そうだ、とりあえず、この、ケーキ? 食べたらさ。


 お母さんの食べ方教えてよ」


 お姉さんは、私をみて。お母さんは、私をみてなかった。

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ぼーしとへーきと。けーきとへーきと。 あめはしつつじ @amehashi_224

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