現代を生きるヤンデレ魔女一家が離してくれない
みょん
ハジマリ
どこにでも居る普通の高校生――
それは自分ではない誰かの記憶……けれども、どこかこれは自分ではないかと考えてしまいそうになる夢だ。
(あ……今日もこの夢か)
何度も何度も、同じ夢を見たからこそ夢だと認識出来る。
刀祢が見る夢とは二人の美しい女性に囲まれているモノで、これだけ聞くとなんだよハーレム物かよと思われるかもしれないが、実際はそんな嬉しい物ではない。
「刀祢……っ」
「お父さん……っ!」
何故ならその二人の女性は泣いていたからだ。
左を見れば、妖艶な雰囲気を醸し出す黒髪の美女……ゆったりとした服を着ているが体のラインは一切隠せていない。
対する右を見れば、先の女性に似ているが若干幼さが見える……高校生くらいだろうか? 彼女もまた抜群のスタイルを誇っており、男なら絶対に二度三度と目を向けてしまうほどの見た目をしている。
(俺は……)
そして、そんな彼女たちに挟まれている刀祢は……動けなかった。
ベッドに横になっていることまでは理解出来るがそれだけ……おそらく何かしらの病気にでも罹っているのか苦しそうな息遣いをしている。
「
左の女性が亞里亞で、右の女性が世那らしい。
消え入るような声で紡がれた声は刀祢の物……そう思えるくらいには自分そのものだった。
(ほんとに……何なんだろうなこの夢は――)
少なくとも、刀祢にはここまで色気たっぷりで……尚且つ不思議な雰囲気を放つ女性の知り合いは居ない。
とはいえ片方の女性が刀祢の名前を呼んだ時点で何か繋がりはありそうだが……けれど、もう片方の女性がお父さんと呼んだことについては本当に謎だ。
(俺はまだ高校生やぞ……)
かくして、刀祢は今日もこの夢を経て目を覚ます。
何度も何度も見てしまえば、脳裏に焼き付く女性たちの顔……果たしてこれは何なのだろうか。
「刀祢……あなたが生まれ変わったら必ず、見つけるからね」
「待っててお父さん――絶対にお母さんと一緒に見つけるから」
▼▽
「……う~ん」
「どうしたよ刀祢」
「いや……」
うんうんと唸っていれば、不審に思った友人に声を掛けられた。
「最近、ずっと難しそうな顔してんじゃん」
「……………」
ドサッと正面に座ったのは
高校生になってから知り合い仲良くなったチャラ男……まあちょい派手な男子だ。
所々校則ギリギリの見た目をしており、傍に居て仲の良い俺も時々恋うと同じで不良じゃないかと疑われることもしばしば……大変ではあるけど根は良い奴だ。
「じゃあさ……話してみるんだけど」
「おう」
「なんか……夢を見るんだよ連日」
「夢?」
あぁと頷き、俺の夢の詳細を語った。
思わず見惚れてしまうほどの美貌を持った美女二人に見下ろされる夢なんだけど、二人とも悲しそうに泣いていること。
俺自身の名前を呼ばれ、恥ずかしくはあったがお父さんと言われたことも全部話した。
「なんじゃその夢」
「分からん」
「お前って子供居たの?」
「居るわけねえだろ」
「居たら大問題だもんな」
「あぁ」
何だかんだ腕を組みながら真剣に翔は考えてくれる。
別に誰にも話さなくて良いとは思ってるんだが、やっぱり連日同じ夢を見るとちょっと……不気味なモノがあるからなぁ。
「お前の前世とか?」
「……前世?」
何だそれは詳しく教えろ、そう言わんばかりに翔を見つめると彼は続きを話してくれた。
「話半分で聞いてくれな? その夢に出てきた名前を呼んだ人が刀祢の奥さんで、お父さんって言ったのが娘なんじゃね?」
えっと……そうなると亞里亞って言われた人が俺の奥さんで、世那って子が俺の娘だって?
「……ふむ」
ちょっと考えてみようぜ。
あんな妖艶な美女が俺の奥さんで? そんな奥さんに似た美人がはたまた俺の娘だって……?
おいおい、どんな善行を積んだらそんなことになるってんだよ。
「ま、あり得んな」
「だなぁ」
そもそも俺があんな美人に見初められるような男とは思えないし。
まあ仮に本当にあれが俺の前世であって、俺の見た目が超絶イケメンとかなら話は別か……? あぁいや、夢で見た俺も今の俺とほとんど変わらない見た目だったわ。
あまりにもあり得ないことに対し、翔と共に笑い合った。
「てか聞いたか?」
「何を?」
「今日、転校生が来るって噂だぜ?」
「転校生だぁ? この時期に?」
翔から飛び出た転校生の話題に、俺はマジかよと驚きを交えてそう言った。
今は六月……そろそろ衣替えの季節ってところだ。
まあ……別にこの時期にって言うほどじゃないかもしれないけど、何にせよどんな学校に居ても転校生ってのはそれだけで珍しい。
「噂によると物凄い美人らしいぜ?」
「……へぇ」
俺とて男なので物凄い美人と言われたら気になる。
「精々どんな面か拝んでやろうぜ!」
「なんで無駄に上から目線なんだよ」
「良いじゃねえか。俺ってそこそこモテるんだし」
「それは……まあそうか」
そうだったわ……こいつそこそこモテる奴だったわ。
それから時間が経ち、朝礼の時間がやってきた――担任の柳田先生が今日も自慢のガチムチ筋肉を俺たちに見せ付けている。
「今日はみんなに新しい仲間を紹介する」
おっと……?
先生の言葉に教室中の生徒が色めき立つ……どうやら転校生の話ってのは本当だったらしい。
「入ってくれ」
「はい」
先生に呼ばれ、ゆっくりと一人の女子が入ってきて……え?
「すっげえ……美人すぎない?」
「スタイル良すぎっ!」
「アイドルかなんかか?」
現れた女子の姿は瞬く間にクラスメイトを魅了した様子だ。
……いや、それは他ならぬ俺も一緒だった――だがそこで俺は、彼女を見た瞬間に別の光景を幻視してしまう。
「っ!?」
脳裏に過ったのはあの夢……というより、あまりにも似すぎている。
夢に出てきたあの二人と目の前に現れた女子生徒の姿が……あまりにも酷似しすぎているんだ。
「今日からみなさんと一緒に過ごさせていただくことになりました――
ツーサイドアップにした亜麻色の髪が揺れ、高校生らしくない大人の妖艶さを彼女は放っている。
整った顔立ちはさることながら、頭を下げた時にたゆんと揺れた大きな胸、スカートから覗くムチッとした太ももなど……それだけを言えば俺が邪な気持ちを持ってるから見てしまっていると言える。
でもそうじゃない……髪の色を除いた全てが、あの夢に出てきた女性たちにとても似ているんだ。
「元々西園寺さんはこの街に住んでいて、つい最近ご家庭の事情で戻ってきたとのことだ。転校生ということで質問攻めにすることなく、節度ある対応を心掛けるように」
「ありがとうございます先生」
「礼には及ばん。席はそうだな……って、既に用意しているんだからそこに座ってもらおうか」
席……用意してあったか……え?
ふと、何かがおかしいと思い隣を見ると……いつの間にかそこに空いている席が置いてある。
確かそこには絶妙に目立たない山田太郎君が座っていたはず……って斜め後ろに移動してる!?
(……あれぇ?)
何だろう……俺がおかしくなったのか?
そう思っていると指定されたその席に彼女が……西園寺さんがゆっくりとした動作で近付き椅子を引いた。
そして、隣に座る俺の方を見てニッコリと微笑んだ。
「よろしくね? 三枝君」
「え? あぁうん……うん?」
あれ……なんで俺の名字を知って……?
「……??」
もしかして俺ら……どこかで会ったことある?
もしかしてそんな古典的なラブコメパターン……? ここから始まる愛の物語ってやつぅ!?
「……ふぅ」
失敬、つい隣に座った美少女転校生のせいでテンションが上がってた。
(……見れば見るほどそっくりすぎる)
チラッと気付かれないように西園寺さんの横顔を見つめていると、夢で見た女性たちが色濃く脳裏に蘇る。
それからしばらく、俺はこれが何だと悩むのだったが……結局はすぐに気にならなくなり、それどころか転校生と仲良くなりたい連中が屯してくるせいで、うるさいとイラつくことになるのだった。
だが、これが全ての始まりだった。
逃げ出すことの出来ない愛の沼に、片足どころか両足からズッポリと嵌ってしまう運命に囚われたのは。
『ねえねえ、魔女の伝説って知ってる?』
『知ってる。この街って魔女が居るって話でしょ?』
『でも悪い魔女じゃないんだよ? 人間で凄く大切な人が出来て、その人のおかげで優しくなった良い人なんだ』
『そうそう! でも……その人間って死んじゃったんだよね?』
『うん……それっきり魔女を見た人は居ないって話』
『でも結局は伝説だもんね?』
『そりゃそうだよ。魔女なんて居るわけないって! ここはアニメでも漫画の世界でもないんだから!』
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