第27話 メイド長の以前の仕事
エスリンとエンヴリットの因縁はそう浅くはなかった。
伝説の殺し屋〈
当時の対凶悪犯罪特殊鎮圧部隊〈
エンヴリットはその時から第一師団長であり、〈
結局エスリンが殺し屋を辞めるまで、誰も彼女を捕らえることは出来なかった。
「忘れはしないぞ。お前を殺せなかった屈辱、そして失った隊員の無念を」
「……それについては何も言いません。私はプロとして依頼をこなし、向かってくる者を敵として殺した。それだけです」
エンヴリットの身体が一瞬ブレたと思ったら、エスリンの目の前に移動していた。
エンヴリットが剣を振り上げ、縦一文字に振り下ろす。対するエスリンは身体を捻ることで避ける。
エスリンは剣をやり過ごした後、エンヴリットの腕を掴む。
「エンヴリット、貴方なら分かってるはずです。今の私は貴方の敵じゃない」
「分かっている。分かっているが、少しばかり八つ当たりに付き合ってもらおう」
エンヴリットとエスリンの剣舞が始まる。
剣を突き、切り上げ、振り下ろし、真横に振り抜く。連続攻撃に対し、エスリンはひらりひらりと避け続ける。
腕の立つ者がこの立ち合いを見たら、あまりのレベルの高さに恐れおののくだろう。神速の攻防。一手のミスがそのまま死を招くのだ。
「私は誇り高きファークラス王国軍の騎士だ。国を脅かす者には一切容赦しないと決めている」
「立派な心がけです」
二人ともずっと動き続けながら、会話を続けている。双方の体力にそこまで大きな差はないのだろう。
「散々殺してきたお前が今はヴェイマーズのメイドだと? 闇の深奥とまで言われた〈
「ありますよ」
エンヴリットの大振りに合わせ、エスリンが彼女の頬へハイキックを決めた。ぐらりとのけぞるエンヴリット。しかし、彼女は鋼の意志で持ちこたえた。
「あの優しい母娘貴族が醜悪な心の持ち主だったら、どれほど良かったのに」
「何を言っている?」
脳裏に浮かぶのは、エスリンにとって最後の殺し。あの優しい貴族の母娘。
「あの二人の放った光は、おそらく私を殺したんです」
エスリンは一度距離を取り、自分の手のひらを見る。
「だけどシルビアさんはそんな私を救ってくれました。エスリン・クリューガという名前までくれて、私に再び命をくれたんです」
エスリンはエンヴリットを力強く見つめる。
「今の私はヴェイマーズ家メイドのエスリン・クリューガです。エンヴリット、貴方が私を殺そうというのなら、全力で抵抗します」
「命が惜しいか」
「いいえ、シルビアさんのためです。死んでたらあの人の役に立てません。私はあの人の側にいるために生きます」
「……そうか」
エンヴリットはゆっくりと剣を鞘におさめた。
「エンヴリット……」
「だが、一発は殴らせろ!」
「!」
クロスカウンター。エンヴリットとエスリンは、お互いの頬に拳を叩き込んでいた。
「エスリン・クリューガ。先程のお前の言葉を借りよう」
「何か言いましたかね?」
「お前が小賢しい奴だったら、どれほど良かっただろう。下品な言葉遣いや心の持ち主だったら、私は何としてもお前を殺したかった」
「合格というところですか?」
「……今はな。だが、今後はお前のことをずっと見ているぞ。すぐに殺しに行くことを忘れるな」
「ありがたいことです」
「あと、その敬語は止めろ。さっきからこそばゆい」
「了解。じゃ崩そうかな」
そこでようやく二人は離れた。
「お話は終わったのかしら?」
まるで狙いすましたかのようなタイミングで、シルビアが現れた。
エンヴリットは特に驚いた様子もなく、返答した。
「あぁ、心の整理はついたよ。礼を言う」
「私、というかメイド長にしたほうが良いわよ。呼んでくる?」
「……いや、こちらから出向こう。ヴェイマーズ家で抜剣したんだ。本来ならその時点で、メイド長に殺されてもおかしくなかったからな」
「メイド長からの伝言よ。『今回だけは大目に見る』ってね」
「はは、感謝してもしきれんな」
エスリンはずっと気になっていたことをエンヴリットへぶつけてみた。
「エンヴリットとメイド長ってどういう関係なの? ずっとメイド長に対して、ビビっているように見えるんだけど」
「シルビア、まだメイド長のことは言っていないのか?」
「あぁ、そういえば言っていなかったわね」
「言っても良いのか?」
「良いんじゃないかしら? 口止めもされていないし」
「そうか。ならば簡単に言うとしよう」
そこでエスリンは衝撃的なことを耳にした。
「あの人の
メイド長の意外な過去に、エスリンは色々と納得がいってしまった。
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