第22話 傭兵夫妻との戦闘
エスリンたちは広い場所に出るまでの間、会話を楽しんでいた。
「へぇ、〈マレクダー夫妻〉は私でも聞いたことありますよ。プロの傭兵夫妻ですよね」
「そうだ。えっと、エスリンちゃんだったか? 君、裏の世界に詳しいね」
「そんなことないですよ。たまたま裏に絡む仕事をしてただけですよ。それにしても、カルラさんお若いですねぇ」
傭兵コンビ〈マレクダー夫妻〉の妻であるカルラは豪快に笑ってみせた。
「おほほほ! もう死にかけのおばあちゃんだよ。まったくもう、エスリンちゃんは冗談がうまいねぇ!」
「カルラさんもスパルスさんも、どっちも年齢と見た目合ってないですよね」
「ははは! よく言われるよ」
フラウリナがエスリンの耳元に顔を近づける。
「なんで談笑しているんですか……!?」
「だって、まだ戦う場所に行ってないし、何も喋らないと私が辛いし」
「だからといって、喋りすぎです。彼らは明らかに私たちを消しに来た刺客ですよ」
「そりゃあね。スパルスさんたちは私たちを殺しに来たんですよね?」
すると〈マレクダー夫妻〉は同時に頷いた。
「そうだな。俺達は君たち全員を殺すように言われている」
「ここまで来てもらって、かわいそうだけどね」
「!」
フラウリナが両腰の剣を抜こうとした次の瞬間――!
「おおっと、まだ早いんじゃないか?」
「そうよ。暗殺ならまだしも、こういう殺し合いには段取りというものがあるんじゃないかしら?」
スパルスとカルラの雰囲気が変わっていた。おどろおどろしい死の恐怖。圧倒的気迫。
威圧を受けたフラウリナは、無言で剣から手を離した。
(傭兵と戦ったことは何度もありますが、この人たちはその中でも強い)
三人の間に、エスリンが割って入った。
「いやぁ、すいませんね。気を悪くしたのなら、この後の戦いでスッキリさせてください」
「ははは。なら、そうさせてもらうよ」
四人がたどり着いたのは、大きな中庭だった。障害物はなにもない、実に戦いやすい場所だった。
「さーてと、それじゃあ始めますかね」
「おほほ。こんな若い子たちと戦えるなんて、人生何があるかわからないわねぇ」
スパルスは剣と盾を、カルラは槍を構えた。どちらも身体の軸が安定しており、長年の戦闘経験が透けて見えた。
エスリンとフラウリナも彼らに合わせ、剣を抜いた。
「フラウリナはどっちと戦いたい?」
「スパルス・マレクダーとやります。エスリン・クリューガはカルラ・マレクダーをお願いします」
「了解。助けが必要になったら呼んでね」
「いらない心配です。ところで――」
フラウリナがエスリンの耳元に顔を近づける。
「この二人を相手にしても、まだ殺さないなどと言うつもりですか?」
「もちろん。腕が鳴るねぇ。このレベルの敵なら殺さないほうが難しいよ」
「あぁ、だけど」とエスリンは付け足した。
「フラウリナにこの考えを押し付けるつもりはないよ。難しいしね」
「……はぁ? 煽っているつもりですか?」
「まっ、死なないように頑張ろうか」
二人はそれぞれの戦う相手の前へ移動する。
「じゃあカルラさん戦いましょうか」
「そうねぇ。せめて思い出に残る死に方をしてちょうだいね」
エスリンとカルラの戦闘は静かに始まった。
「向こうは始まったようだな。それじゃあお嬢さん、天国へ行く時間だ」
「何を根拠のないことを。死んだら人は無になるだけですよ」
フラウリナはすでに双剣を振るっていた。素早く距離を詰め、流れに乗せた連続攻撃で敵を葬る。これが彼女のスタイルだ。
しかし、初撃はスパルスの盾に阻まれた。
フラウリナとスパルスの戦闘は激しい音と共に始まった。
「っ! ……なるほど」
フラウリナは回り込むように走り、スパルスが防御をしにくい角度から飛び込んだ。
対するスパルスは足さばきだけで身体の方向転換を済ませ、フラウリナの前へ盾を運ぶ。
フラウリナの右の剣が走る。スパルスの盾に当たるが、びくともしない。続けて左の剣で突こうとした。
「おっと」
しかし、スパルスはフラウリナの左腕目掛け、剣を突き出した。フラウリナは反射的に腕を引き、彼のカウンターを回避する。
フラウリナの攻撃はこれで終わらない。すぐに彼女は跳躍し、スパルスの頭上を飛び越える。両腕を振り、彼の背中を斬りつけようと試みる。
「まだ来るのか、恐ろしいレディだ」
結果として、フラウリナの攻撃は通らなかった。
スパルスは身体を回転させつつ、盾を振り回した。金属の塊はフラウリナの斬撃をものともせず、彼女を吹き飛ばしてみせた。
「盾で殴らないとでも思ったかね? 私はこの盾を大事な武器と心得ているよ」
「……喋りすぎですね。油断しているのですか?」
「この上なく本気さ。君と、エスリンちゃんはかなりヤバい子達だと思っているからね」
この雑談で息を整えることが出来たフラウリナは、今のやり取りで得た情報を整理する。
(スパルスの防御技術は本物ですね。まるで壁と戦っているような感覚でした)
スパルスはずっと盾をフラウリナの方へ向けている。足さばきで揺さぶっても、必ず盾を向け、致命傷を負わないように徹底している。
この類の相手と戦ったのは初めてではない。しかし、今までの相手と比べても上から数えた方が早いくらいの練度と言えよう。
「来なさいレディ。おじさんが稽古をしてあげよう」
「稽古されるのはどちらになるか、楽しみですね」
煽りというのは分かっている。だが、フラウリナの闘争本能に火がつくには、十分すぎた。
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