第一話 祇園祭の余韻
今朝、八月の日めくりを新しくした。京都の街は、一か月続いたコンチキチンの祇園囃子が鳴り響く祭りが終わり、奥ゆかしい古都の静寂が戻ってきた。
平安時代から1200年の歴史を刻む祇園祭は京都人の誇りであり、生活の一部だと言っても過言ではない。
しかし、私のこれまでの人生は明るいことばかりではなかった。いつまでも祭りの余韻に浸っているわけにはいかないのだ。
半月もすれば、「お
名残惜しい祭りの記憶を胸に抱き、六歳になった愛娘とともに、今は亡き祐介の供養を始めなければいけない。
伝統と心遣いが息づく京都のしきたりに従い、お盆の前には「迎え鐘」をつき、家の門口で「迎え火」を焚いてお迎えし、四日間にわたり心を込めておもてなしをする。
このひとときだけは、亡き祐介に再び会える気がする。祇園祭の賑わいが去り、静けさの中で愛する人を偲ぶ時間が訪れる。祭りの喧騒が消えた後の静寂は、心の中で響く故人の思い出とともに、深い感謝と愛情を再確認する瞬間となる。
「由香、パパに会いに行こうね」
こよなく愛する娘にそう呼びかけながら、私は涙を流した。
夫の祐介が亡くなってから、毎年お盆の十六日になると私は由香を連れてふたつの場所を訪れていた。ひとつ目は、若い頃に何度も彼と訪れた思い出の地、京都の夏の風物詩を代表する鴨川沿いの納涼床。
もうひとつは、私たちが今は亡き縁者のおくりびとになれる儀式の聖地。嵐山の渡月橋から間近に眺める「灯籠流し」と「大文字の送り火」。
京都の嵐山では、これらの愛する人へ想いを馳せる行事が同じ日、同じ場所で執り行われる。
私と娘は祐介が元気だった在りし日を偲びながら、せせらぎと山並みに心を込めて、手を合わせていく。
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