【改訂版】それを愛と呼べるなら

もちづき 裕

現在

第1話  夢と現実

こちらの作品、最初から全部書き直しております。パッと楽しんで頂いて、パッと終われるように頑張りますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。


     *************************



  愛し合っていると思ったから結婚をした。

 彼だけは私のことを愛していると思ったから。

 だって、私しかいないと言ったから、私がいなければ生きていけないと言ったから。

 その言葉を信じてあなたの手を取ったのに・・


「まさかあの言葉を本気にしていたの?」

 何も持たない私とは違って美しい姉はみんなの愛を独り占めにする。


「あなたの夫はね、私の少しでも近くに居たいと考えて、わざわざ好きでもないあなたと結婚をしたの。ああ!なんて可哀想な娘なのかしら!まさか!本当に自分が愛されていると思っていたの?」

 笑い出す姉に同調するように、周りの人間も笑い出す。


「ああ!なんて哀れな娘なのかしら!今まで偽物の夫の愛を信じていたなんて!誰もあなたなんかを愛さない!愛すわけがないのよ!バーッカみたい!いつまで経っても学習能力がないのにも程があるわよ!」


 世界は姉を中心に回っている。おかしくて仕方がないと言った様子で姉は嘲笑いながらいうのだ。


「誰もお前なんか愛さない!愛するわけがないというのに!いつでも簡単に忘れてしまうのね!忘れっぽいあなたに言っておいてあげるけれど、あなたは誰にも愛されない。女神に愛されないあなたが誰かに愛されるわけがないのよ!」


 周りの嘲笑は波のように押し寄せてきて、それは大海原の波の音へと変化する。

 また、騙された。

 分かっている、誰も私なんかを愛することがないことを。



        ◇◇◇


「アン・・アン」

「ううーん」

「アン!起きろよ!アン!」


 パッと目を覚ますとフィルの琥珀色の瞳が目に入る。

 フィルはいつでも早起きの彼は寝坊した子を起こして回る役目だから、

「ほら!早く起きろよ!」

 私の手を無理やり掴むと、引っ張り起こしながら大きなため息を吐き出した。

「いいかげん、自分一人で起きられるようになれよ」

「うん、ごめん」


 フィルは私が起きたのを確認すると、まだ寝ている他の子供を起こし始めた。中にはフィル目当てで寝たふりをしている女の子も居るんだけど、目敏いフィルはそういった女の子は無視して歩いていく。


「もう!またフィルに起こしてもらえなかった!」

 フィルのことが大好きなデボラが憤慨しながら一人で起き上がると、

「なんで眠っていられないのよ?本当にぐっすり眠っていたら起こしてもらえると思うけど?」

 と、寝床を片付けているエステルが言い出した。


 寝たふりじゃなく本当にぐっすりと眠っていたらフィルは起こしてくれるから、寝坊するつもりで眠っていたら起こしてくれるだろうに、

「だって!ドキドキしちゃって勝手に目が覚めちゃうんだもん!」

 と、デボラが顔を真っ赤にしながら言い出した。


 麦穂のような明るい髪色にヘーゼルの瞳を持つデボラは、アルメロ孤児院の中では一番の美人と言われている女の子だ。その隣にいるのが二番目に美人と言われるエステルで、この二人が孤児院の男の子たちの人気をひとまとめにしていると言っても良い。


「やあだ!本気でグースカ眠っていた奴がこっちを見てる〜!」


 顔を赤らめてキャアキャア言っていたデボラが私の方を見て、くちゃくちゃに顔を顰めてみせた。すると、エステルはデボラの視界を塞ぐようにして私に背を向けて、

「見ない方が良いわよ!不幸が移っちゃうから!」

 と、言い出した。


 私の髪色は真っ黒で、瞳の色が炎のように紅い。私の漆黒の髪はエレスヘデンではあまり見ない色なのだ。


 ここは27の島々を従えるエレスヘデン王国。遥か昔、女神リール様が笏を海に突き入れ、ぐるぐると掻き回すことでエレスヘデン群島を作り出したのだと神話では語られている。そんな女神様に愛された島々では子供は宝とされているため、理由があって養育できない子供や、親を亡くした子供などは神殿が経営する孤児院で預かって成人まで育てるようなことをする。


 私は十二歳からこのアルメロの孤児院にいるんだけど、それより前の記憶がない。この孤児院に来てからもうすぐ四年が経とうとしているし、十五歳の成人になる年には孤児院を出て行かなければならないので、そろそろ自分の身の振り方を考えなければいけない時期に来ている。


「アン!ようやっと起きたの?今日は随分とお寝坊さんだったのね!」

「・・・・」

「アン?どうしたの?」

「コリーさん」

 私はぽっちゃりと太ったコリーさんの胸に飛び込んで、ふわふわと柔らかい胸に顔を埋めながら言い出した。


「私、また変な夢を見たの」

「また変な夢って、自分が結婚して、浮気されたっていう夢?」

「そうなの!また見たの!」


 夢の中の私は確かに夫が居て、その夫は美しい姉が大好きで、その姉の近くに居たいからという理由で私と結婚したということらしいのだが・・

「まだ十四歳なのに夢の中で浮気をされるだなんて!どうしてそんな夢を見るのかしら?誰かから浮気の話でも聞いたのが影響しているのかしらね?」

 コリーさんが憤慨したように言うと、朝食のパンを配っていたメル修道女がこちらを振り返りながら言い出した。


「きっとアンの両親は浮気が原因で離婚したのだと思うわね!それで、お母さんがアンを連れて家を出たんだけど、子供を女手一つで養うのは大変だったものだからアルメロの孤児院に置いていくことにしたんだよ」


 するとカリナ修道女が納得した様子で言い出した。

「きっと父親の浮気で離婚をしていて、それがアンの心に大きな傷を残すことになったんだろう。それが今になって変な夢で見るようになったのも、もうすぐ成人を迎えるっていうので周りの人間が結婚相手を探し始めているだろう?それが刺激になって影響したってことにもなるのかもしれない」


 島に住む女性は十五歳から十八歳の間に結婚を済ませて、二十歳を過ぎたら完全にいき遅れ扱いを受けるようになる。孤児院は十五歳の成人を迎えたら出て行かなければならないため、成人を迎える子供たちは自然と結婚相手を探し始めるようになる。


 アルメロ孤児院の中では、男の子の中で一番人気なのが、寝ぼすけの子供たちを叩き起こして回っているフィルになる。白金の髪を持つフィルは顔立ちが女の子みたいに愛らしい。島まで遊びに来た貴族に愛人にならないかとお誘いを受けるくらいには容姿が優れた男の子なのだ。


「私はフィルと結婚したい〜!」

「私も結婚するんだったらフィルとしたい〜!」

 と、言い出す女の子は三歳から十四歳まで幅広くいるのだった。


「なんにせよ、結婚するなら絶対に浮気なんかはしない男を選びなさい!浮気をする男なんて本当の本当に最低なんだからね!」

 と、言い出したカリナ修道女は、浮気を繰り返す夫に見切りをつけて修道女になったような人でもある。


「本当に!成人を迎えるってことでキャッキャするのは良いけれど、男を見る目だけはきちんと養った上で独り立ちしなさいよ!相手が最低な奴だと、その後お先真っ暗状態になるからね!結婚するなら相手の両親のこともよくよく見た上で結婚しなさい!」


 そう言って肩を怒らせるメル修道女は、お姑さんからの虐めに耐えかねて家を飛び出して修道女になったような人だった。母親が大好きな夫は姑からの虐めを止めることなく、全てはメル修道女が悪いから〜なんて言い出すような人だったらしい。


「良い男が見つけられなくったって心配いらないのよ!私みたいに修道女になれば良いのだから!」


 そう言ってにっこりと笑うコニー修道女は、二十歳を過ぎても結婚相手が見つからず、結局、修道女になるしか道がなかった貴族家出身の女性であり、

「私も結婚しないで修道女になる!」

 私はコニーさんの腕にぶら下がるようにしながら宣言をした。


「結婚して、浮気されて、それじゃあ離婚しようって言っても、なかなか離婚してくれなくて生き地獄を味わった末に死んじゃうようなことになるくらいだったら!私!結婚しないで修道女になる!」


「「「あらあら、まあまあ」」」


 メル修道女とカリナ修道女が呆れた様子で私の方を見ながら、

「相変わらずアンの妄想力は凄いわね!でも確かに!離婚って想像以上に大変なものなのよ〜!」

「だからこそみんな!結婚は慎重に行いなさいよ〜!」

 と、修道女たちは孤児院の子供たち全員に向けて言い出したのだった。



    *************************



ここから修道院の生活が始まりますが、前回書いた内容とガラリと変わっております!現在編はひとまとめで終わって過去編がスタートしておりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!!



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