3章 創造主との遭遇

 薫子たちは、迷宮の奥深くを探索していた。先頭を歩くガブリエルの後ろに、カイトと薫子が続く。長く曲がりくねった道の先に、薄暗い光に包まれた広大な空間が広がっていた。


「ここが、迷宮の中心部のようだね」


 ガブリエルが言う。

 「でも、誰もいないみたいだけど……」


 カイトが不安げに呟いた。


 その時だった。

 目も眩むような強い光が、突如として空間を満たした。光の中心から、人の姿が浮かび上がってくる。それは、半ば透明な体を持つ、神秘的な存在だった。


「私は、この迷宮の創造者……アルキテクトと呼ばれる者だ」


 アルキテクトの声は、空間に響き渡る。まるで、大聖堂のパイプオルガンのように荘厳で、威厳に満ちていた。


「そのアルキテクトが私たちに、何の用だ!」


 ガブリエルが、アルキテクトに向かって勇ましく尋ねる。

 その声は静かだが、強い意志を感じさせた。


「君たちは、自分がなぜここにいるのか、分かっているか?」


 アルキテクトの問いに、薫子たちは顔を見合わせる。

 確かに、彼らにはこの迷宮に迷い込んだ理由が分からなかった。


「わかりません……」


 薫子が素直に答える。


「君たちがここにいるのには、深い意味があるのだよ」


 アルキテクトは、薫子たちを見据えて語り始めた。


「この迷宮は "生と死の狭間" に存在している。そして、君たちは今、現実世界では "瀕死の状態" にあるのだ。言わば、"臨死体験" の真っ只中にいるのだよ」


「そんな……バカな……」

 カイトの震える声が、静寂を切り裂いた。


「そうだ……私は……事故に遭ったんだ……」


 刹那、薫子の脳裏に、あの恐ろしい瞬間が走馬灯のように蘇った。


 轟音、衝撃、飛び散るガラスの破片。そして、意識が暗闇に落ちていく感覚……。


 ガブリエルとカイトも、言葉を失って立ち尽くしている。

 きっと彼らも、それぞれの"死の瞬間" を思い出したのだろう。


「私たち、本当に臨死体験をしているの……?」


 薫子の問いに、アルキテクトは深く頷いた。


(なんてこと……。私、あの事故で死ぬかもしれないってことじゃない……!)


 現実を思い知らされ、薫子の心は大きく動揺していた。しかし同時に、生への執着もまた、強まっていくのを感じる。


「この迷宮から脱出する方法はあるのでしょうか?」


 ガブリエルは先ほどと打って変わって静かに尋ねる。


「ただ一つの方法がある。自分自身の、"人生の根源的な問い" に答えを出すことだ」

「人生の、根源的な問い……?」


 カイトが呟くが、アルキテクトはもう姿を消していた。

 最後に残されたのは、意味深長な言葉だけだった。


「一体、どういう意味なんだ……?」

 ガブリエルが首を傾げる。


「分からない……。でも、きっと大切な意味があるはずよ」


 薫子はそう言って、胸に手を当てた。


(私の、人生の根源的な問い……。それが分かれば、私たちはここから脱出できるのかもしれない)


「とにかく、この迷宮をさらに探索しよう。きっと、ヒントが隠されているはずだ」


 カイトの提案に、薫子とガブリエルは頷く。


「そうだね。真実を追究することが、私たちに課せられた試練なのかもしれない」


 ガブリエルの言葉に、薫子も深く頷いた。

 人生の意味、存在の理由。

 それらの答えは、きっとこの迷宮の奥深くに潜んでいる。

 たとえ死の淵をさまよう旅路であっても、薫子には仲間がいる。

 彼らと共に、最後まで真実を追い求めてみせると、薫子は心に誓うのだった。


 迷宮の中で彼らを待ち受ける試練とは、一体何なのか。

 真の目的は、この先明らかになるのだろうか。

 死の淵に立たされた者たちの、魂の彷徨は続くのだった。

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