【短編小説】永遠の迷宮 ―根源への問いかけ―
藍埜佑(あいのたすく)
1章 時空の迷宮
ようやく、薫子は目を開けた。
瞼の裏に広がっていた闇は、ゆっくりと色を帯びはじめ、やがて鮮やかなモザイク模様へと変わっていく。それは、まるで万華鏡の中を覗き込んだときのような、幻想的な光景だった。
薫子は周囲を見回した。
自分がいるのは、どこか見知らぬ場所のようだ。頭上には、果てしなく高い天井が広がり、まるで空に向かって伸びる塔の中にいるような錯覚を覚える。壁は、色とりどりのステンドグラスで装飾されていて、そこに差し込む光は七色に輝いている。まるで、虹の欠片が散りばめられたかのようだ。
床の感触は、不思議なほど柔らかい。まるで、雲の上を歩いているような心地よさがある。薫子は、自分が夢の中にいるのではないかと疑った。ここは現実の世界とは、あまりにもかけ離れている。
立ち上がろうとしたとき、薫子は自分の手首に違和感を覚えた。見ると、そこには黄金の輪のようなものが巻きついていた。その輪は、細い鎖でどこかにつながっているようだ。鎖は果てしなく長く、その先は見えない。まるで、運命に操られる人形のように、薫子は見えない力に導かれているような気がした。
周囲を探るように歩き始めると、薫子の耳に不思議な音が聞こえてきた。まるで、遠くの方で誰かが歌っているような、幻想的な旋律だ。その音は、まるで蜃気楼のように揺らめき、薫子を惹きつけずにはいられない。
導かれるように歩を進めていくと、やがて薫子は巨大な扉の前に立っていた。扉には、複雑な模様が刻まれている。まるで、古代の魔法陣のようだ。その模様を見つめているうちに、薫子はその先に広がる神秘の世界を予感した。
(ここは一体、どこなの……? 私は、なぜここにいるの……?)
薫子の脳裏に、次から次へと疑問が浮かんでは消えていく。現実の記憶は、もうろうとしてつかみどころがない。まるで、霧の中を彷徨っているような心地だ。
するとそのとき、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「誰かいるの……?」
震える声で、薫子は問いかけた。自分の声が、この不思議な空間に吸い込まれていくように感じられた。
「君も、この迷宮に迷い込んだのだね」
低く、穏やかな声が返ってきた。その声は、まるで古い知己のような安心感を与えてくれる。
扉が、ゆっくりと開く。目の前に現れたのは、見知らぬ人々の姿だった。老婆や少年、そして中年の男性……。彼らの表情には、驚きと戸惑いが浮かんでいる。きっと彼らも、自分と同じように迷い込んできたのだろう。
「私は薫子といいます。あなた方も、この迷宮に迷い込んだのですか……?」
「ええ、そのようだね。私はガブリエル。こちらの青年はカイト君だ」
自らをガブリエルと名乗った中年の男性が、隣の青年を紹介する。カイトと名乗る青年は、知的な印象を与える眼鏡をかけている。
薫子の問いかけに、中年の男性が答えた。ガブリエルと名乗る彼は、穏やかな口調で自己紹介をし、隣の青年をカイトと紹介した。
「皆さんは、ここがどこだかご存知ですか?私には全く見当がつかなくて……」
薫子が尋ねると、ガブリエルは首を横に振った。
「私にも詳しいことは分からない。ただ、この不思議な空間には何か特別な意味があるように感じるのだが……」
ガブリエルの言葉に、カイトも同意する。
「僕もそう思う。偶然、私たちがここに集められたとは到底思えない。きっと、重要な理由があるはずだ」
「でも、一体全体それが何なのかしら…」
薫子がつぶやくと、ガブリエルは彼女の肩に優しく手を置いた。
「今はまだ分からないが、私たちで力を合わせれば、必ず真相を解き明かせるはずだ。そう思わないかい?」
ガブリエルの言葉は、不安げな薫子の心に勇気を与えた。そう、一人では心細いかもしれないが、仲間と共にいれば乗り越えられない壁はない。
「ええ、そうですね。私も微力ながらお役に立てればと思います」
薫子は微笑み、ガブリエルとカイトに心から感謝の気持ちを伝えた。
こうして、見知らぬ者同士だった彼らは、不思議な出会いを果たした瞬間から固い絆で結ばれたのだった。真実を求める冒険の旅は、まだ始まったばかり。彼らはそれぞれの思いを胸に、迷宮の奥深くへと足を踏み入れるのだった。
「とにかく、手がかりを探すしかないですね。この迷宮の謎を解かなければ、私たちはきっと元の世界に戻れないのでしょう。そんな予感がします」
カイトの提案に、薫子も頷いた。
この不可思議な迷宮を探索し、出口を見つけること。それが、今の彼らに課せられた使命なのだ。
こうして、薫子とガブリエル、カイト、そして他の仲間たちの、運命的な出会いが始まった。彼らが辿り着く先に、何が待ち受けているのか。真実は、まだ霧の向こうに隠されている。
薫子は、不安と好奇心が入り混じる複雑な心境だった。
(私は、この人たちと一緒に、この迷宮の謎を解かなくちゃいけないのかしら……?)
しかし、彼女の心のどこかで、小さな希望の光が灯っていた。
(この出会いには、何か意味があるはず……。私たちは、きっと真実にたどり着ける……!)
薫子はかすかな予感を胸に、仲間たちと共に、迷宮の奥へと歩み始めた。彼女の冒険は、まだ始まったばかりなのだ。
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