街がい探しの街

ちびまるフォイ

たった1つしか違いのない偽物

どこをどう見ても自分の家だった。


『この街は、本物の街に似せた嘘の街です。

 この街にあるまちがいは1つだけ。

 見つけた人は本物の街への帰り道を教えましょう』


町内放送からその言葉が聞かされて2日目。

いくら探してももとの街との区別はつかない。


「いったい何がちがうんだろう……」


こうなったらしらみつぶしに探すしかない。

スマホを持って街に出る。


MAPの画像と実際の町並みを見比べながら一歩一歩進んでいく。


気が遠くなる作業だ。

どこにどんな小さなまちがいがあるかわからない。


常に気を張って街を歩き続ける。


看板はあっているか。

建造物は同じ配置か。

傷み具合も同じか。


「きょ、今日はこれくらいにしよう……」


集中力が切れてしまった。

もし集中力が切れて見落としてしまったらすべてが水の泡。


常に神経をとがらせながら街中を画像と見比べながら歩いた。


街をすべて巡回するには1ヶ月もかかった。

それでも。


「な……なんで見つからないんだよ……」


偽物の街と、本物の街。

それぞれの画像を見比べても差はなかった。


すべての建物は同じ。

では別のところに違いがあるのか。


「実は住所がちがうとかか?

 いや、住民がちがうとか……?」


違いは別のところにあるのかもしれない。


スマホのマップで表示されている住所と、

街に載っている住所に違いがないか調べる。


違いはなかった。


今度は住んでいる人の顔を思い出しながら確かめる。


違いはなかった。


どこにも違いはない。

もう八方塞がりだ。


「ああ、もう! 本当はまちがいなんてないんじゃないか!?

 まちがいがある、なんて言って惑わせるのが目的か!?」


これだけ探しても手がかりひとつ見つけられない。

さじを投げるには十分すぎた。


けれど本当にルール通りであることはすぐに分かった。

住民が明らかに減っていった。


「ここの店主、昨日はいたのに……脱出できたのか」


住民の顔を確かめていたので、

誰が抜けたのかもわかってしまった。


徐々にまちがいに気づいた住民から街を脱出している。

それなのにいまだになんの進展もない。


「このまま自力で探すのも限界だ……。

 でも他の人間はあっさり間違いを見つけている……。

 

 こうなったら、ストーカーするしかない」


もはや自力でまちがいを探すことを諦めた。


間違いを見つけた他の人間にこっそりついて行って、

本物の街への道を知ることができればいい。


どこかに脱出のルートがあるはず。


もうこの頃にはすっかり街の住民の半数以上が消えていた。

まだ間違いを見つけられていない人を探すほうが大変。


その中でかっこうの標的を見つけた。

明らかに街に慣れていないように周りをキョロキョロしている。


きっと街のちがいを探しているのだろう。


通行人のふりをしてすれちがう。

すれちがったときにこっそりGPSを取り付けた。


男は一瞬驚いた顔をしてこちらに振り返った。


「……なにか?」


「あ、いえ」


GPSのことはバレていないらしい。

ヒヤヒヤした。


男からはいったん離れてから隠れる。

あとは男がまちがいに気づき、脱出するまでを見届けるだけ。


すると、男はなにか思い出したように走り出した。


「あのスピード。間違いに気づいたんだ!」


確信にちかい足取りだった。

男は街にただひとつだけ残されていた緑の公衆電話にかけこむ。


電話口でなにか話している。

口が大きく動いているのがわかった。


手元ではなにか必死にスマホでメモをしているようだ。


男が公衆電話ボックスから出ると、その後ろをついていく。


「あ、しまった!」


足元の缶を蹴り飛ばしたことで、男はこちらの存在に気づく。

男はあわてて猛ダッシュ。


「ま、待って! 何も危害をくわえない!

 俺はただ! 外に出たいだけなんだ!!」


「来るなぁーー!」


後ろを振り返りながら走る男と、

前だけを向いて走る自分。


ふたりの距離は徐々に縮まっていく。


「どうして逃げるんだよ!」


「お前は間違いじゃないか!」


「たしかに間違いは見つけられていない!

 でもあんたに損はないだろう!?」


「本物の街に間違いがあったら、

 偽物の街が本物になってしまう!!」


「はぁ!? 意味わからない!」


ついに男に追いつき、その服の裾を掴んだ。

男は派手に倒れたので逃げないように押さえつけた。


「逃げないで聞いてくれ!

 俺はあんたと同じく脱出したいんだ!」


「それはできない……」


「なんでだよ!?」


男の顔に迷いが浮かんだ。

自分が答えた結果どうなるか迷っているような顔。


「ルールじゃ間違いを話しちゃいけない。

 そんな話はなかっただろう。

 なあ教えてくれ。この街のちがいはなんなんだ!

 みんな何を見つけて脱出できたんだ!」


その言葉に男は観念したように答えた。



「お前は……お前は誰なんだよ!!

 本物の街に、お前はいなかった!!」



そう。いまだに俺は自分の名前をしらない。

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